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第59話悲しみ残したまま

「咲田に、ムウナ……よかった無事で」


 俺達の声に反応したスウは、ムウナの姿を見て安心したかのようにその場に倒れこんだ。


「スウ、スウ!」


 俺の背中から飛び降りるような形で、ムウナは彼女の元へ急ぐ。とりあえずスウはムウナに任せて、俺は大地の歌姫を相手する。


「あんたが大地の歌姫か?」


「そうですわよ。わたくしは大地の歌姫ミラ。あなたがそこの彼女が言っていた異世界の人間ね」


「ああ、そうだ。だからどうした?」


「わたくしその子に言われたんですわよ。あなたに協力してほしいと」


「スウ、お前……」


「私は最初、反逆者の話などほとんど聞く耳持たずでしたわ。それでも彼女は必死に私に訴えかけてきましたわ。ずっと」


 ずっとということは、あの大きな揺れの後からという事だろうか? そうだとしたらもう既に、一時間以上は経っている。その間ずっと彼女は一人で戦っていたのか。ムウナの無事も祈って。


「あなた、世界を元に戻す為に私の力が必要なのでしたわね」


「ああ。今地上は闇に包まれて、光の一つもない。そこから光を取り戻すには、四人の歌姫の力が必要なんだ。あんたも含めてな」


「全く自業自得ですわよ。私達を地上から追い出した挙句、また世界を闇にしてしまうなんて。本来なら協力する気なんてありませんでしたが、この大地の歌姫、協力してあげることにしましたわ」


「え? いいのか?」


「いいも何も、私の力を必要としているなら協力いたしますわ。今回だけ特例ですわよ」


「ミラ……」


「それに、私も思うんですわよ。いつまでも拒絶していたって変われないって。そこの彼女が教えてくれましたわ」


 スウを見ながらミラはそう言った。その彼女は今にも息絶えそうで、ムウナが抱きかかえながら彼女の名を呼んでいた。


「スウ! まだ死んではいけぬ。お主にはまだ伝えたいことがあるのじゃ」


「情けない顔……しているんじゃないわよ全く。それじゃあこの先……大地の姫巫女やっていけないわよ……」


「何を言っておる。お主が大地の姫巫女じゃ。妾はもう普通の人間じゃ」


「だったら……私が……今あなたに継承するわ。大地の……姫巫女を」


「駄目じゃスウ! お主にはまだ生きてもらいたい! 妾の友として」


 涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらも、必死に言葉を出すムウナ。友という言葉を聞いたスウは、少し微笑んだ後、


「やっと……なれたのか。私達……友達に……」


「やっとではない! 気づいていなかっただけで、妾達はずっと友だった。それはこれからもずっとじゃ。だから……」


「よかっ……た」


 安心したかのようにゆっくりと目を閉じる。そして彼女は、二度とその目を開くことはなかった。


「す、スウ? 返事をしておくれ。スウぅぅぅ」


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 その後、大地の歌姫のおかげもあってか、何も起きることなく地下を出た俺達。だが無事にとは言えなかった。ムウナは大切な友を失い、俺も大切な仲間を失ったという代償はあまりにも大きく、皆と合流してもしばらく言葉が出なかった。


(これが運命なのか? いや、絶対に違う。本当ならスウは死ななくて済んだ。それなのに、どうして……)


 ウォルティアに帰るのは明日になり、今日はグリーンウッドで休むことになったのだが、ショックが大きすぎて休むなんて事ができなかった。


(ムウナ大丈夫かな)


 ようやく友達になれたのに失うなんて辛すぎる。立ち直るのに、どれだけの時間を要するのだろうか? 俺は彼女にどう接すればいいのだろうか?


 分からない。


 何も分からない。


 彼女の痛みも。


 これからの事も。


 そう、今の俺にはどうすればいいか分からない。


 コンコン


「はい?」


 扉をノックする音が聞こえる。誰だろうか?


「咲田おるか?」


「む、ムウナ?!」


 俺は慌てて部屋の扉を開く。開いた先には、いつものように元気なムウナがいた。


「少しお主と話がしたい。部屋に入って良いか?」


「あ、ああ。いいけど、大丈夫なのかお前」


「何のことじゃ?」


「えっと、その……」


 かなり落ち込んでいると思っていたのが、いつも通りのムウナで思わず言葉を失ってしまう。


「と、とにかく中に入れよ」


 何も言葉が思いつかないので、彼女を部屋に招き入れる。


「何じゃ咲田、もしかして妾が落ち込んでいるとでも思っておったのか?」


「当たり前だろ。正直な話、俺だって落ち込んでいるんだから」


「お主の心は弱いのう。もっと強くならんと」


 笑顔でムウナはそう言った。だがその笑顔を見て、俺は気がついてしまった。


「何だよ、お前の方がもっと弱いじゃんムウナ」


「お? 負け惜しみか。情けないのう」


「負け惜しみじゃないよ。お前の顔に出ているんだよ」


 ムウナは我慢しているのだと。彼女は笑ってはいるが、その笑顔は引きつっている上、目からは大粒の涙が流れていた。


(全く無茶しやがって)


 泣きたいなら先に言えよ。


「な、な、何を言っておるのじゃ。わ、わ、妾はどうてことないぞ」


「無理すんな。涙を流している人間が、何もないわけないだろ」


「こ、こ、こ、これ、は……えっぐ」


「涙を我慢しても何も意味がないぞ。泣きたい時は、泣け」


「そう……うわぁぁぁん」


 泣きながら俺に飛びついてくるムウナ。俺はそれをしっかりと受け止めてあげた。


「ごめんなムウナ……スウを……助けてやれなくて……」


 そして俺も、もらい泣き、いやずっと我慢していた涙を流す。もっと早くに気づけば、こんな事にならなかった。だからムウナには申し訳なかった。無事に帰るって決めたのに、一人の命を守れなかったことを。


「そうたぁぁぁあ」


「ごめんな、ごめんな」


 こうして俺達のムウナ救出作戦は、悲しみだけを残したまま終わりを告げたのであった。

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