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第3話あり得ない現実

 しばらくの間ミスティアと名乗ることを決めた後、ずっと寝たきりであった体を俺は起こし、辺りを一度見回した。


(何だここ。まるで海の中に住んでいるみたいで綺麗だ)


 先ほど一番最初に視界に入った真っ白な天井とは違い、周りはまさに幻想空間だった。壁は全面ガラス張りになっていて、外に見える景色は海の中。そういう演出かと思ったが、見覚えが全くのない魚とかが泳いでいるのを見る限り、どうやらそういう訳でもなく、俺はまさに海の中にいるようだ。


「巫女様、いかがなされましたか?」


 その空間をグルッと見回していると、先ほど一番最初に俺に話しかけてきた少女が話しかけてきた。


「あ、えっと、ちょっと不思議な場所だなと思いまして」


「ここは『水神(みずかみ)の間』と言いまして、全ての水の姫巫女はここで誕生し、同時に巫女様が生活することになる場所でもあります」


「水神の間……ですか」


 何とも不思議な場所だ。ここで全ての水の姫巫女が誕生し、その一生をここで暮らす。つまり全ての始まりと終わりの場所とでも言うのだろうか?


(それにしても、本当に俺は女になってしまったんだな……)


 ガラス越しに自分の体を見て、ため息を一つつく。そこに映っていたのは、二十年を生きてきた本来の自分の姿ではなく、黒髪ロングヘアーで何故か既に薄い水色の巫女服を着せられている美少女(?)の姿があった。


(うーん、何というか……)


 自分で言うのも何だが、結構可愛い気がする。


「とりあえず本日は巫女様もお疲れでしょうから、お仕事の説明などは明日させていただきますね」


 鏡の自分を見ながらそんな下らない事を考えている間に、いつの間にか周りに居た人達はいなくなっていて、最後に残った少女も入口から外に出る所だった。


「えっと、仕事とは?」


「勿論水の姫巫女としての仕事でございます。慣れないうちは簡単なものばかりになりますが、いずれ大きな事をするようになると思います」


「私にそんな事ができるのでしょか?」


 何もかもが突然過ぎて、まだ完全に把握できていない俺は、不安を口にしてしまう。いきなり仕事とか言われてもしっくりこないし、男の俺にとって慣れなければならない事が沢山ある。その中で俺は果たして大きな仕事をやっていけるのか、思わず彼女に言ってしまった。それに対して彼女は、笑顔でこう答えるのであった。


「大丈夫です。私が巫女様をサポートしますから」


「あなたがサポート? そういえば名前をまだ伺っていなかったのですが」


「申し遅れました私セリーナと申します。これから長い間巫女様に仕える者ですので、何か困ったことがあったらいつでも仰ってください。それでは」


「あ、ちょっと待って……」


 まだまだ聞きたいことがあったので聞こうと思ったが、それよりも先にセレーナは部屋を出て行ってしまったので、結局聞きそびれたのであった。


(もう既に困っているんだけどな……)


■□■□■□

 部屋に一人取り残された俺は、とりあえず寝ていたベッドの上から降り体を動かしてみる。感覚としては今まで通りの感触と変わらないのだが、女性であるためか今まで意識したことのない場所に重みを感じる。


(これが……胸か)


 男のロマンと言うべきものが、今俺の体に付いていると考えると、何とも不思議だ。


(というか改めて見ると、すごい部屋だなここ)


 部屋の大きさといい、部屋の中にあるものといい、一度も見たことがない物ばかりがある。巫女が生活する場所と言うもんだから、何か狭苦しい場所かと思ったけど、これなら普通の生活ができる。ただ、当然テレビなどの家具はが、これはこれで生活を楽しめるかもしれない。


(主に女でなければ、の話だけどな)


 一通り部屋を見て回ったあと、近くにあった椅子に腰をかけてため息を一つ付いた。


(何で女にならなきゃいけないんだよ……)


 しかも世界を支える巫女とか、話の規模がデカすぎる。これが夢だというならすぐに覚めてほしいものだけど、もう俺には夢から覚める体がない。という事は今俺の目の前にある現実は全て真実。


(こんなあり得ない話を、どうやって受け入ればいいんだよ……)


 しかも外見は女なのに、中身が男だって他の人が聞いたら、確実にひと波乱が起きる。つまり俺はずっと黙っていなければならない。自分が男であることを。


(二十年目にして、最悪の人生が始まりそうだな……)


 元の世界に未練がないわけがない俺にとっては、この新たな人生のスタートは最悪極まりなかった。どうせなら幽霊としてでもいいから、もう少しだけあそこにいたかった。


(まだまだやり残したことがあるのに、新しい人生なんて歩めるかよ。しかも女として)


「巫女様、入りますよ」


 何度かため息ついていると、外からセリーナの声が聞こえた。そして彼女は、俺の返事を待たずに中に入ってきた。


「部屋の居心地はいかがですか?」


「こんな部屋を一人で暮らすには勿体無いくらい居心地がいいです」


「ふふ、やはりそう感じますよね。私もちょっと広いじゃないかって思ったりもします」


「ここに慣れるのに、しばらくは苦労しそうです」


「時間が経てば、その苦労もきっとなくなりますよ」


(時間が経てば……か)


 果たして俺はこの後どれだけの長さをこの姿で過ごすのだろうか?


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