第9話 新たな力と試練…そして代償
夜明け前の街。
ビルの谷間に立ち尽くす“彼女”――いや、“彼”。
魔法少女ルージュとなった村井健二は、変身を解いた後も、なぜか元の姿に戻れなかった。
「……あれ? ルージュのまま……?」
頬に触れると、そこには柔らかな少女の肌。
鏡を覗けば、50歳のオッサンではなく、ルージュの姿のまま。
魔力の光がまだ彼女の体を包んでいる。
ピロポンが焦り気味に声を上げた。
> 『ちょっと村井! 変身解除の呪文、ちゃんと唱えた?』
「唱えたよ! おかしいな……いつもなら――」
その時、ピロポンの背中のジッパーが小さく震え、
中からミアの声が、どこか悲しげに漏れた。
> 『……言えなかったの。
“魔法少女の力”は、使うたびに現実の自分を削るの。』
村井は息を呑んだ。
「……削る? どういう意味だ、それ……?」
> 『変身を重ねるごとに、魔力があなたの魂と融合していく。
最初は慣らし変身だから戻れる。
でも――本格覚醒を果たした今、あなたはもう“ルージュ”として固定され始めている。』
ピロポンが目を伏せる。
> 『つまり……アンタ、もう“オッサン”に戻れないってこと。』
村井は言葉を失い、空を見上げた。
薄明るい朝焼けが、街をゆっくりと照らしていく。
> 『私も同じだった。
魔法少女として戦い続けて……最後は“ミア”としてしか存在できなくなった。
だから封印されたの。自分を失わないために……。』
静かに語るミアの声は、どこか震えていた。
村井はゆっくりと息を吐く。
「なるほどな……“憧れ”には、代償があるってことか。」
ピロポンがふざけるように肩をすくめる。
> 『ま、オッサンが美少女になって戻れないとか、前代未聞だけどね。
でも……それでも戦う?』
村井は赤いルージュを見つめ、微かに笑った。
「俺は……憧れてたんだ。誰かを守れる“存在”に。
それが、たとえオッサンじゃなくても――俺であることには変わりない。」
ルージュの光が再び輝きを増し、
風が舞い上がる。
ミアの声が静かに重なる。
> 『……ありがとう、ルージュ。あなたなら、きっと後悔しない。
でも――この先に待つのは、“存在の消失”よ。』
その言葉は、夜明けの空に溶けていった。
村井――いや、魔法少女ルージュの瞳に宿るのは、
悲しみでも諦めでもなく、ただまっすぐな“覚悟”だった。
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次回、第10話
「存在の境界線」
――ルージュは現実世界で次第に“村井”としての存在が薄れていく。
同僚に忘れられ、記録から消え、彼自身も“誰だったか”を思い出せなくなっていく。
だが、その代わりに――“真の魔法少女の力”が目覚め始める。




