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第61話残された時間の中で

 二度目の深い眠り。目が覚めるのかも分からない眠り。でも何とか今回も目を覚ますことができた。


「よかった、咲田君。目を覚ましてくれて」


 ぼやけた視界の中に映ったのは、心配そうに俺を見ているアライア姫とセリーナだった。


「アライア姫、俺どのくらい寝ていましたか?」


「ほぼ一日よ。皆目を覚まさないんじゃないかと心配してたから、後で声かけてあげて」


「はい」


 ほぼ一日眠っていたという事実は、自分の命がもう長くない事を実感させた。分かっている、これが神様が与えてくれた余生であることを。だから無限にあるわけでもないし、いずれその時が来るのも分かっている。だが目を背けてはいけない。自分は一度死んでいるという事実から。


「巫女様、あまり無理をしない方がいいですよ。巫女様の残りの命が短いのも皆分かっていますから、少し休まれた方がいいですよ。これ以上皆さんに迷惑をかけない為にも」


「それは分かっているけど、時間がないのを分かっているだろ? 俺だって呑気に休めない」


「でも巫女様、またいつ倒れるか分からないんですよ? そして目覚めなくなることだってあり得ない話ではありません」


「だけどな……」


「今日は素直に休みなさい。今あなたが外に出ても同じことを言われるわよきっと」


「そこまで言うなら……」


 本当は今すぐにでも手伝いに向かいたいのだが、そこまで言われたら俺も引き下がるしかない。今日は言葉に甘えて、休むとするか。


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 休むと言っても、寝たきりというのは退屈なので、手伝わないことを条件で、皆が取りかかっている例の作戦の準備会場を見に行くことにした。


「うわ、ライブ会場みたいじゃん。まあ、歌姫っていうくらいだから、それらしい会場は必要なのかもしれないけどさ」


「これはグリアラ様たっての希望なんです。折角歌を歌うならこんな感じにしたいと」


「グリアラがねえ…」


 そのグリアラ発案の会場は、ライブ会場そのものだった。客席とかはないとはいえ、それらしい雰囲気はでていた。


「何かあいつがそんな提案するなんて、似合わないな」


「本人が目の前にいるのに、随分と失礼なこと言うのね咲田は」


「あ、グリアラ」


「あ、じゃないわよ全く。また倒れたっていうから心配してたのに、心配して損した」


「悪かったって。でもなかなかいい感じじゃん」


「皆が頑張ってくれているおかげよ。咲田も動けるようになったら手伝いなさいよ」


「明日には復帰するから、待ってろよ」


「待ってる待ってる」


 作業があるグリアラと別れ、俺は改めて会場を見て回る。回りながら他の人達とも話していたのだが、やはり皆心配してくれていたらしく、色々と声をかけてくれた。俺はそれが嬉しくてたまらなかったが、同時に寂しさも湧いて来た。

 恐らくこの作戦が、人生で最初で最後の作戦になる。そしてこれが終わったら恐らく、いや間違いなくこの世界を去る。それは死という形なのか、それとも何とか生きたままなのか、今は分からない。


「そうか無事じゃったか。あのまま目を覚まさなかったら、妾はお主を許さぬところじゃった」


「まあまあムウナちゃん、そんな事を言わないでくださいよ。こうして咲田君は無事だったのですから」


 全員に一通り挨拶が終わり、最後に残ったのはムウナとシャイニー。二人は会場の飾り付けをしていた。人が来るわけでもないのに、これは必要なのか少し疑問だがそこは黙っておこう。


「でも悪かったな二人とも、心配かけて」


「何を言っておる。妾だって散々迷惑を掛けたのじゃ。何も謝る事はない」


「そうですよ。咲田君には色々とお世話になったのですから」


「何かそんな事言われると、俺も恥ずかしいな」


 俺自身何かしたとは思っていなかったのだが、ここまで言われると少し恥ずかしい。悪い気はしないからいいんだけど。


「ありがとうな二人とも」


「れ、礼なんていわなくてもいいですよ。とりあえず無事だったからよかったです」


 久しぶりに慌てた様子を見せるシャイニーを可愛らしく思いながら、俺は二人と別れる。


(ん?)


 だが途中で俺はある事に気がついた。


(ちょっと待てよ)


 確かに最初、シャイニーはいつもおどおどした様子ばかりを見せていた。最近その癖がなくなってきたなと思ったけど、ごく最近こんな感じで少しおどおどしていた人物が一人いたような……。しかも結構シャイニーと似ているなって思った事も覚えている。


(いや、そんなまさかね)


 でも確かシャイニーは彼女はずっと引きこもっていると言っていた。それが自分のせいだとも。もし俺が今考えたことが本当なら、確かめておかなければない。


(よし、早速呼んでみるか)


 俺は再びその人物の所へ行き、少し話したいことがあると呼び出した。


「ごめんな作業の途中なのに呼んだりして」


「一段落ついたところだったので、大丈夫ですけど、その、お話とは」


「ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ」


「何でしょうか?」


 俺が呼び出したのは、ムウナの救出の際に一緒にいた人物。


「もしかしてあんた、妹いたりしないか? ライノ」


 光の歌姫ライノだった。

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