表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/100

第43話終局への前奏曲

「どういう事だよ! 何でミスティアの身体がそこにあるんだよ」


「今はミスティアではなく水の姫巫女マリアーナと呼んでほしいわ。歴代の姫巫女があまりに役に立たなかったから、私自身が二度目の姫巫女にさせてもらったのよ」


「二度目の姫巫女にだと!」


 水の姫巫女マリアーナ。


 初代水の姫巫女。そしてあの声の主。その彼女が今俺の目の前にいる。そもそも彼女は既に何百年も前に死んでいる。それなのに、何故その魂は残っていた? コロナもそうだが、この世界は色々変だ。分かっていたこととはいえ、死人が生まれ変わり姫巫女の使命を課せられる。これは一種の呪いみたいなものだろうか?


「あなたがまさかその身体で目を覚ますこと自体が、本来あり得ないはずなんだけど、まあそこはいいか。これで私は元の身体に戻ってこれたんだし」


「何一つよくない! その身体を返してもらおうか」


「あら? あなたは散々元の世界に戻りたがっていたのに、どうしたのかしら。その身体なら余計なことしなくても、手順さえ踏めば自分の世界へ戻ることはできるのに」


「俺はこの世界をこのままにして、元の世界に戻るなんてできない」


「その身体で何ができるというのかしらね」


「できるさ。お前とは違ってな」


 ふと扉が開けられる音がする。誰かがこの部屋に入って来たのだろうか?


「一応監視していたけど、まさかこんな事になるなんて、思いもしなかった。でもやり過ぎたことは見逃せない。そうよね水の姫巫女マリアーナさん」


「あらお久しぶりじゃない。アライア姫」


「アライア姫、様」


 入ってきたのはアライア姫だった。水の姫巫女の名残があるせいか、思わず様を付けて呼んでしまったが、多分問題はないだろう。


「春風咲田君よね? こうして会うのは初めてかしら」


「そうですね。いつも会っていたのはあくまでミスティアですから」


「前にも言ったけど、あなたの身体は最近までずっと保管されていた。けれど、彼女がそれを崩して、あなたの身体を元あるべき身体に戻してしまった」


「してしまったって、どういう意味ですか?」


「いずれ分かると思う。それよりもマリアーナさん、あなたは水の姫巫女に戻ってまで何をしようとしているの?」


「簡単な事よ。この地下に眠るあれを、もう一度起動させて、今度こそ私がこの世界を手に入れるの」


「何だと!」


 あんなに起動させるのを嫌がっていたのに、何故それを自ら起動させようとしているんだ?


(いや、ちょっと待て)


 彼女は起動させるのを嫌がっていたのではないのでは? 止めようとしていたのは、自分の手で起動させて、世界を今度こそ自分のものにしたいから。そしてもう一度水の姫巫女として元の自分に戻りたかったから。だから全ては時間稼ぎに過ぎなかったということになる。

 でも彼女は知っているはずなんだ、それを起動させた時、何が起きてしまうのかを。それなのに何故?


「何か色々と考えているみたいだけど、もうそんな時間も猶予も与えない。今から私は計画を実行する」


「なっ」


「やめなさい! マリアーナさん」


「さようなら、哀れな人達」


 突然水を纏ったマリアーナは、そのままその場から姿を消した。


「アライア姫様!」


「ええ。すぐに向かうわよあそこに」


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 一刻を争う事態が発生し、慌ててマリアーナが向かったであろう場所へ急ぐ俺とアライア姫。その途中、セリーナとすれ違った。


「アライア姫様、どちらへお急ぎに。あとその隣にいる方は?」


「セリーナ、急げ。緊急事態だ」


「何故私の名前を?」


「とにかく行くぞ!」


「え? あ、な、何をするんですか!」


 半ば強引とはいえセリーナも連れて行く。人は多い方がいいだろう。


「で、ではこの方が水の姫巫女様の中の方なんですか?」


「ああ。春風咲田だ。改めてよろしくなセリーナ」


 道中、現場を理解してもらう為にもセリーナに起きたこと全てを話した。相変わらず中の人呼ばわりしているけど、今は気にしない。


「咲田さんって思っていた以上に男前なんですね」


「お前は俺を何だと思っていたんだよ」


「うーん、変態でしょうか」


「誰が変態だ!」


「だって普通はあり得ませんよ。女の体に生まれ変わるなんて。余程前世では欲求不満だったんですね」


「お前は俺の何を知っているんだよ……」


 呆れてものが言えない。そもそもこうなったのは、俺のせいではない。全ては不可抗力の中で起きた出来事に過ぎない。べ、別に欲求不満だった訳ではないからな。


 本当だよ?


「でも……その、よかったです」


「何が?」


「あの日、皆が闇に飲まれどうなるかと思いました。巫女様も行方不明でしたし、他の皆様もあれから会っていないですし、心配ばかりの毎日だったので、こうして巫女様がもどってこれただけでも私は嬉しいです」


「セリーナ……」


「おかえりなさい、巫女様」


 そうか、やはり心配してくれていたんだ。あれからどれくらい時間が経っているのかは分からない。けれど恐らく彼女はずっと俺の事を心配してくれていた。だからほんの少しだけ照れ臭くなった。


「まあ巫女様が男になってしまったのは残念ですけど」


「今までの雰囲気台無しだよ!」


 折角いい感じで締めようと思ったのに。


「二人とも再会を喜ぶのはいいけれど、着いたわよ」


「え? あ、本当だ」


 セリーナとくだらないやり取りをしている間に目的地へと到着。本来なら閉められているはずの扉は、鍵の持ち主が現れ、開かれてしまっていた。


「この先にマリアーナが……」


 止めなきゃいけない人物がこの先に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ