雨宿りの賭け
「なろうラジオ大賞7」参加作品のため、1000字以内の超短編です。
天気予報通り、昼過ぎから雨が降り出した。
雨足が強まる前にと、生徒たちは昇降口で色とりどりの傘を開くなり急ぎ足で帰っていく。
そんな中、高峰彰は校門を出て少し先にあるたこ焼き屋の軒下で雨宿りをしていた。
―今、彼は賭けの真っ最中なのだ
まもなく校門から出てくるであろう、藤色の傘を持つ幼馴染、橘サナを待っている。
二人は家が近所で、幼稚園も小学校も中学校も高校さえ同じ。
ただ高校は彰は普通科でサナは特進クラス。以前に比べて接点は格段に減った。
今日だって特進クラスは普通科よりも一限多い。
二人が同じクラスになれたのは小六のときが最後だった。あの頃を思い出すと彰の胸はチクリと痛む。
◇
あれは二学期の終わり。彰が朝礼ギリギリでクラスに入るとサナが顔を真っ赤にさせて俯いていた。
クラスメイトのニヤニヤとした視線の先にあったのは黒板に書かれた相合傘。その下には二人の名前が書かれていた。
ご丁寧にもその周りには赤色のチョークで小さなハートまで飛ばして。
「昨日見たんだ〜。彰と橘、相合傘して帰ってただろ〜」
「まじでぇ? 彰やるじゃーん!」
囃し立てる声を彰はぶっきらぼうに否定した。
「うっせぇ。俺と橘が付き合うわけねぇだろ?」
少しヤンチャな部類の自分と、優等生のサナ。これじゃサナに迷惑がかかると思って。
ただ思春期真っ只中の彰の言葉は、思っていたのとは違うニュアンスで伝わったのだろう。
それから二人の間にどことなく距離が生まれた。
◇
藤色の傘が他の色と並んで校門から出てきた。
少しずつ縮まる距離。
……けれど藤色はそのまま立ち止まることなく前を通り過ぎていく。
賭けに負けた、彰はそう思った。
けれど次の瞬間、藤色の傘だけくるりと回ると、Uターンをしてたこ焼き屋の前で止まる。
「朝テレビ見なかったの? 降水確率80%だよ?」
傘を傾けたサナと視線が交錯する。いつぶりだろう。こんな間近で見つめ合うのは。
「あー、寝坊したから。そんなことよりサナの傘に入れてくんねぇ?」
「……またみんなに揶揄われちゃうよ?」
「揶揄われてもいい」
「え?」
「サナが迷惑じゃなければ、だけど」
無言を埋めるように、アスファルトを打ち付ける雨の音が響いている。
「……いいよ」
雨音に負けそうなほど小さな声。けれど彰の耳には確かに届いた。
―彰は賭けに勝ったのだ
藤色の相合傘の下。
胸にずっと秘めたこの想いを伝えるまで、どうかもうしばらく雨が降り続くようにと彰は願った。
たこ焼き屋のおやっさんは、煙草をふかしながらアオハル現場をニヤニヤと見守っています(笑)
ちなみに彰はサナと同じ高校に入るために、必死に受験勉強をしてどうにか普通科に合格しています!
大学受験はきっとサナと二人、図書館で勉強することでしょう。




