俺様?いいえ我様です。
分かる人には分かればいいんだけど、ギルちゃんほど我が儘ではありません。
「あふ・・・」
おっと変な声が出てしまった、最近拾った人間のせいであんまり寝てないんだよね。
「大丈夫か?」
親父殿が心配してくれている、可愛いやつよ。
「ん・・・」
「そうか、今日も行くのか?」
「ん・・・」
あの人間の世話しないといけないから毎日森に行かねばならない、そろそろ奴も元気になるだろう。
誰にも人間のことは話していない、バレないように匂いも消してある。
今日はどの薬を試そうか・・・そういえば少し熱があったはず―――
ここはどこだ・・・?
目を覚ますと木でできた部屋、毛皮とその他雑多なものが置かれている。
誰かが手当をしてくれたのか肩と額に布が当てられている。
喉が乾き周りを見渡すと水瓶がありその近くにコップが置いてあった。
「ごくっごくっ・・・はぁっ、不味い水だ」
当然といえば当然なのだが実はこの水この男の汗やら体を拭いた水であってけして飲むようではない。
喉がうるおいやっと現状が把握できてきた。
「木でできたというより、木そのものをくり抜いたのか?」
周りを見渡すと布切れや毛皮やら藁やら、見たこともない雑多な部屋だった。
「この部屋の主は一体どんな感性なのだ・・・」
足の踏み場もないじゃないか・・・汚らしい。
一応言っておくがこいつの寝相が悪いだけである。
「ぐっ・・・」
肩が痛む、今は休養を取るべきか・・・
先ほどまで寝かされていた場所に戻る、それにしてもこの部屋に窓はないのか・・・上を見上げると緑の葉から光がこもれる。
「おい、天井はないのか・・・やれやれ、家の主の顔を拝みたいものだ」
この男、文句しか言わないのであるな・・・
「くしゅんっ」
森に行こうとしたら寒気がしてくしゃみが出てしまった。
後殺意も湧いた。
「エインちゃん大丈夫?」
「ん・・・」
エリちゃんは心配症だなぁ、もしやあの男の風邪でも移ったか?
まあいいか、秘密基地の薬でも飲もう。
「いってらしゃーい」
後ろ手に手を振る、俺カッコイイー。
「寝てる・・・」
秘密基地に着くと男が寝ていた、ここで男の容姿について言っておこうか。
男は燃えるような赤い髪に瞳は・・・分からないが多分赤だろ。
がたいはでかく、親父殿といい勝負だ。
安らかに眠ってる顔がどうにもムカツクが仕方がない。
上の服を脱ぐ、サラシが巻いてあるので問題ない、寝てるし。
「薬・・・」
薬作ろう、熱に効くのはあの虫とあの木の実。
チェストに入っているいくつもの木の小瓶から目星の虫と木の実がはいった小瓶を選ぶ。
棚の上に置いてある小鉢にその虫の死骸と木の実を混ぜ棒で磨り潰す、そうしてから水を適量入れて混ぜる。
「・・・・・・」
禍々しいな・・・赤い斑点が浮く紫色の液体とは・・・。
ゴクリと喉が鳴る、恐ろしい液体だ、毒薬なのではないか?
食わせてみよう、話はそれからだろ。
どうするか・・・食事に混ぜて食べさせよう。
「ん・・・」
そうしよう、首を激しく縦に振る、あの男には犠牲になってもらおう。
今日のご飯はお粥の形をした何かです。
昔兄弟で行った草原に群生していた謎の稲っぽい何か。
沼でもなんでもない唯の平原にそのまま生えているなんておかしいだろ。
誰もこれが食用だと知らなかったのかとってきた時に奇異の目を向けられて大変だったぜ。
味も日本の品種改良品じゃなくて味が薄くて栄養がなさそうである。
部屋の真ん中に空いたおぼんぐらいの穴に敷き詰めた砂、つまりあれです、日本家屋のあれですよ。
乾いた木の枝を積み重ねて真ん中に木の皮の裏に削って書いた精霊語を発動させ投げ落とす。
ああ、ついでに書いたのは『火』を表す精霊語。
すると直ぐにいい音と共に枝が燃えていく、ああ、ついでに木の皮は砕け散る。
「う・・・・・・」
臭いなぁ、鼻が良すぎるのも良くない・・・
火が絶えないように木の枝をたくさん入れる。
切り取った竹にはいったご飯を水多めで炊く。
しばし時間があるので何か思考しよう。
そういえばこの世界には人間による大国と獣人による大国があるらしい。
国の名前は忘れた。
二つの国は対立しているらしく年中仲が悪いらしい。
この村の人は争いが嫌いな人間と獣人が一緒に移ってきて出来た隠れ里のようなものである。
だから皆は外の世界を嫌う、まあそりゃ好き好んで争いの種を持ち込みたくはないもんな。
拾った男をちらりと見る、戦争か・・・どこと戦争したんだろうか、やはり獣人達とだろうか。
竹の蓋に空いた穴から水蒸気が出てきた、ふむ、もういいだろう。
木のお椀に竹の中身を出す、うむ、上出来だ。
「・・・・・・うっ」
小鉢に入った例のアレを見る、き、気持ち悪い。
ちょっとだけ、ちょっとだけ気になって小指で触って舐める。
あ、甘い・・・この身に走った衝撃は計り知れなかった、なんという甘さだ、苺より甘いだとぅ?
こ、これをお粥に・・・?
そ、それは冒涜だ、食に対する冒涜だ、断じて認めぬこんな物!
「ぐ・・・・・・」
しかし健康の為だ、健康の・・・・・・入れるっ!ああああぁ・・・
「ひぃっ・・・・・・」
これは、もう・・・何だ?
と、とにかくたべっ、食べさせないと。
男の眠ってる場所にお椀を持っていく。
ストンと男の横に座り、匙でアレをよそう、うわぁ匂いも酷い、寝てる男の顔も心無しかピクピクしている。
手が震える、と、止まれ俺の手っ―――
男の口に持っていくが唇の隙間に入れられない、鼻を摘む・・・1、2、3、4よっと。
「ぶーーーーーーーー!!」
「あ゛ぁーーーーーーーーー!!」
紫の液体が目に入る、焼け付くように痛い!痛いっていうか燃えてる!絶対燃えてるこれ!
絶叫した、初めてこんなに絶叫した・・・こんな声親にも聞かせたことない。
「貴様ぁ!何を我に食わせているか!殺す気か!」
「う゛~~っ!!」
蹴りを放つ、起きてたなこいつ!
「うおっ!?危な!我を誰だと思っているか!」
知るか!
「うーーー!」
「ぎゃあっ!やめっ!いたっ!いだい!」
薄目で我を手当した奴を確認する。
『なっ、獣人が・・・我を?』
驚いで声を出しそうになったが押しとどめる、桃色の獣人の女は我が寝ているのを確認すると上の服を脱いだ。
『ほお・・・なかなか・・・』
巻いてあるサラシが若干膨らんでいる。
『くくっ、何のつもりかしらんが愚かな獣よ』
脳裏で獣人の女を汚す姿が浮かぶ、ニヤけるな・・・ここは近づくのを待とう。
『な、何をしているのだ・・・・・・?』
ゴリゴリと音が鳴る、獣人の女の顔が引きつっている。
「・・・・・・・・・・・・」
『やばい、あれはヤバイ・・・』
ぶつぶつと声が聞こえる、甘いだと!?我は甘いのが嫌いなのだぞ、っていうか犠牲とか聞こえたぞ!?
「ん・・・」
口を閉じる、そんなもの食べれるか!
『ぬがっ!鼻を塞ぎおってえええええ!!』
口を開けてしまう。
「ぶーーーーーーーー!!」
「あ゛ぁーーーーーーーーー!!」
甘くない!臭苦い!泥水よりひどいぞこれは!
二重にダメージだわ!ふざけおってええええ!
「貴様ぁ!何を我に食わせているか!殺す気か!」
「う゛~~っ!!」
蹴りを放たれる、さっきまで寄りかかっていたソファもどきが陥没する。
「うおっ!?危な!我を誰だと思っているか!」
顔を怒りに燃やした獣人の女が紫の液体を顔から垂らしながら我を殴ってきた。
「うーーー!」
「ぎゃあっ!やめっ!いたっ!いだい!」
あ、だめ!死ぬ!死ぬかも!死んじゃう・・・・・・
誤字脱字があれば作者まで連絡お願いします。