第12章~喧嘩~
俺はその翌日、まるで魂が抜けたように上の空の状態であった。
特に何かを考えてるわけもなく、ただ窓の外の景色を見つめるばかり。
グランドでは体育の授業なのか、サッカーをしている。
ゼッケンをつけているチームとつけていないチームに分かれている。
強い奴らがかたまっているのか、試合はゼッケン側が一方的に点を入れている。
まぁ所詮授業の一環なのでやる気のある奴もいればただボーっと歩いている奴もいる。
あれが本当の試合ならあいつらはやる気を出すのだろうか?
好きでもないことをやって楽しめるのか?
俺はそんな一方的でつまらない試合に向けていた目線を上にあげる。
空は今の俺の心と同じで灰がかっていた。
(そういや今日は天気予報で午後から雨が降るって言ってたっけ。傘持ってくるの忘れてたな。)
だがいつもの俺なら傘を忘れたことにショックを与えられたかも知れないが、今はそれもどうでもいい。
今は何かを考えるのも億劫だ。
授業もどうでもいい。
なら俺は何をすればいいんだ?
そういや今まで何かに打ち込んでたな。
何をやってたんだろ?
つい最近のことなのに思い出せない。
(はは、今の俺の頭は末期だな。)
「ねぇ、・・き。・・は・き!聞い・・の!春樹!」
誰かが俺を呼ぶ。
誰だ?
「春樹!!」パンッ
何かが割れる音がした。鈍器が割れるのではなく、風船が割れるような音だ。
「うぉっ!?」
大きな音に驚いて音のした方を向くと、どうやらビニールの袋をふくらませって割ったようだ。
「・・・なんだ、秋穂か。何すんだよ、ビックリしたじゃねぇか。」
「ビックリしたじゃねぇかじゃないの!もう放課後よ、何いつまでもボーっとしてるのよ。」
「今日の春樹、いつもと違う。何かあった?」
冬佳が心配そうに聞いてきた。
「・・・特に何も無いよ。俺はいつもと変わらない。」
「そんなこと無いデス!いつもの春樹ならそんな恐い顔してないデスよ。ホントは何かあったんデスよね?」
「本当何かあったとして、それを聞いてどうするんだ?」
「そりゃあ相談に乗るに決まってるデスよ。」
「そうか、ありがとうな。でも本当に何もないから安心しろ。」
「そんなので安心できるわけないじゃない!」
「うるさいな、ほっといてくれよ!!」
俺はしつこく聞いてくる秋穂につい怒鳴ってしまった。
「・・・ゴメン、でも今はほっといてくれ。1人になりたいんだ。」
そして俺はカバンを持ち、教室を後にした。
教室からは誰かの泣く声が聞こえた。
戻って謝らなきゃいけない。
でも俺は教室に足を戻すことができなかった。
学校を出ると雨が降っていた。
俺は雨に濡れることを気にせず、自転車を漕いだ。
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そして俺は帰宅後、シャワーを浴びてからすぐに自分の部屋に行き、ベッドに寝転がった。
カバンに入れていた携帯を開く。
着信もメールも入っていない。
アドレス帳を開き、秋穂のアドレスにたどり着く。
通話ボタンを押そうとするが、指が動かない。
(何ためらっているんだ。俺は心配してくれるあいつらの思いを蹴っ飛ばした。俺は最低なことをしたんだ。謝らなきゃいけないんだ。でもなんて謝ればいいんだ?謝るにしてもちゃんとあいつらが納得する答えを持って謝らなきゃ、さっきの二の舞だろ。)
そんなことを考えてると着信音が鳴る。
着信相手は、日和だった。
俺は通話ボタンを押し電話に出る。
「もしもし・・」「シュン君のバカ!!」
「な、なんだよいきなり!?」
「夏美ちゃんから話聞いたよ。怒鳴ったんだって?嬉し泣き以外で女の子を泣かすのはダメだよ!」
「・・聞いたのか、でもさ俺いまさらなんて謝ればいいのかわからないんだよ。」
そう答えると、向こうからため息が聞こえた。
「そんなの簡単なことだよ。ゴメンなさいって言えばいいんだよ!」
「えっ!?」
俺はまさかの回答に戸惑った。
「いい、喧嘩したんならまずは謝るとこから始めないと前には進めないし答えも出てこないんだよ。」
そういって日和は話を続けた。
「喧嘩したら謝って仲直りは当たり前だよ。ただ人は成長していくとそんな当たり前もわからなくなってしまう。なぜだかわかる?」
俺は答えがわからず黙り込む。
「・・それはね、大人になっていくにつれてプライドや体裁を気にしだすし、謝るにしてもどう謝ればいいかなんて考え込んでしまうの。そして次第に時間が経って謝りにくくなるの。」
日和に言われたとおり、俺はどう謝ればいいか考え込んでいた。
「答えは単純なのにね、みんな謝ることを忘れてしまうの。でもそんなの悲しすぎるよ。だからね、シュン君にはそんな大人にはなってほしくないな。私が好きになったシュン君はそんな簡単なこと、わかっていたはずだよ。」
そうだ、簡単なことなんだ。
卒業のことを考えすぎて、俺は目の前のことすら見えてなかった。
「そうだよな。うん、その通りだよな。ありがとう日和!日和のおかげで忘れてたことを思い出した。」
「それでこそシュン君だよ。それにこんなことで秋穂ちゃん達に差をつけても嬉しくないしね。」
「差をつけるって、何をだ?」
「ふふ、ひ・み・つ!じゃあね、卒業式楽しみにしてるよ!」
そして日和は電話をきった。
そして俺はもう一度携帯を握るが、
「電話越しより、直接言った方がいいかもな。もう遅いし、明日ちゃんと謝ろう。」
俺はとりあえずメールで明日の放課後に言いたいことがあると3人にメールで送った。
数分してからメールが返ってきて、夏美と冬佳からOKをもらったが秋穂からは返ってこなかった。
とりあえず秋穂は翌日直接呼び止めることにする。
ちゃんと謝らなきゃな。そのあとはなるようになれだ!
そのときには、俺の心に灰がかっていた雲はもう晴れていた。