表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/100

第11話懐かしいあの光景

 再び城内へと戻った後は、セリーナがしばらく部屋でゆっくり休んでいてくださいと言うので、俺は一人部屋へと戻った。


「疲れた〜」


 部屋に戻るなりベッドに飛び込んだ俺は、天井を見上げた。時間はまだ夕方の五時、寝るには早い時間なのだが、色々ありすぎてすぐに睡魔に襲われた。


(まだこの後も何かあるのかな)


 しばらく天井を見た後、ゆっくりと目を閉じる。このまま一日が終わってくれれば助かるのだが、水の姫巫女である分、この後も何かありそうでうまく寝付けない。


(昨日よりも今日の方が疲れたな……)


 裸エプロンキャラ(?)のユキネの出会いから始まって、初めての儀式で見えたあの光景、そしてアライア姫に俺の正体がバレていて、ほんの少しだけど森の姫巫女とも会話した。だがまだ夕方である。この先も何か起きそうだから、ちょっと覚悟しておいた方がいいのかもしれない。


(だからその前に一休み……)


 色々と一日を振り返っているうちに、俺はいつの間にか眠りに落ちていた。


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 俺が儀式の際に微かに見えた景色は、どこか懐かしいような風景だった。そう、あの景色は俺が死ぬ前に住んでいたあの街に似ていた。


『ねえ咲ちゃんは、この街が好き?』


『嫌いではない、かな』


『またまた、そんな事言って。本当咲ちゃんはツンデレなんだから』


『ツンデレって、俺がいつデレた!』


『いつもだよ』


 そして俺はその街で二十年という長い時を過ごした。別にこの街が嫌いではなかったので、一人暮らしをしようとも考えなかった。その理由は幼馴染の存在と、高校になってできた親友。俺にとってはどちらも大切な存在で、いつまでも一緒に同じ時を過ごせたらいいと思っていた。


 そう、あの日が来るまでは。


『え? 子供が溺れている?』


『うん。今救急隊の人を完ちゃんが呼びに行っている……って、どこに行くの咲ちゃん』


『どこって、助けに行くに決まっているだろ、その子供を!』


 バサッ


「はぁ…はぁ…。今のは……夢?」


 再び俺が目を覚ましたのは、夜の八時。もう既に夕食の時間はとっくに過ぎていた。


(随分と嫌な夢だったな……)


 でもあれは決して夢の出来事はない。現実の俺の身に起きてしまったこと。


(そういえば死んでから、一度も夢なんて見ていなかったな)


 死者が本来夢を見ることなんてないのだが、今俺はこの身体で生きている。だから見たくない夢ですら見えてしまうのだ。


(忘れられそうで忘れられないよな絶対)


「巫女様、起きていますか?」


 そんな事を考えていると、部屋の外からセリーナの声がした。どうやらずっと寝ていた俺の様子を見に来てくれたらしい。たかだか二時間寝ていただけで、そこまで気にかけることはないのに。むしろこのまま寝かせておいてほさそかったくらいだ。


「起きていますよセリーナさん」


「そうでしたか。では少し遅い時間になってしまいましたが、夕食の時間にしましょう」


 そう言うと、セリーナは台車と思わしきものを押しながら部屋へと入ってきた。台車の上に乗っかっているのは、わざわざ持って来てくれたであろう夕食。


「もういくら起こしても起きなくて困りましたよ本当」


「すみません。多分疲れていたから、グッスリ眠ってしまったんだと思います」


「まあこの後予定などはなかったので、まだ寝ていてよかったのですけどね。はい、これが本日の夕食です」


「あ、ありがとうございます」


 わざわざテーブルに食事を並べてくれたので、一旦ベッドを降りて椅子に座って食事を取り始める。


「いただきます」


 今日一日朝、昼、晩とこの世界の食べ物を食べてきたのだが、やはり水上都市なだけあって主に魚料理が多く、生前は寿司などといった海鮮類が大好物だった俺にとっては、とても好ましい料理ばかりだった。ただ一つ問題点があるとしたら、これが毎日続くと流石に飽きてしまう事だろうか。


「そういえば巫女様はこう言った料理が好きなのですか?」


「はい。こういった海鮮料理は私の好物だったりするのですけど、やはり毎日こればかりだと少し飽きてしまいそうです」


「では明日は少し料理の内容を変えてもらいましょうか?」


「できるのでしたら是非そうしてもらいたいです」


「ではそう伝えておきますね」


 二十分後。


 結構量があったせいか、少し時間がかかってしまったが完食。食器を片付けながらセリーナは俺に向けてこんな事を聞いてきた。


「そういえば巫女様、アライア姫様と何を話していたのですか? 部屋から出てきた時、小難しそうな顔をしていましたけど」


「特に大事な話なんかしていませんよ。単なる雑談ですよ」


「そうでしょうか? 少しだけど会話を耳にしたのですけど、何か巫女様重大な隠し事をしたりしませんか? 実はおねしょをしたとか」


「隠し事なんかしていません。それに何ですかおねしょって!」


 隠し事は確かにしてはいるけど、おねしょは流石にないだろ。というかそれが仮に姫にばれていたら、俺は恥ずかしくて外に出れなくなってしまう。


「ふーん。まあ、何があっても巫女様は巫女様ですので、あえて深追いはしませんけど」


「だから何も隠してなんかいませんって」


「そうだといいのですけどね。では私は後片付けがあるのでこれで失礼しますね。明日もちゃんと儀式があるのですから、寝坊しないでくださいね」


「心配しなくて大丈夫ですよ。ちゃんと起きれますから」


「いざという時は私が叩き起こしに来ますから。それではおやすみなさい」


「おやすみなさい」


 セリーナはそう言って、部屋を出て行った。どうやら今日の仕事はこれで終わりらしい。


「終わったー!」


 さっき寝たばかりだというのに、俺はまたベッドに飛び込むとそのまま目を閉じた。


(明日からが本番だよな。気を引き締めないと)


 今日一日だけでこれだけ濃かったのだから、明日もきっと何か起きるのではないかと、若干胸を高鳴らせた後、やはり疲れていたのか、俺は再び眠りについた。


 こうして長かった水の姫巫女としての初日を、俺は終えたのであった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ