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声をかける人は
夕日を背にしたあなたの陰になった顔が見えない
声は明るく聞こえるけれど
私の右手を握るあなたの左手が震えている
寒くはないでしょう 冬じゃないから
怖くはないでしょう 夜じゃないから
土とコンクリートの間に膝をつくあなたは大きい
影は小さくかかるけれど
私に落ちる光はやさしくあなたに差す光は強い
暑くはないでしょう 夏じゃないから
痛くはないでしょう 昼じゃないから
小さく小さく息がもれる
瞳の光は弱くなる
声をかけるが反応が薄い
逝くな逝くなと言いたくなる
微笑みを浮かべる君に私は何が出来る?
弱く弱く胸が動く
目は細くなっていく
声をかけるが届いていない
何度も何度も名前を呼ぶ
力の抜けていく君に私は何が出来る?
白い白い空間に一人
黒い黒い空間が一つ
「帰っておいで」
暖かい空間に一人
ざわめきがやってくる
「ただいま」
かすれた声を出して一言
届かない言葉を一言