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第47話裏切り者

 翌日の早朝、準備を整えた俺達はセリーナ達に見送られウォルティアをでた。


「絶対帰って来てくださいね巫女様」


「大丈夫だって。あと、もう俺は巫女じゃないんだから、その呼び方やめろよ」


「つい癖で呼んじゃうんですよ。とにかく約束ですからね」


「ああ。じゃあ行って来ます」


「行ってらっしゃい」


 これから少々長旅になってしまうが、きっと大丈夫だ。いざとなれば、三人がいるし、俺だって簡単には倒れられない。


「さて、あれ以来外に出るのは初めてか」


「咲田さんはそうなりますね。私達は少しだけ外に出ましたから」


「ちょっと始めて見る人は驚くかもね」


「そんなに酷いのか?」


「それはもう、酷いってレベルじゃないのじゃ」


 城門の扉が開き、いよいよウォルティアから外へと出る事になる。その先で俺を待ち受けたのは……。


「な、なんだよこれ……r


 一面闇に飲み込まれてしまった世界。一言で表すなら魔界。自然も何も見当たらないうえに、空も黒ずんでいた。


「これが闇の牢獄……」


「危険な所が沢山あるから、気をつけて歩くのよ」


「ああ」


 そして俺は、その魔界へと足を一歩踏み入れた。その瞬間、世界の空気が変わった。ウォルティアの時には感じることがなかったこの感覚。まさにそこは異次元が広がっていた。


「人がいないとはいえ、怖いな」


「地形に大きな変化がないのが不幸中の幸いよ。道さえ覚えていればたどり着けるし」


「それでも距離はかなりのものですよ。片道だけでも丸一日は使いますから」


「お主らは大変じゃのう。妾は何せ地下に住んでおるから、長い距離は歩かなくて済むからのう」


「そういえば、そうだよな」


 大地の民は地下に住んでいるから、地形の変化やこういった事象の影響も受けにくい。だからある意味では安全な場所に住んでいることになる。


 ん?


「もしかして地下に住んでいる人って、今回の影響受けてないんじゃないか?」


「言われてみれば、そうね。どういう仕組みになっているか分からないけど、それはあり得ると思う」


「じゃあそこへ行けば、もう少し移動手段が簡単になるかも」


「何じゃ、妾の国へ行くのか? 妾は構わぬのじゃが、他の者がどう思うかが問題じゃ」


「それはそうだ。だからこの際過去のいざこざも解決させる」


「どうして?」


「よく考えてみろ。いざこざが残ったまま大地の歌姫に協力を得られると思うか? いくらムウナの友だとはいえ、簡単にはいそうですか、なんて言えないだろう。何せ大地の民を地下に追いやったのは他でもない俺達なんだから。だから協力してくれムウナ」


「妾は勿論協力するのじゃ。しかし本当に大丈夫かのう」


「姫巫女が三人もいるんだ。話くらいは聞いてくれるはずだよ」


「そうだと良いのじゃが……」


 ムウナが不安がる気持ちも何となく分かる。何せ彼女自身が大地の民であるがうえに、皆が地上の人達をどう思っているのか知っている。だから不安なのだろう。この先何か起きてしまうのではないかと。


「とにかく今は、大地の民が住んでいる地下へ向かうぞ。時間があるわけでもないからな」


 世界を救うとか偉そうな事を言っていたけど、肝心なことを忘れていた。確実に協力を得られるかなんて分からない。それは他の国だって言えることだ。果たしてこの先うまくいくのだろうか?


 一抹の不安を抱えながらも、俺達は最初の目的地へと向かうのであった。


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 ウォルティアを出発してから二時間後。案内をしてくれていたムウナが突然足を止めた。


「どうかしたか?」


「おかしいのじゃ」


「おかしいって何が?」


「もうすぐ妾の国への入口が見えてもおかしいはずなのに、何もないのじゃ」


「何だって」


 国への入口が消えている? 闇に飲まれたのが影響なのか?


「そんなの決まっているでしょ。あなたはもう、大地の姫巫女でも何でもなくなったのだから」


「え?」


 どこからか声が聞こえるが、姿が見えない。けれどムウナはその声がどこから聞こえているのか、分かっている様子だった。


「その声はスウじゃな。どこにおる?」


「教えらないわよ。この裏切り者が」


「裏切り者じゃと? 何故妾がそうなる」


「あなたは収穫祭に無断で参加し、そして地上の人間と仲良くなった。恨みを忘れた者が裏切り者と呼ばれてもおかしくないでしょ?」


「お主らがいつまでも地下に引きこもっておるのが悪いのじゃ! 地上の者全てを悪として、ありとあらゆる物を拒否し続けた。じゃから大地の民は衰退する一方、何故それが分からぬ」


「何も分かっていないのはあなたの方よ。大地の姫巫女になったからって、調子に乗るんじゃないわよ!」


「まあまあ、お二人とも。喧嘩はその辺にしてもらえないかな」


 何か喧嘩が酷くなり始めたので、俺は止めに入る。姿が見えない相手に話しかけるのは、何ともシュールな光景だ。


「誰よあなた。声からすると男みたいだけど、他人が口を挟まないでくれる」


「だったらまず、その姿を見せてくれないか? いつまでも姿隠しているのも、卑怯だと思うよ」


「私が卑怯? これだから地上の人間は……」


「いいから出てこい。こっちもいつまでも言われっ放しはいい気分じゃない」


「もう、面倒臭いわね。分かったわよ」


 以前ムウナが出てきた同じ容量で、声の主は姿を現す。彼女は何故かムウナと同じ巫女服を着ていた。


「その格好、まさかお主」


「ええ、そうよ。私は新しい大地の姫巫女になったのよ。私は大地の姫巫女スウ。以後お見知り置きを」



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