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第18話森の姫巫女の選択 前編

「お前が死ねば確かに森の姫巫女の問題は解決して、世界の崩壊は無くなるかもしれないけどな、それで残された人たちの想いはどうするんだよ!」


「シャイニー達を守るためなら仕方がないのよ。咲田、それは貴方も同じ。消えて欲しくないの」


「だからって消えていいのか?」


「それはそっちも同じでしょ!」


「いや、俺は……まだ諦めてない!」


 俺は怒りに任せて絡まっていた蔦を千切る。


「なっ、どこからそんなに力が」


 それには流石のアラウも予想外だったようで、しばらく動きが止まる。


「悪いがしばらく眠ってもらうぞ!」


「かっ、はっ」


 すかさず俺は彼女の鳩尾にパンチを入れて気絶させる。そして俺はグリアラを蔦の中から助け出し、彼女を背負って部屋から脱出する。


「咲田、向日葵ちゃんを連れて二人で逃げて」


「まだそんなことを言うのか? 向日葵も助けて全員で帰るぞ」


「駄目だよ咲田、私は一緒には戻れない」


「......なあグリアラ、どうしてお前はそこまでして、俺達から離れたいんだ? 世界のこと以外に理由があるんじゃないのか?」


「......あるわけないでしょ」


「ならどうしてお前はさっきから泣いているんだよ。本当に死にたいって思っている奴が泣くか?」


「っ......」


 気づかないふりはしていたけど、グリアラはこの部屋を出たときから、ずっと泣いていた。いや、正確にはそれよりもっと前から。

 彼女が本当に死を望んでいるなら、こんなに泣く理由がない。だから俺はあえて踏み込んだ。


「俺も向日葵もお前がいきなり居なくなったことについては怒っていないんだ。勿論この件だって。だからお前にはしっかりと話をしてほしいんだ」


「......話したくたって、話せないわよ。これは私の、ううん、私達の運命さだめなんだから」


「運命?」


 グリアラはあえて『私』ではなく『私達』と言った。これは二人の森の姫巫女のことを言っているのだろうか。それとも......。


「ともかくお前を意地でもウォルティアに連れて帰るからな。それからでいい、話せるだけの事を話してくれ」


「咲田......」


 とにかく今は向日葵も救い出して、ここから逃げなければ。


 ■□■□■□■□

 向日葵はほぼ無傷の状態で見つけた。しかし気を失っているらしく、俺は二人を背負って何とかグリーンウッドを脱出。アラウが目を覚ます前に何とかグリーンウッドから遠くに離れることができた。


「咲ちゃん! 咲ちゃん!」


「ひ、向日葵、く、苦しい」


「よかった、よかった。咲ちゃんの姿が何日も見えなくてずっ不安で......。あの子が私より先に咲ちゃんを痛みつけるって言っていたから、私すごく不安で......」


「心配させて悪かった。でも向日葵無事でよかった」


 その頃には向日葵も意識を取り戻し、三人の体力が回復するまでの間、偶然見つけた洞窟で休むことになった。特に消耗が激しいのが俺で、女性の体でありながらグリーンウッドを二人抱えて脱出したため、全身が筋肉痛な上に、立っていられないくらいの状態にまでなっていた。


(やっぱり無理やり姫巫女の力を使ったからなのか?)


 俺は既に水の姫巫女ではない身でありながら、あの場面で力を使えたのはほぼ奇跡に近い。


「いいかグリアラ。俺はしばらく寝ているけど、この前みたいに変な気は絶対に起こすなよ。お前のその運命が何なのかは分からないけど、もっと俺達を頼ってくれ」


「分かってるわよ、そんなこと」


 寝る直前俺はグリアラにそう警告する。いったい何がそこまで彼女を動かしているのかは俺には分からないが、これ以上のことは俺にはできない。


 あとは彼女自身がどう選択するか。


 それがこの先の事にも大きく関わってくると俺は思っている。


(頼むからグリアラ、お前一人だけで抱えこまないでくれ......)


 ■□■□■□■□

 その日の夜遅くのこと。夜の静粛が訪れる中で動き出す一つの影。


「やっぱり」


「向日葵ちゃん......」


 しかしその影......私を止めたのは咲田の幼馴染の向日葵ちゃんだった。


「咲ちゃんの気持ちを裏切るんだね」


「裏切るなんてそんな」


「ならどうしてこんな時間にこっそり動くの?」


「それは......」


 私はグリーンウッドに戻ろうとしていた。それが裏切りだってことも分かっている。だけど私が歩まなければいけないのは、その間違った道。


「どうしても行きたいなら、咲ちゃんに全部説明して。そうでないと私はここを退くことはできない」


「力ずくでも退いてもらうって言っても?」


「脅しには屈しない


「残念だけど、脅しではないの」


 私は姫巫女の力を使って、向日葵ちゃんの体を蔓で巻き付けようとする。けど彼女はそれでも動じようとしなかった。


「ねえ、私にはこの世界のことあまり詳しくは分からないんだけど、誰かに頼れないほどグリちゃんは追い込まれているの?」


「うん、どうしようもないくらい」


「それを誰かに相談したの? 一度でも」


「それは......」


 してないけど、しなくたっていいって思ってる。


「これは咲田やシャイニーを守るためなの! そうでないと......そうでないと......」


 森の姫巫女が二人存在していなくてもこの世界は終わってしまう。



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