早く犬耳を触らせろ、でなければ死んでしまう
取り敢えず落ち着こう・・・紫色の液体を顔で拭って男の服に詰る。
「おい貴様、何我の服に・・・すいませんでした」
「・・・ん」
分かればいいんだよ分かれば、取り敢えずメシをもう一度作らねば。
粥でいいか。
先ほどと同じ工程を繰り返す、料理をしていると後ろから声がかかる。
「その、なんだ、お前が我を救ったのか?」
「ん・・・」
後ろを見ないまま首肯する、面白そうだったからな。
「ここには一人で住んでいるのか?」
「・・・・・・ん」
しばらく悩み首肯する、確かにここには一人で住んでいる、住んでいるという休憩所だが。
「他に仲間はいないのか?」
それは敵の戦力を探ろうとする質問のように聞こえたので黙ったままでいいか。
「・・・・・・」
「いや、気に触ったのなら何も言わなくていい・・・すまなかったな」
どうやらそういうたぐいではないようだ、唯のお節介だろうか?
「はい・・・」
出来た粥を木のお椀によそって手渡す、スプーンも渡す。
「あ、ああ」
俺は火で炙った干肉を焼いて齧る、魔物の肉ってのはやっぱり他と少し違うな、味が濃い。
肉を齧りながら男を観察する、スプーンで粥を掬いながら食べている、縁には決して口をつけない食べ方、上品すぎるその食べ方から貴族であると推測。
もちろん獣人にも貴族はいるらしい、親父殿はそいつらのことを話すときいつも眉を顰める。
「あなたは・・・・・・貴族?」
やっとのことで声を振り絞る、喉が痛い、もう喋りたくない。
「・・・我を凡百な貴族と一緒にするでない、我はアルベルト・リシュター・トルコネロ、帝国の第一皇子だ」
え、マジで、皇子様ですか、へー、ふーん。
「・・・そう」
「・・・・・・それだけか?」
「・・・?」
首をかしげる、皇子の何がすごいのかよくわからん、ここでは皇子であることはさほど重要なことでもない。
精々すごいねーぐらいだ。
「いや、別に・・・そうか、なんでもない」
肩を落としたまま粥を食べるのを再開するアルベルなんちゃら、長いから忘れた。
「エイン」
「ん?」
「名前・・・」
「ああ、お前の名か、エインだな、分かった」
「ん」
分かればいいんですよ、分かれば。
食事をして、薬を飲ませて包帯を変えてやることがなくなったので武器と防具の手入れをする。
彫刻刀で矢に精霊語『貫通強化』を刻んでいく、作るだけ作ったら今度は刃が所々欠けたショートソードを磨いていく。
この剣は襲ってきた豚人を逆に殺してその時に手に入れたものである。
獣人とは動物と人との間の存在であるので豚やら猫やら犬やらいろんな種族がいる。
すべての種族が仲がいいというわけではない、なぜなら基本的に獣人は自分の認めた相手にしか従わないらしい。
ショートソードを磨き終わり、今度は自作した篭手を一度分解し手覆いの裏に書かれている精霊語を効果が消えないうちに書き直す。
ここでまた少し説明をしよう、精霊語は一度使うと消えてしまう、だが消えない精霊語がある、それは魔物や私たちの血を使ってそれを刻んだときである。
その魔物の強さによってその精霊語の持続時間や強さが変わる。
人間たちが獣人たちを支配したいのはそれもあるかもしれない。
全ての手入れが終わり帰る時間になったので全てを装備して帰るために梯子に足を掛ける。
「エイン!」
突然呼び止められる、いやむしろなに呼び捨てしてんだ、ファック。
「明日も来るのか?」
「ん」
いや、ここ俺の秘密基地だし、というか早くお前に出ていってほしいんだけど。