表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/100

閑話2いつか帰れるその日まで

 その日私は長い夢を見た。どこか知らない世界で、知らない人達と出会い、どこかへと向かっていた。誰かに出会う為だったのかもしれないけど、ひたすら長い長い道のりを歩いて、ようやく目的地に到着。その先で私が出会ったのは……。


『え? ……向日葵?』


(咲ちゃんなの? ねえ、咲ちゃん!)


 何と探していた咲ちゃんだった。だけど夢の中での私は、声を出すことすらできず、そこね夢が途切れてしまい目を覚ましてしまった。


「ここ……は?」


 見た感じではどこかの病院のベットらしい。そういえばこの前、突然目眩が体を襲って、気がついたら倒れていたんだっけ私……。


「よかった、ようやく目を覚ました」


 目を覚まさない私を、ずっと心配してくれていたのか横には雄一がいた。


「ごめん私、心配かけて……」


「別に気にしていないけど、あまり無理しすぎるなよな」


「でも咲ちゃんが……」


 さっきまで見ていた夢を思い出す。あそこにいたのは紛れもない咲ちゃんだった。それなのに私は、声も出すこともできなかった。やっと、やっと会えたのにこんなのって……。


「咲田がどうかしたのか?」


「私の夢の中に出てきたの。そして何か言っていたけど、私喋ることもできなくて……」


「夢の中で……か。もしかしたら本当に咲田はどこかで生きていたりするのかもな」


「どうしてそんな事が言えるの? この前も話したけど、咲ちゃんはもう死んだのよ」


「じゃあどうしてお前は、泣いているんだ?」


「え?」


 雄一に言われて今初めて気づく。自分は涙を流しているのだと。どうしてかは分からないけど、もしかしたら夢の中で出てきたことによって、私自身も彼が生きているのではないかと思い始めたからかもしれない。果たしてその想いが本当なのか、それは私には分からなかった。


「この前は、その強く言い過ぎたかもしれないけどさ。そういう希望を一つや二つくらい持ってもいいんじゃないか? 生きているって確証はどこにもないけど、それでも俺達は信じて待っていてあげればいい。いつか帰ってきた時に、笑顔で迎えられるようにさ」


「笑顔で迎えられる……ように」


 あの事故以来私は笑うことを忘れてしまっていた。何もかもに絶望して、生きる希望さえ失いかけていた。私にとって彼は、世界で一番大切な人で、彼がいなければ今の私はいなかったくらいだ。だから少しだけ希望を持ってみようと思う。いつか彼が、私達の元に帰ってきて、また三人で一緒に過ごせる日を待ち侘びながら。


(いつか絶対、帰ってきてよね咲ちゃん)


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 この世界にやって来てから一週間が経過し、そろそろ向日葵達の事が心配になってきた。果たして彼女達は俺がこの世にいない事を受け入れられているのだろうか?もしかしたら俺が無事に戻ってくる事を信じているのかもしれない。だとしたら、俺はこの世界を離れ、彼女達の元へ帰った時、どんな顔をすればいいのだろうか? と言っても帰った所で既に死んでいるので、表情も何もない。


(それに、コロナの件は単に偶然とは思えないんだよな……)


 あれだけ向日葵と似た少女に出会うのは、本当に単なる偶然なんて思えない。でもだからと言ってコロナに聞いても意味がない。一体この先俺はどうしていけばいいのだろうか?


「どうしたのよそんなに深刻そうな顔をして」


 一人そんな事を悩んでいると、グリアラが珍しく心配そうに話しかけてきた。


「珍しくなんて失礼ね。こっちは心配しているのに」


「冗談ですよ冗談。ちょっと悩み事です」


「なになに。恋の悩み?」


「それに近いものです」


「何勿体ぶっているのよ。教えてくれたっていいじゃない」


「笑わないなら教えますよ」


「笑わないって」


「じゃあ少しだけお話ししますよ」


 俺はグリアラに元の世界での幼馴染の話をした。途中からだがシャイニーも一緒に加わり、一緒に話を聞いてくれた。


 で、全てが話し終わり……。


「なるほどね。確かに今のあんたには心配な事ってわけね。でも心配した所で、何か解決するかしら?」


「それは確かにそうかもしれないですけど」


「で、で、でも。私はその気持ち少しだけ分かります。大切な人が側にいないだけで、その人が心配になります」


「シャイニーさんにもいるのですか? そういう存在が」


「いる、というよりはいたって感じですかね……」


 遠い目でそう語るシャイニー。いつもおどおどしている彼女も、この時だけは少しだけ違っていた。どこか遠くへ行ってしまった誰かを想っているような、そんな感じの雰囲気がしていた。


(もしかして、昨日の寝言と何か関係あったりするのかな)


 そうだとしたら、彼女のお姉さんは今……。


「あーもう、何か重たい空気になっちゃったじゃない。シャイニー、あなた責任取りなさいよ」


「どどどうして私なんですか! 元はといえばみ、ミスティアさんがこんな話をするから悪いんですよ」


「何でそこで私に回ってくるんですか! 元はと言えばグリアラさんが勿体ぶらないでとか言うからですよ!」


「それならあなたがため息なんかついているから……」


 いつ俺は彼女達の元に帰れるの分からない。だけれど、いつか戻った日はたった一言だけでも二人に伝えたい。


『今までありがとう』


 って。言葉にできるかすら分からないけど、きっといつかあの場所に戻った時、笑顔でそう一言伝えられれば俺は幸せだ。だから二人とも、もう少しだけ待っていてほしい。俺が戻ってくるその日まで待っていて欲しい。絶対に伝えたいから。この感謝の気持ちを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ