こんな王子で大丈夫か?大丈夫だ問題ない。
アル・・・ベロ?ベル?まぁどうでもいいがあの男を拾ってから数週間が経つ、肩の怪我はだいぶよくなった。
回復するにつれ口数も多くなりちょっとうざい。
「食事はまだか?」
「・・・ん」
まだ調理中なのだ、と手元を見せると肉を一切れ摘み食いされる。
「なんの肉だこれは、塩が薄すぎる」
「・・・ん」
「なんだスープにつけてから食うものなのか先に言え」
お前が勝手に食ったんだろうが。
「これはパンか?食感がネチョネチョしてるぞ?」
失敬な、米パンをバカにしおって。
「この部屋は汚いな、片付けろ」
お前が汚くしたんだ、いつも綺麗だしお前が寝た後片付けている。
「むぅ・・・・・・」
面倒くさい男だ、不満があるなら早く出て行けばいいのに。
いやもう出て行かせよう、拾ってきたあいつの剣と鎧を渡す。
「・・・ん」
「これは我の武具・・・拾ってくれたのかすまなかったな」
いや、そうじゃなくて早く出てけよ。
最近エインちゃんの帰りが遅いです、前は一週間に二、三日のペースだったのに・・・
「うぅ~」
寂しいなぁ、エインちゃんがいないと誰も私と遊んでくれないし・・・
昔は仲良しだったのに皆私と遊んでくれなくなるし、勉強しろ勉強しろーってうるさいの。
「エインちゃんは私を嫌わないよね?」
答えてくれる人はいない、自分に問いかける。
「大丈夫・・・」
エインちゃんは私を嫌いにならない、絶対。
「そうだ・・・」
今度エインちゃんと一緒に森に行こう、エインちゃんは強いし大丈夫だよね?
「ねぇねぇエインちゃん」
「・・・?」
家に帰ってきてすぐにエリちゃんが話しかけてくる。
この子はどういうわけかみんなに避けられてるというか尊敬されてれるんだよなぁ。
親父殿も理由を教えてくれないし・・・怪しさ抜群だよな。
この村で十歳以上の獣人にしか教えられないらしい。
何者なんだろうか、エリちゃん。
「エインちゃん聞いてる?」
やべ、聞いてなかった。
「・・・ん」
こくりと頷く。
「ほんと?やったー!じゃあ明日森に一緒に行こうね!」
え・・・・・・あー、うーん、大丈夫だろ。
「・・・・・・ん」
「おいて行っちゃダメだからね!分かった?」
「・・・ん」
まぁいいか、エリちゃんにはあの人間のことは言ってもいいだろ。
なんだかんだ言ってあの子が俺のこの世界での初めての友達だからな。
エインという獣人は殆ど喋らない。
これは我が数週間過ごしたエインへの感想だ。
エインがいつもの時間に帰り、この部屋には誰もいない。
一人になった我は祖国のことを考える。
『そろそろ帰ったほうがいいかもな』
当然この男は王子であるのだから絶対帰ったほうがいいのだがアルベルトは帰らない。
『エインを連れて行きたい』
アルベルトは文句を言いながらも実は結構満足していた。
自分が国にいた頃周りの人間は自分を王子としてしか見てくれなかったこともありエインの対等な場所からの目線は正直嬉しかった。
『我は・・・』
数週間前に戦場で襲撃してきた相手の顔を思い出す、それは獣人、彼女も獣人。
そして当然であるが彼は多くの獣人を殺した。
『どうすれば・・・』
葛藤に苛まれる、彼女は自分を受け入れてくれるのだろうか、許してくれるのだろうか。
「母の言うとおりにして戦場にでなければよかったと思う日が来るとはな・・・」
上を見上げると葉っぱの間から星が瞬いているのが見えた。
「ああ寒い、ここは寒いな」
エインが持ってきた毛皮の布団を体に巻きつけ最近気に入ってきた藁のベットに寝転がる。
『恋だの愛だの馬鹿らしいと思っていた我が・・・まったく馬鹿だな我は、本当にバカだ・・・』
すぐに睡魔が押し寄せ彼は眠りについた。
ロマンチストな王子には悪いが今のところエインの好感度はマイナスをぶち破っている。