第4話 ジッパーの中の真実
---
戦いの翌日。
村井はぐったりとソファに倒れ込んでいた。
「……筋肉痛、どころじゃねぇな。関節全部悲鳴あげてるわ……。」
魔法少女の変身が解けたあと、身体は完全に“おっさん”に戻っていた。
鏡を見るたびに現実を突きつけられる。
「はぁ……ピロポン、居るか?」
キッチンの隅。
丸っこいピロポンが、アイスノンを頭に乗せて座っていた。
「……死ぬかと思った。あんなに魔力使ったの、百年ぶりだよ。」
「お前も疲れるのかよ、着ぐるみのくせに。」
「うるさいなー! これ、結構重いんだよ!? 中、蒸れるし!」
村井は、ふと眉をひそめた。
「中……?」
ピロポンはピクリと反応し、あわてて立ち上がる。
「い、いやその! 内部構造の話だよ! 通気性の! ねっ!?」
しかしその瞬間、
ピロポンの背中――ジッパーがスーッと半分開いた。
中から、白い腕が見えた。
人間の腕だ。
そして、微かに聞こえた。
『……あつい……でも、まだ……いける……』
村井:「……今の、誰の声だ?」
ピロポン:「え!? あーそれ? ボクの、えーっと……腹話術だよ!」
村井:「嘘つけぇぇ!」
ピロポンは焦って、ジッパーを必死に閉める。
だが、その仕草がどうにも人間臭い。
背中からは湯気が立ち上り、ほんのり石鹸の匂いがした。
「……おい。中、誰か入ってんだろ。」
「……内緒だよ。」
ピロポンは振り向かずに言った。
声のトーンが、いつになく低かった。
「ボクの中には、“もう一人の魔法少女”が眠ってる。
彼女がいなきゃ、ボクは動けない。
ボクは……ただの殻なんだ。」
「……殻?」
「世界が絶望で溢れたとき、
彼女は自分を“希望の器”に変えた。
その中身が、ボク。
外見は笑えるでしょ? ゆるキャラって。
でも、本当は……“祈り”の形なんだ。」
ピロポンの声は、どこか震えていた。
村井は何も言えず、ただ背中のジッパーを見つめていた。
……ほんの一瞬、
その隙間から少女の瞳が覗いた。
淡い金色の光が、村井を見つめ――すぐに消える。
「……おっさん。」
「ん?」
「信じてくれる?」
「……魔法少女がいる世界を?」
「ううん。まだ、誰かが夢を信じてる世界を。」
村井は少し笑った。
「……信じるさ。オッサンでもな。」
その夜、
街の遠くで再びナイトメアの黒い靄が立ち上る。
ピロポンの背中のジッパーが、カチリ、と鳴った。
まるで、中の少女が“目を覚まそうとしている”ように。




