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第52話喧嘩するほど

 咲田が倒れて、シャイニー達が慌てている頃、グリーンウッドでは未だに大暴れする二人がいた。


「はぁ、はぁ、いい加減倒れなさいよ。クスハ」


「そっちこそ」


「お主らは何でそこまでして喧嘩するんじゃ。全く分からぬ」


 かれこれ二時間以上に渡る戦いは、両者ボロボロになりながらも決着つかず。それをずちどと見ているだけのムウナは、呆れてものが言えなかった。


「何で……いつもそうやって、喧嘩っ早いのかしらね。あなたは」


「そっちこそ……」


「次で……終わらすわよ」


「ええ」


 最後の一撃と言わんばかりに、相手へと向かう両者。二人とも武器は持っておらず、最後の一撃を全て己の拳に託していた。


「終わりよクスハ!」


「そっちこそね、グリアラ」


 お互いの拳が交差しあい、放たれるクロスカウンター。二人の拳は相手の拳を捉え、そして攻撃を食らった両者はその場に同時に倒れた。どうやら決着はついたらしい。


(いつからボクシング漫画みたいな展開になったんじゃ? この戦いは)


 やれやれとため息を吐きながら二人に歩み寄るムウナ。


「お主達はそこまでするくらい、不仲だったのか?」


 そして疑問を投げかけた。どう見ても仲がいいように見えない二人なので、ムウナは思わずそんな言葉を発してしまった。


「何言っているのよムウナ。これはクスハを正気に戻す為のものに決まっているじゃない」


「正気って、彼女は何かに囚われていたのか?」


「そうよ。そうでなきゃ私だって、ここまで本気でやらないわよ」


「そんな事考えているようには、妾には見えなかったがのう」


 会うなり始まった喧嘩だったので、果たしてグリアラがそこまで考えていたのか疑問であるが、あえてそれをムウナは聞かなかった。


「いたた、もう何でそこまで本気でやるのよグリアラ」


 そんな会話をしている間に、しばらく意識を失っていたクスハが目を覚ます。お互いかなり怪我しているのに、よく生きていてられたものだ。


「クスハの方が本気だったでしょ? 途中から正気に戻っていたくせに」


「あー! 分かっていてやったのね。許せない」


「もう一戦やっとく?」


「えーい、二人ともその辺にするのじゃ!」


 その後二人の喧嘩は、倒れた咲田をシャイニー達が連れてきても続くのだった。


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 目が覚めた。


 もう無理かと思っていたが、目を覚ませた。


(こういう所だけタフなんだな、俺って)


「目を覚まされましたか、咲田さん」


 ベッドにでも寝かされているのか、視界の端にライノの姿が見える。


「ここは?」


「グリーンウッドにある宿の部屋です」


「グリーンウッド?」


 どうりで見覚えがあるなと思ったら、ここって収穫祭りの時に宿泊した宿屋か。


「え?! それ本当?」


「はい。森の姫巫女さんと歌姫さんにもお会いしました私達」


「そっか。何とかなったんだな二人」


「ただ、少し問題がありまして」


「問題?」


「実は私達が到着した時、お二人はかなりボロボロの姿でした」


「直前まで戦っていたからだろ? そのどこに問題が?」


「それがですね」



「俺はここまで馬鹿な人間を見たのは初めてだよ。特にグリアラ!」


「はい」


「ムウナを守るどころか、放置するとはどういう事だ! 呆れてものが言えないぞ」


「だって……」


「だってもなにもあるか!」


 三十分後、事情を知った俺は二人揃って説教。丸一日喧嘩しているとか、どれだけ仲悪いんだよ。


「まあ、何とかなったならいいけどさ」


「ツンデレかな」


「ツンデレですね」


「ツンデレじゃな」


「誰がツンデレだ! いつそんな言葉を覚えたんだよ」


 とにかくこれで光の歌姫と森の歌姫については一件落着。


「さて、次なんだけど……」


「その前に、咲田君に私達からお話があります」


「何だよシャイニー、改まって」


「咲田君、この前あなたに起きた事説明してほしいんです。何故あなたが倒れたのかを」


「何でって、それは……」


 俺の残りの命が、確実に少ないからだと思う。


 と口に出すことができなかった。何でかは分からないけど、それで余計な心配をかけたくなかったからだ。


「駄目ですよ咲田君、隠し事は」


「だから大した事ないってば」


「近づいてるのね。終わりが」


『え?!』


 グリアラの言葉に、他の三人が驚きの声を上げる。そういえばムウナは細かいところまで知らなかったっけ。


「終わりが近づいているってどういう事じゃ咲田。お主は元の体に戻っただけじゃないのか?」


「大体はあっているよ。けれど、まだ話していないことがあるんだ。歌姫二人にも聞いておいてもらいたいんだけど」


 俺は全ての経緯を三人に話した。


「それは……本当なのか?」


「ああ。そしてこれは、まだ誰にも話していなかったんだけど」


 一息を入れた後、俺は言葉を続けた。


「俺はもう長くはもたない。アライア姫にも言われたんだけど、俺は一度死んでいる身だから、いつこの体が終わりを迎える。勿論その魂も終わりを告げるんだ」


「そんな……まだ会ってそんなに経っておらんのに」


「元から俺はこの世界の人間じゃないんだ。帰るべき場所もある。だから許してくれ」


 もうすぐ本当の別れを迎える。それは寂しいけれど、向日葵達に一度だけでも会いたい。


(でもその前に、この世界を救わないとな)


 その後を考えるのは、世界に光が戻ってからだ。


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