第5話 もう1人の声
夜の商店街。
村井健二(50歳・魔法少女に憧れるオッサン)は、ピロポンの隣で立ち尽くしていた。
「……ミア? いや、ピロポン、ちゃんと話してくれよ。」
ピロポンはいつもの毒舌もなく、どこか神妙な顔つきで静かに立っている。
背中のジッパーが、微かに開き――中からかすかに、人間の呼吸音が漏れていた。
> 『……聞こえてる?』
村井は耳を疑った。
その声は、ピロポンからではなく、着ぐるみの奥のどこかから響いてくる。
> 『ワタシはミア――初代魔法少女。今、封印されている。』
「封印……?」
> 『そう。長い間、ここに閉じ込められていた。
魔力の器として、ピロポンに封じられて。
今、あなたがルージュを持ったことで、声を届けられる。』
村井の手元の赤いルージュが、ふわりと光った。
ルージュの光に反応するように、ピロポンの目も一瞬、金色に輝く。
> 『村井健二――あなたは、魔法少女に憧れた中年男性。
でも、ルージュを手にした瞬間から、あなたの中にも魔力が流れた。
この声を聞いて、心を開く準備はできている?』
村井は言葉を失った。
50年生きてきた自分が、こんな形で魔法少女の世界に巻き込まれるなんて――想像もしていなかった。
> 『ミアは今、完全には動けない。
でもあなたの決意が強ければ、ワタシの封印を少しずつ解くことができる。』
ジッパーが、ほんの少し、カチリと音を立てた。
中からは、うっすらと湯気が立ち上る。
封印されているミアの存在を否応なしに示していた。
> 『村井健二……恐れることはない。
魔法少女は年齢や性別ではない。
大事なのは“信じる心”。
さぁ、ワタシと一緒に、この力を使ってみる?』
村井は、赤いルージュを握り締めた。
胸の奥が熱くなる。
背中のピロポンも、微かに震えながら、村井の覚悟を待っている。
> ――二つの声が重なった瞬間、奇跡が動き出す。




