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よみがえりし者の鐘

若者たちが戦場へ向かった

ひとりひとり家族と離れて

強欲な権力者の命令のもと

領土を広げるために始めた

戦場へとかりだされていった

戦場へと向かう道すがら

若者たちは満足な食事もできなかった

長年の戦争で疲弊した国に

兵士に配る食糧があるはずなかった

強欲な権力者のもとに

隠されているだけで

国に出回るはずがなかった

だから若者たちは休憩のたび

食べ物を探し道端をあさる

だがもう食べ物など見当たるはずもなく

空腹を抱えて戦場へ行くしかなく

飢餓きがで亡くなる兵士があれば

その身は道端に置き去りにされ

荷物のみ仲間に奪われる

病を患えばやはり置いていかれ

荷物は奪われる

孤独のまま苦しみ

戦場では毎日死と苦しみと痛みとに追われ

空腹のまま時が過ぎる

敵国では食べ物があるらしい

と噂が流れた

毎日毎食満足に食べられるらしい

と噂が流れた

同じように戦争で疲弊しているのではないのか

と疑問を抱けるものさえ現れないほどに

飢えた兵士たちは

自国を捨てる計画を立てる

夜毎よごと しょうたちが飲む酒の匂いを恨み

焼きあがる肉の匂いに苛立ち

兵士たちはただ地に伏していく

ある晩 見張りの兵士は飢餓に倒れた

敵国はそれを見逃さず

陣は襲われた

将たちは兵士を鼓舞こぶ

戦わせようとするが

飢えに飢えた兵士たちには

立ち上がる余力さえなく

あっけなく戦いは終わった

兵士たちは敵国の兵士に

ふるまわれた食事を喜び

亡くなっていった友や仲間を

今更ながら悲しんで弔った

そのときはまだ町に敗戦の報など

届くはずもなく

町に残る者たちは

親 兄弟 夫 友達 を想い

終わりの見えない戦乱に眠れない夜を過ごしていた

そこに響く鐘の音

うれしそうに

幸せそうに

町の鐘が鳴り響いた

そしてどこからか聞こえる声

その声は誰の声と言えないほど

さまざまな声が混じっていた

「戦争は終わった」

そう叫ぶ声がどこからか町に広がった

人々は鐘の音とともに喜びに沸いた

勝敗などはどうでもよかった

人々は戦争に疲れ果てていた

権力者の欲望にもう抗う気力さえなくなるほどに

だから声に 鐘の音に

人々は夜という時も忘れ喜んだ

同じように声を聞いた権力者はおびえた

どこかへ逃げ出そうと必死になって

金目の物を集めようとした

権力者はわからなかった

すべて人にやらせていたから

自分の家のはずなのに

どこに何があるのかわからなかった

召使いたちはみな知っていた

だから平等に全部をわけて

権力者の家から逃げた

町へ帰って家族と仲間と

すべてを分けて

新しい生活を探すために

一晩中鐘は鳴り続けた

人々は権力者をとらえた

少数の人間の欲望に

もう自分たちの生活を脅かされることのないように

人々は晴れやかに笑った

空腹ではあったけど

兵士たちの無事がわからない不安はあるけれど

でも今戦争は終わり

権力者もただの人になった

だから悲しさも寂しさも空腹もあるけれど

うれしかった

喜びに踊りまわれるほどに

鐘の音が朝日がのぼるとともに止まった

ふと誰かが空を見上げて言った

「鐘を鳴らしていたのは亡くなった兵士たちだ」と

亡くなった兵士たちもうれしかったのだろう

もう苦しみの中にいる人々を見続けることがなくなるから

だから戦争の終わりを告げるために一晩だけよみがえってきたのだろう

そう人々は話し合った


町の鐘がなる

今度は亡くなった兵士たちの弔いのために

戦いのねぎらいと戦争の終わりを伝えてくれたお礼のために

人々は一日中鳴らし続けた

道に水をまき

空に水をまき

食べ物がないことを謝りながら

花をまき

花をなげ

弔いとねぎらいとお礼をこめて

戦場へ向かったすべての兵士に

亡くなってしまった兵士たちに

町の人々は鐘を鳴らし続けた

そして鐘の音にあわせて唄った

弔いを

感謝を

ねぎらいを

祈りを

幸せを

嘆きを

さまざまに唄った

亡くなった兵士に届けと


時が流れ

町の鐘が一日中鳴る日が年に一度

あの弔いの日

いわれを忘れても

話が断片になろうとも

前の晩に誰が鳴らすのか分からない

鐘の音にこたえるように

一日中町に響き渡る

その町の鐘は「よみがえりの鐘」といわれ

誰が鳴らすのかわからな夜の3回の鐘の音に

どこからか聞こえる多くの人の歓声が

その名にふさわしく年に一度訪れる


2011/09/26

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