第28話悪夢の始まり 邂逅の章
その魂が向日葵のものだと認識してしまった俺は、彼女に付いていくことに。
その道中、
「一つ聞いていいですか?」
「いいよ」
「どうしてあなたは、ここまでして世界を変えようとするのですか?」
「それが運命だからだよ」
「運命?」
「数百年前、この世界は一度滅びかけてしまった。けどそこから人類は立ち上がり、何とか再生しようとしたけど何も変わっていない。だったらボクがこの世界をもう一度作り直して、最初からやり直せば解決する。だからボクは今こうして君を連れてある場所へ向かっているんだよ」
「周りの意見を聞かずに、勝手に世界を変えようだなんて間違っています」
「だからいつまでもこの死に損ないの世界で生きるの? だから世界は何一つ変わらないんだ。君にもいつか分かる日が来るよ」
(そんなの分かりたくもないよ、俺は)
俺はこの世界の住人ではないから、数百年前の惨劇とか詳しくは知らない。水の姫巫女についてだって同じ事は言える。だけど、こいつが言っていることは納得できない。勝手に世界を変えるとか、なんだとか言っているけど、人の言葉を聞かずして何が世界だ。そんなのただの自己満足に過ぎない。
「何を考えているのか分からないけどさ、もう到着したんだけど」
「え?」
ずっと下に顔を向けて考え事をしていたから、到着したことすら気づいていなかった。けど顔を上げた先にあったのは、大きな扉。真ん中には何かをはめ込めそうな穴。一体この先に何が眠っているのだろうか?
「さあ出してよ。この扉を開く為の鍵を」
「鍵? 何のことですか?」
「とぼけなくていいよ、ほら早く」
「いや、ですから私そんな物は……」
ドックン
何を言っているか分からず否定し続けると、突然心臓がバクバクしてきた。あれ? さっきまで何も分からなかったはずなのに、急に頭の中に何かが……。
「中の君は知らなかったみたいだけど、身体は正直なんだね」
「だ…め…」
(え?)
「駄目じゃないよ。君にしかできないことなんだから」
「あれは……だめ……」
俺なんにも喋っていないのに、勝手に口が動いてしまう。
「もう、そこまで言うなら自力で!」
ラファエルは俺に触れようとする。だが
「きやっ」
何かに弾かれたかのように後退してしまう。
「これだけは……誰にも触らせない」
「何? 何が起きてるの」
謎の力を発揮した俺(水の姫巫女?)は、更なる攻撃を加えようとするが、その前にラファエルが闇の中へと消えていってしまった。
(何なんだ今のは…)
突然起きたことに当事者である俺も驚きを隠せない。とにかく助かったのならいいんだけど、今の声は何だったんだ?
(セリーナ達が心配だし、一回戻るか)
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部屋に戻ると、先程ラファエルによって捕まっていた向日葵の魂が、行き場所を探して彷徨っていた。
「向日葵?」
試しに声を出して名前を呼んでみる。するとその魂は俺の声を頼りにこちらへとやってきた。
(というか人の魂って見えるか普通)
「その声は咲ちゃんなの?」
「そうだよ。俺は今ここにいる」
「やっと、やっと私会えたんだね」
「まだ完璧な再会とは言えないけらやっと会えたんだな」
「よかった……咲ちゃん、生きていたんだ……」
ようやく果たされ再会。それはまだ正式なものではないけど、今はそれでいい。
「雄一も元気か?」
「うん。咲ちゃんがいなくなってしばらく元気がなかったけど、今はすっかり」
「そうか。それならよかった」
だがそれも、あっという間に別れの時がやってきてしまう。向日葵の魂が、少しずつ薄らいできたのだ。本当はもう少しだけ話がしたい。けど欲張りすぎると、悲しくなってしまうから、今は我慢しておこう。
「どうやらあるべき場所に戻るみたいだな」
「絶対にまた会えるよね?」
「ああ。今度はちゃんとそっちで再会をするから、もう少しだけ待っててくれ」
「分かった。絶対に帰ってきてね咲ちゃん」
「約束だ」
そう向日葵と約束をかわすと、彼女の魂は消えていってしまった。
(絶対に約束だ、向日葵)
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色々起きた騒ぎから一夜明け、俺は昨日の騒ぎの始末書を書くのに追われていた。
「もう、どうして私がこれ書かなきゃいけないんですか」
「巫女様が当事者だからですよ、もう。私が眠っている間にあんな事やこんな事ばかりして」
「何かいやらしい言い方をするのやめてください!」
まああんな事やこんな事をしていたけどさ(主にラファエルが)。
「そういえば巫女様、今日は寝ないでください」
「寝ないでって、夜通しで何かするのですか?」
「いえ。移動するのにかなり時間がかかってしまうので、移動しながら睡眠を取ってもらおうと思いまして」
「移動? どこかへ出かけるのですか?」
「はい。実は三日後にグリーンウッドで収穫祭という祭りがあるので、それに参加しようかと思いまして」
「収穫祭?」
どこかの外国とかでよくやっていたような祭りだな。しかもグリーンウッドということは、グリアラがいる国か……。
「でも夜の移動の方が危険じゃないですか?」
「ご心配しないでください。馬車だと時間がかかりますので、別の移動手段をご用意いたしました」
「別の移動手段?」
その日の夜中、全ての用意を済ませた俺はセリーナに指定された場所へ。そこで待っていたのは……。
「セリーナさん、これが?」
「はい。私達の移動手段です」
「こ、こんなのいつの間に……」
大型とまでは言えないが、そこそこの大きさの飛空挺だった。
「さあ、行きますよグリーンウッドへ」