第5話嘘か誠か
朝、誰よりも遅く起きる事になってしまった俺は、折角の記念祭に遅れて参加する形になってしまった。
「どうしたんですか咲田様。寝坊なんて」
「ワクワクして眠れなかったんだよ。気にするな」
「子供みたいですね」
「子供で悪かったな!」
昨晩のあの話が頭から離れない俺は、その事を何とか顔に出さないようにしながらも、セリーナを警戒していた。考えたくはないが、もし昨日の話が本当であるならば、今日この人が大勢集まるこの場所で、大惨事が起きてしまう可能性が否めない。
(考えたくはないけど、このまま見過ごす事なんてできないし……)
しかもそれがいつ起きるかすらも不確定。果たして俺は今日この日を楽しむ事ができるのか不安だ。
「もう、折角の祭りなのに、何しょぼくれた顔しているのよ」
記念祭を皆で回っている途中、グリアラが心配そうに話しかけてきた。
「俺そんな顔しているか?」
「丸っきり出てる。ねえシャイニー」
「はい。寝坊した事もそうですけど、咲田君ずっと様子が変ですよ」
「何か心配事でもあったのなら、妾達に相談するのじゃ。咲田がそんな顔をしていると、こちらも楽しめぬ」
グリアラに続いて、ムウナもシャイニーも同じように述べる。やっぱり誤魔化すのは難しい話なのかもしれない。けど、こんな話をしたら折角の祭りが……。
「もしかして昨日誰かと話をしていた事?」
どうしたものかと迷っているとらグリアラが核心突いた事を聞いてくる。
「そういえば妾も聞いたのう。夜中に咲田が誰かと話をしているのを」
「私もです」
どうやら小声で話してたつもりが、ほとんど聞こえてしまっていたらしい。だとしたら、やはり話すべきなのだろうか?
(どちらにせよ分かる事だし……)
都合よくセリーナもいない事だし、黙っているのはよそう。
「分かった。三人だけには話す。ただしセリーナには黙っていてくれ」
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「その話、あり得ない話でもないわね」
「そうじゃのう。誠ならば最近起きていた異変にも説明がつく」
十分後、話を聞き終えたムウナとグリアラが口々にそう言った。
「異変?」
「実は最近、また四年前と同じ事象が起き始めていると噂が立っていたの。あの闇の牢獄とまでは言えないけど、また黒い何かが湧き出しているの。現に私達もそれを目視しているの」
「闇の牢獄が? じゃあまたこの世界は……」
「あくまで可能性の話じゃ。でも咲田が言う通り、セリーナの体がそうであるなら万が一の事が起きるかもしれぬ」
「今日は人多いですから。でもセリーナさんはかなり忙しいので、なかなかそういう事を起こす時間なんてないと私は思うんですけど」
「俺もそれは考えたよ。でもだからこそ、隙がないと思わせて何かが起きる事もあり得る」
「でもそれは、多分セリーナの意志で行われないと思う。あの体に眠る別の何かが、起こすかもしれないわよ」
「別の何か、か」
セリーナがそういう事をするとは誰も思っていない。であれば、誰が起こすのだろうか。あの身体がセリーナの物でないならば、起こすのはマリアーナ?
(でも何か変なんだよな)
あの二ヶ月の中で、色々な会話をしてきたが別に誰もセリーナの容姿に違和感があるなんて会話はしなかった。もし人が丸っきり変わっているなら、怪しまれるに決まっている。
「でもその話、変なのよね。別にセリーナの身体は初代のものになったとか、そんなの全くなかったし、むしろ咲田のあの身体こそが初代のものだったのよ」
「やっぱりそうなのか?」
「確かにそうですね。咲田君の身体こそが初代そのものでしたから」
ではあの話は嘘になる。という事は、別の誰かが勝手に歴史を語ったのか? でも誰が何のためにそんな事を……。
「そういえば一つ思っんだけど」
「どうしたの?」
「そもそも俺が一度この世界で死んで、元の自分の体に戻った時、初代の身体ってどこに行ったんだ?」
「そういえば……」
益々増える謎。もし今回の騒動の犯人を考えるとしたら、恐らく声の主だろう。あれがどこまで本当で、どこまでが嘘なのかは分からない。
「さっきの話で思い出したんだけど、水の姫巫女が自殺した場所は本当にウォルティアの海底地下ではあったらしいわよ。ただ、ちゃんと見つかったけどね」
「じゃあヒッソリ死んだのは本当なのか。……ん?」
この話と似たような話をどこかで聞いた事があるような……。
『それも呪いみたいなもの。我もそうであったように』
ふとあの声の主の話を思い出す。確か彼女は水の姫巫女の死体が消えずにずっと地下で眠っていたという話をした時に、我もと言っていた。
(もしかして……)
「分かったかもしれない」
「何が分かったの?」
「俺に話しかけてきた声の主、そして事件を起こすであろう本当の犯人が」
「それは本当か咲田」
「ああ。だからムウナに一つ聞いておきたい事があるんだ」
「妾に? 何じゃ」
「お前確か前に初代大地の姫巫女がずっと行方不明だって言っていたよな」
「そんな話、確かにお主にしたのう。未だに行方不明じゃが、妾がなっておる以上もう生きている可能性は零に等しい」
「サンキュー、それが分かればいいや」
「それで、何が言いたいのよ咲田は」
「今から会いに行くんだよ。その大地の姫巫女に」
「なぬ?! お主場所が分かっておるのか」
「ああ」
まさか四年も前に聞いた話が、今になって繋がる事になるとは思ってもいなかった。でもそのおかげで、
(セリーナを殺さずに済む)




