第13章~修復~
その次の日、俺はいつもどおりの時間に学校にきた。
席を見るとすでに3人が来ており、教室に入ってきたこっちに気付いたが、すぐに顔を元の位置に戻した。
俺はそのまま秋穂の席まで行き、軽く挨拶をした。
「・・・その、・・おはよう。」
「・・・おはよう。」
俺は言いたいことがあったが、今は言える雰囲気ではなかった。
そのあと冬佳と夏美にも挨拶を済ませ、俺は自分の席に座った。
(あーもう、なんでもうちょっと愛想良く挨拶言えねぇんだよ俺!変にプライドはってんじゃねぇよ。)
俺は自分にそう言い聞かせて、秋穂を呼ぼうとしたら、
キーンコーンカーンコーン♪
チャイムで俺の意思はかき消された。
そして担任が教室に入ってきて、ホームルームを始めた。
言い出すチャンスを失った俺は、しょうがなく諦めた。
(本番は放課後だな。それまでにちゃんと秋穂にちゃんと呼びかけなきゃな。)
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キーンコーンカーンコーン♪
授業を終えるチャイムが響き、昼休みに入る。
そして昼休みに入ると食堂にダッシュで行く奴らが多く、教室には弁当組みが残る。
俺も学食なんだが今は食堂に行く前にやるべきことがある。
秋穂を呼び止めること。
休み時間に入るたびに声を掛けようとするが、毎回理由を付けられ逃げられて、昼休みまで持ち越したってわけだ。
秋穂が弁当組みでよかったな。
学食なら捕まえるだけで困難だからな。
そして俺は前の席にいる秋穂を呼びかけた。
「なぁ、秋穂。ちょっと話しがあるんだ、聞いてくれ。」
「・・・ゴメン、私友達と一緒にお弁当食べる約束してるから急いでるの。」
「嘘、秋穂はわたしと食べる約束してた。」
「わざわざ春樹と会わないように、ボクたちにアリバイ作り手伝わせたデスし。」
冬佳と夏美の言葉に黙り込む秋穂。
「なぁ、なんでそうやって俺を避けてんだよ。昨日のことなら謝るよ、ゴメン。でもさ俺ちゃんと話したいんだよ、だからさ逃げないでくれ。」
「・・・違うよ。別に春樹に怒鳴られたことを気にしてるわけじゃないの。私が許せないのは私自身。だから春樹は謝らなくてもいいの。」
そう告げた秋穂は教室を去ろうとする。
「秋穂、俺待ってるからさ。教室で待ってるからさ。ちゃんと来てくれよな!」
秋穂はそのまま振り返らず歩いていってしまった。
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-秋穂Side-
春樹、怒ってた。
私は春樹のことわかってたつもりでいたのにね。
春樹の為ならって思ってうぬぼれてたわ。
私ダメな子。
あっ、メール。春樹からだ。
明日の放課後に話したいこと?
なんだろ、今日のことかな。
でも私どんな顔して会えばいいんだろ?
ダメダメ、ちゃんと明日会ったら笑顔でいなきゃ。
でも、でも、なんで涙が止まらないのかな。
まだ春樹学校に来てないみたいね。
少しホッとした。
数分後に冬佳、夏美、春樹と入ってくる。
「・・・その、おはよう。」
春樹がおはようって言った。
ちゃんと挨拶を返さなきゃ、でもただ挨拶を返すだけでいいの?
そして私の口から出た言葉は、素っ気無い返事しか返せなかった。
そのあとも、何度も春樹は話しかけてくれたのに、私は彼の思いに答えられず避けてしまう。
夏美や冬佳にも付き合ってもらって、私は春樹から逃げる。
彼の言葉を聞くのが怖いから。
「なぁ、秋穂。ちょっと話しがあるんだ、聞いてくれ。」
ちゃんと聞きたい。
「なぁ、なんでそうやって俺を避けてんだよ。昨日のことなら謝るよ、ゴメン。でもさ俺ちゃんと話したいんだよ、だからさ逃げないでくれ。」
なんで謝るの。春樹は悪くないよ。
「秋穂、俺待ってるからさ。教室で待ってるからさ。ちゃんと来てくれよな!」
私行きたい、でも私。
そして逃げるように屋上に。
私は弁当箱を開き、食べ始める。
味付け失敗しちゃったかな、なんかしょっぱいよ。
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放課後。
秋穂はいつの間にかいなくなってしまっていて、俺は夏美と冬佳と3人教室で待つことにした。
「春樹、いつまで待つんデスか?」
「秋穂が来るまでだ。」
「ホントに来ると思うの?」
「来なくても待つ。」
「強情デスね~、春樹は。」
「別に俺に付き合わなくてもいいんだぜ?」
「何を言ってるの?春樹はわたし達に話があるからメールをくれた。その話を聞かないまま帰るわけにはいかない。」
「そうだったな、ゴメン。」
「なに言ってるデスか、ボク達はいつでも一緒じゃないデスか、一人欠けちゃ意味が無いデスよ。だから秋穂が来るまで付き合うデス。」
「夏美がいいこと言った...、雨、いや雪が降るかも。」
「むー、せっかくいい事言ったのに酷いデスよ~!」
そして静かな教室に笑いが溢れる。
「でもそろそろ下校時間が近い。」
「大丈夫、来るさ。」
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-秋穂Side-
教室に笑い声が聞こえる。
とても楽しそうな声。
私がいなくても大丈夫なんじゃないのかな。
私は帰ろうとしたとき、
「でもそろそろ下校時間が近い。」
もうそんなに時間経ってるんだ。
「大丈夫、来るさ。」
春樹...。
私は、足を戻し、教室の扉に手をかけた。
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教室の扉が開かれた。
そこには秋穂がいた。
「・・・バカ、なんで帰らないのよ。こんなに遅くまで残ってさ、私が来なかったらどうするのよ?」
「さぁどうだろうな、もしかしたら学校に泊まってたかもな。」
「そんなこと出来るわけ無いじゃない。警備員さんに追い出されるわよ。」
「はは、そうかもな。でもさ秋穂、・・・お前はちゃんと来たじゃねぇか。」
「それは、その...。」
俺の返答に対して黙り込む秋穂。
「来たって事はちゃんと話を聞いてくれるって事だな。」
「私はまだ聞くなんて言ってないわよ。」
「まぁまぁ、とりあえず座るデスよ秋穂。」
「おとなしくした方が身のため。」
「ちょ、ちょっと2人とも!」
そういって夏美と冬佳は秋穂の腕を引いて、席に座らせる。
「さてまずは、ゴメン!」
そいって俺は秋穂たちに謝った。
秋穂が口を開こうとしたので、遮る感じで俺は言葉を続ける。
「多分秋穂は、俺は悪くないから謝らないでっていうんだろ。でもさ謝らしてくれ。感情に任せて俺はお前らを傷つけた。」
そしてうつむく彼女達。
「俺さ、卒業なんてただの通過点に過ぎないと思ってたんだ。俺達同じ大学だろ。だから卒業しても変わらないだろって思っていた。でもさ、日和の学校の卒業式見たらさ少し不安になったんだよ。入場していく生徒達は色んな気持ちを持っていた。それなのに俺は能天気になにも考えちゃいなかった。俺はこのままでいいのか?ただ流れにまかせて卒業してしまっていいのか?そう考えているうちに周りが見えなくなった。自分を見失った。」
俺はそこで一呼吸置いた。
「そして答えが見つからないことに苛立って、その苛立ちをお前らにぶつけてしまったってわけなんだ。」
「俺はさ、まだ答えを見つけてない。見つかるかもわからない。でもそんな悩んでんのは俺らしくねぇって日和に言われてさ。だから俺は今信じること、やりたいことに集中することにした。」
そして俺は体を向き直し、
「改めて頼む。俺のわがままに付き合ってくれないか?」
頭を下げて頼み、返事を待つ。
「冬佳チョップ。」ドンッ
「うぼぁっ!?」
頭を思いっきり本で叩かれた。
「痛っ、なにすんだよ!?」
「頭を下げるなんてやめて。わたし達はそんな関係じゃないはず。」
「そうデスよ。それに春樹のわがままなんて今に始まったことじゃないデスしね~。」
「・・・もう、悩んでるの自分がバカに思えたきたわよ。」
「たっく、俺の考えに考えた謝罪文句があっさり否定されるとはな。よしっ、じゃあ明日からまたよろしくな。」
そう言うと、彼女達は一度顔をあわせてからこちらを向き、
「「「よろしく!」」」
と元気良く返してくれた。
「まぁとりあえず卒業式まであと5日だ。前日の土曜日にはリハすっから、それまでに完成に近づけるため頑張ろうな!」
「頑張るデスよ~!!」
「やってやるわよ!」
「本気!」
卒業まであと5日と1週間をきった。
1度は崩れかけたピースはその形を戻し、完成に近づいていく。