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「あ、杏子さん。お目覚めですか?」

「あぁ。おはよう。」

「おはようございます。すみません。気が付かず。」


 椿は音を立てぬよう、ゆっくりと立ちあがる。鴉の抱いている赤子の様子に、椿は安堵の溜息をついた。


「寝てますね。」

「今はな。また少しすれば起きるだろう。」

「変わりますか?」

「後でな。」

「わかりました。」


 そう言うと椿は次に、傍に置いてあった杏子の服を差し出した。昨日と同じものだが、汚れが付いておらず綺麗に畳まれている。昨晩、椿が洗ってくれたのだろうと思い、杏子はそれを有難く受け取った。


「すみません。こちらしか見当たらなくて。」

「大事ない。洗ってくれたのか。」

「えぇ。杏子さんには綺麗なお召し物を着ていただきたいですから。」

「そうか。助かった。」


 そう杏子が返すと、椿は若干眉を顰める。杏子が気付かぬうちに、その顔はいつもの朗らかな顔へと戻っていた。話を逸らすように、椿が言う。


「・・・そろそろお出かけになりますか?」

「そうだな。儂が送っていこう。」


 そう返した鴉は、赤子の機嫌を伺う。小さな寝言を言っているのを聞いて、椿へ差し出した。


「少しの間、頼んだぞ?」

「はい。わかりました。」


 椿は優しい手つきで赤子を受け取る。そのふっくらとした愛らしい頬に、思わず目を細めた。


「・・・この子、本当に元気で。寝たと思ったらすぐにおめめが開くんです。言葉も通じませんし、泣いてばかりで。」


 椿は軽く赤子の頬をつつく。少しだけ寄った眉間の皺に小さく笑い声を漏らした。


「人間の子供って本当に手がかかるんですね。私たちとは全く違う。」


 そう言って椿は赤子の頬から手を離した。そして真っ直ぐ杏子のことを見る。


「すみません。長々と。お帰りを楽しみにしています。」

「あぁ。その前に服を替えさせてくれ。」


 杏子がそう言って脱ぎ始めると、いつもは仄白い椿の頬が真っ赤に染まった。


「ま、待ってください!今後ろを向きますから。」

「別に構いはしない。」

「こっちの問題です!すみません。」


 慌てる椿を見て、鴉が言う。


「全く、若いな。お前さんは。」


 そう言って鴉はケタケタと笑い声を上げた。

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