セールスマン
「本当嫌になっちゃいますよ。時代はロボット一家に一台なのにぜんぜん売れやしない。僕、セールスマン向いていないんですかね?」
僕は目の前のお酒をグビっと一杯飲んだ。すっかりと日も暮れた深夜十時、飲み屋の一角で先輩に淡々と愚痴を吐く。時代は2030年、5年前に開発された新技術により低コストで高性能な人型ロボットが大量に世に出回った。最早街中をロボットが歩いているなんて当たり前の時代である。
「高齢者の中にはロボットを敬遠している人が多いからな。なかなか売れないのはお前のせいじゃないぞ。現にお前は入社したての頃、営業成績ナンバーワンのエリートだったじゃないか。才能はあるんだよ。」
「あの頃は自分も・・・、なんて言うか波に乗っていたんですよ。初めて訪問先のお宅で商品が売れて嬉しくって。でも、あの事件があってから売るのが臆病になっちゃって。」
___あの事件。忘れもしない僕が商品を売り始めて3年たった時の事、いつものように訪問先の家で商品の押し売り販売をしていた。その家でも順調に話が進み、商品を買ってくれることになった。しかしそのとき僕は重大な誤りを犯したのだ。
商品のロボットは安くて高性能。家事手伝い、子供の子守、機械修理、なんでも御座れの汎用性。ただし一つだけ欠点がある。それはとても"脆い"ということだ。つまり、定期的にメンテナンスをして必要とあらば買い替えをしなければならないのだ。僕は愚かにもその事を伝えなかった。自分の実績に傷を付けたくなかった。そんなちっぽけなプライドのせいで・・・。
「あの時はやばかったな。ロボットが誤作動を起こし危うく事故を起こすところだった。でも事故は起こらなかったんだ。その事はもう忘れろ」
「はい・・・。」
僕はまたお酒を胃に流し込んだ。そうだ、あの時の事はもう忘れよう。十分に反省したんだ。頭がクラクラしてきた。酔いが回ったかな?なんだか眠い・・・。
ブツン
「誤作動も多くなって営業成績が下がってきたしな。お前ももう買い替えだな」