第9章~前進~
「それでね、そのときのシュン君の慌てた顔がね、とっても可愛かったんだよ。」
「へぇ~、あの春樹が慌てるなんて。見てみたかったな。」
「そんなことより日和ちゃん、付き合ってた頃は春樹とどこまでいってたんデスか?」
「ふふっ、どこまでいってたと思う?」
「ふぇ!?それはその、キ、キスとかまではいってたんデスか?」
「キスか~、残念!正解は~、あんなことやこんなことやそんなとこまでいってま~す!」
「新事実、春樹は童貞じゃない。」
修羅場にはならなかったが、俺もうお婿にいけない。グスッ
「あんたも大変だな。まぁ俺達でよかったら話に乗るぜ!」
「ありがとうな、えっと名前まだ聞いてなかったな。」
「そういやそうだったな。俺は九条 慧夜《クジョウ トシヤ》って名だ。気軽に慧夜でいいぜ!あとあそこでケーキを食べ競ってるバカ2名は気にするな。」
「お兄ちゃん、男2人で何やってるの?」
「で、この超ぷりちぃ~できゅ~とでメチャクチャ可愛い女の子が俺の妹、流奈だ!」
「そ、そんなことないよお兄ちゃん!」テレテレ
「あらら、流奈ちゃんが自分の世界に入っちゃったぁ。」
「それで、このふわふわしたのが、幼馴染の星井 光《ホシイ ヒカリ》だ。」
「このショートケーキおいしぃな~。」フワフワ
「ま、まぁだいたいわかった。説明ありがとうな、えっと慧夜。」
「ふっ、気にするな。それにお前を見ていると他人のような気がしないからな。」
「俺もお前が他人のようには見えないよ。周りの奴らには苦労させられるし、ツッコミを入れるこっちの身にもなって欲しいもんだよ。」
「わかるぞその気持ち!こうなったらとことん語り合おうぜ春樹!」
「あぁ!いつでもいいぞ慧夜!」
ここに俺は、とても仲のいい男友達が始めて出来た気がする。
「可愛いだなんて、人前で恥ずかしいよ~お兄ちゃん~。」テレテレ
「なぁ、あれはほっといて大丈夫なのか?なんか自分の世界に旅立ってるようだが。」
「心配しなくてもそのうち戻ってくるさ。」
そして俺達はそれぞれのグループに別れて、各々色々なことで盛り上がるのであった。
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そして1時間後。
「ふぅ。ちょっと俺、外の空気吸ってくるわ。」
「おぅ、ゆっくりしてきな。」
「お兄ちゃん、はいあ~ん♪」
「あっ、ずるいよ流奈ちゃん!私も、はいあ~ん♪」
こいつはある意味リア充ってやつだな。
そして俺はテラスに出た。
「てかテラスがあるって、この店変わってるな。」
ここのお店はこのテラスも売りの一つで、夜にはライトアップするらしい。
だが、今は昼でライトアップすることはないので、今はほとんど人がいない状態だ。
「これじゃまるで貸しきり状態だな。」
「秘密の庭って感じでいいと思うよ。」
俺は振り返って、その声の主を見つけた。
「急に話かけてんじゃねぇよ。びっくりするじゃねぇか。」
「ふふっ、ゴメンね♪」
そして沈黙が始まる。この西洋な雰囲気のテラスがそうするのか、人がいないことも相まってか、そこだけまるで別の世界のように感じた。
「あのさ、」「あのね、」
どちらからともなく出た言葉は、当たり前のごとく重なる。
「な、なにかな?」
「いや、俺はいいよ。日和から先に言ってくれ。」
「そう?じゃあ言うね。」
そして一呼吸おく日和。
「私達って、やり直せないかな?」
その質問はとても簡単なのに、答えがとても難しい。
「・・・どうだろな。」
俺は答えがわからず、曖昧な返事を返す。
「あの事件のことをまだ悩んでるの?」
“あの事件”、その言葉が俺の心に突き刺さる。
「だってあの事件はもう終わったし、私だってシュン君が助けてくれたおかげで酷いことされなかったし、私もう気にしてないよ!」
「そうゆことじゃないんだよ、俺は俺自身が許せないんだよ。俺は日和が襲われた時、ただ暴漢の奴を殺してやりたいと思った。あの時日和が止めなければ俺は奴を殺していた。俺は自分自身を抑えられなかった。そのあとも日和といるとそのことばかりを思い出して、このままでいると俺は日和にあたってしまうかもしれない、だから俺は日和と距離を置くことに決めたんだよ。」
俺は長々と言い訳を並べていく。
「そんなの、言い訳だよ。」
そう、これは俺が逃げるための言い訳。
「もう逃げないでよ、向き合おうよ。」
俺は向き合ってるつもりなんだけどな。これも言い訳かもな。
「私は卒業式の時に別れをシュン君から告げられた。それがシュン君の出した答えならしょうがないと思ったよ。私も新しい道を進もうと思った。でもその行為は逃げてることだと気付いたんだよ。ううん、始めから気付いていたのかもしれない。だから私は向き合うことに決めた。そうしてくれたのはね、慧夜君達のおかげなの。」
あいつらか、いい友達をもったな日和。
「私は慧夜君達に助けられた、だから今度シュン君が助かる番だよ。私は夏美ちゃんや秋穂ちゃん、冬佳ちゃんからシュン君のことを色々聞いたよ。みんなシュン君のこと大切に思っている。だからそろそろシュン君は彼女達の気持ちに答えなきゃダメだよ。そして私だって今でもシュン君のことを大切に思ってる。」
そうか、あいつら俺のことなんていってたんだろ。
「だからね、やり直すやり直さないは今のとこ置いとこう!」
「って置いとくのかよ!」
あっ、やべぇ。ついツッコミをいれてしまった。
「ふふっ、やっぱりシュン君にシリアスな顔は似合わないよ。」
「日和...、お前なぁ。」
「だからね、私が何を言いたいかとゆうとね、いつまでもズルズルと引きずってんじゃねぇ!..ってことだよ。」
いきなりのことにびっくりしたが、どうやら俺は喝をいれられたらしいな。
「ふっ。それ、俺の真似かよ?」
「似てないかな?」
「全然にてねぇよ。でもなんか元気沸いてきたよ。」
「そりゃあシュン君の言葉だからだよ。」
「俺の言葉?」
「そうだよ。シュン君の言葉にはみんなを元気にさせる力があるんだよ。」
「そんな力、使った覚えはないけどな。」
「いいの!シュン君は自分に自信がなさ過ぎだよ!だからもてないんだよ。」
「なんだよそれ、なんか酷くねぇか。」
そしてその場を、2人の笑いで包む。
それは、さっきまで取り残された世界にいたのに、急に元の世界に戻されたような雰囲気となった。
「一応、私の言いたいことは全部言ったよ。シュン君の言いたいことをどうぞ!」
そして俺は自分の用件を思い出す。
「あのさ、日和の高校はさ、卒業式はいつなんだ?」
「えっ、卒業式?来週の日曜日だよ。でもそれがどうしたの?」
「じゃあ余裕でこれるな。いや実はな、俺さ卒業式にさ桜を舞い散らそうと思うんだ。」
「えっ、桜?でもこの時期に桜って咲いてるの?」
「まぁ普通なら咲いてないだろな。でも俺はその普通を壊そうと思うんだ。だからさその瞬間を日和、お前に見せたいんだ。俺が前に踏み出す瞬間を見て欲しいんだ。」
「...シュン君はやっぱりカッコいいね。そういうとこを私は好きになったんだよ。」
「なんだよ急に。」
「ふふっ、別に~。わかったよ、シュン君のところはいつ卒業式なの?」
「再来週の日曜だ。」
「おーけーだよ。そしたらみんもも連れて行っていい?」
「慧夜達か?全然おーけーさ!」
「うん!それじゃあさ、そろそろ戻ろう。みんな待ってると思うし。」
「そうだな、じゃあ行くか。」
そして俺は歩き出そうとしたら、
「待って、シュン君!」
「どうした、日和、ん...」
「んーーー、ふぅ。ふふっ、シュン君と久々のチュウゲットだぜ!」
俺にキスをして逃げていく日和。
「なっ、ちょっとオイ、待てよ!」
日和からの突然のキスに戸惑いながら、俺は日和を追いかけていく。
その光景は、もう過去の鎖を解き放ち、未来へ進んでいるように見える。