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第12話 失われていく村井



夜明け前の街。

戦いの跡は、まるで夢の残骸のように静まり返っていた。

ルージュ――いや、“元”村井健二は、瓦礫の上に膝をつく。


「……また、倒した……のか?」

呟いた声は、どこか他人のもののように響いた。


耳の奥で、ミアの声がする。

「ルージュ、変身を解除して。もう限界よ」


だが、ルージュはゆっくりと首を振った。

手のひらを見つめると、指先がかすかに透けて見える。

――まるで、存在そのものが削り取られていくようだった。


「なぁ、ミア……」

「なに?」

「俺って、どんな顔してたっけな」


ミアの表情が一瞬、強張った。

「それ……冗談で言ってるの?」


「冗談で言えるなら、よかったんだけどな……」

ルージュの笑みは痛々しかった。

記憶が、確かに薄れている。

昨日食べた夕飯も、家の住所も、思い出せない。

そして――“村井健二”という名前の響きさえも、どこか遠くなっていく。


ミアは歯を噛みしめた。

「……言わなかったの。ごめん。

 “魔法少女ルージュ”の力は、本来、記憶と存在を代償にして成り立つ魔法。

 あなたは人間として使うべきじゃなかったのよ」


「そうか……」

ルージュは空を見上げた。

夜明けの光が、頬を照らす。

その光が、まるで彼の輪郭を溶かしていくように感じた。


「でもな、ミア。俺……後悔してねぇよ」

「どうして?」

「誰かを守れた。誰かが笑えた。それだけで……十分だろ」


ミアの瞳が揺れる。

ルージュの身体は、光の粒となって消え始めていた。

「待って、お願い、戻ってきて……!」


ルージュは微笑んだ。

「……ミア。もしもう一度、生まれ変われるなら……」


その言葉の続きを聞く前に、風が吹いた。

ルージュの姿は、光の中に溶けて消えた。


ただ、彼のルージュだけが、瓦礫の上に転がっていた。

淡い赤が、朝の光に滲んでいた。





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