第55話居場所を与えてくれる人
シャイニーとライノにその事を説明し、スウの案内で地下の国へと向かうことになった俺達。準備を整えた後、スウを含めた全員が集まり、いよいよ出発の時。
「よし、大体の準備も整ったし行くか」
「その前に一つ、確認したいことがあるんだけど」
と言ったのはスウ。
「どうかしたか?」
「あの子、ムウナはもう大地の姫巫女でもないけど、どうして救いたいの? 私から頼んだとはいえ、どうしても分からないの」
「何だよそんな事か。それはお前自身が分かっているんじゃないのか?」
「私自身が?」
「お前がムウナを助けたいのは、お前にとって彼女は大切な友達だからだろ? ムウナは何だかんだ腐れ縁とか言っていたけど、お前自身はどうなんだって話」
「私は……」
「じゃあ行くとするか」
答えを与えなくていい。だって彼女自身がその答えを分かっているはずだ。友達だから助けたい。それ以外の理由はない。あとはそれに本人が気づくだけでいい。
「咲田、あなたも随分言うようになったわね。元水の姫巫女だとは思えないわよ」
「それは嫌味で言っているのか?」
「まさか。最初より成長しているなって思っただけよ」
「そう言ってもらえるなら、こっちも嬉しいよ」
さて、前置きもここら辺にしておいて、早速向かうとするか。地下の国ロクランスタへ。
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
「ううっ……」
暗い。
何も見えない位暗い。
「そうか、ここは……」
でもその場所に見覚えがあった。罪を犯した者が閉じ込められる場所。今妾はそこに囚われている。
(最初はうまく行くと思ったのじゃが……)
自分が地上に上がる際に使用したあの道を使って、再びこの地へと戻ってきた所までは良かったのだけど、潜入してすぐに見つかってしまい、案の定捕まってしまった。大地の姫巫女であった以上、正体を隠そうにも隠し通せるわけがなかった。でもこれ以上、咲田達を巻き込むなんてできなかった。自分自身の手で解決しようと思っていた。それなのに、結果的に捕まってしまうなんて意味がない。
(咲田……)
昨日彼の話を聞いて、少し驚いてしまった自分がいる。両親がいない、それだけでもどれだけ辛い事なのか、
自分自身もそうであるから、痛いほど分かっていた。
そもそも自分は地上の人間だった。だけど物心がついた頃には地下での生活になっていて、両親はどうしたのかと聞いても誰も答えてくれなかった。
大地の姫巫女になったのだって、いつかは親に会えるのではないかと願っての事。既に死んでしまっている形での再会は、いいものではないと分かっていても、いつかは会えるだろうと信じていた。
だから長い時間をここで過ごして、先日ようやく外に出れたのに、裏切り者扱いの上処刑だなんて、いつ間違えたことをしたのだろうか。
(妾はただ……)
自分の居場所を見つけたかった。家族という居場所が。だから今そんな自分に居場所を与えくれる一人の人間にもう一度でいいから会いたい。勝手な事をしておいて偉そうなことを言える立場じゃないのは分かっていても、それでも……。
「咲田、助けて……」
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
クランスタへと繋がっている道は、ほぼ一本道になっていて初めて来る俺でも迷わない構造になっていた。
「本当にこの先なのか?」
「もしかして疑っているの?」
「完全には信じ切れていないかもな。俺だけに限ったことじゃないけど」
「色々言っておいてそれって、酷いわね。でもあの子の命が危ないのは事実」
「お前自身では何とかできないのか?」
「出来たらとっくにしてる。けどまだ私は大地の姫巫女になったばかりだから」
「そこまで国を動かせないと」
それほど大きな国なのかそこは。でも一番偉いのは大地の姫巫女のはずなのでは? そう疑問に思いながらも道を奥に進んで行くと、少し離れた先に微かにだが光が漏れているのが見える。どうやら出口に辿り着いたらしい。
「ねえ咲田」
「どうした? グリアラ」
「これから私達はムウナを助けに行かなければならないわけだけど、大地の歌姫の方はどうするの?」
「そういえばそうだな。そもそも存在するのかすら危ういけど」
「大地の歌姫? 私思い当たる節はあるけど」
「本当かスウ。だったらそっちも案内してほしいんだけど」
「協力はするけど、一つ約束してほしい事があるの」
「約束?」
「絶対にムウナを助けて。あの子はきっと助けを求めているから」
頭を下げて頼むスウ。その姿に驚きはしたものの、同時に一安心した。これで彼女は裏切らないと確信したからだ。こんなに友達想いの巫女が、裏切るなんて考えられない。
(どうやら、答えは見つかったんだな)
「そんなよ当たり前に決まっているだろ。俺達の目的はそもそもそこにあるんだから」
「ありがとう」
この後ムウナの救出組と大地の歌姫探し組に六人を分けて、俺達は地下の国ロクランスタへと足を踏み入れた。
「ここが、ロクランスタか」
「ひ、広いわね」
「伊達に長い間地下暮らししていたわけじゃないのよ私達は」
そこはまさに一つの空間とも呼ぶべき場所。もっと言うなら一つの世界だった。
「この先にムウナがいるんだな」
「道はさっき教えた通りよ。絶対に約束守ってね」
「ああ、分かっている」
(破れるような約束じゃないからな)
いよいよ俺達の命をかけたムウナ救出戦が幕を開ける。




