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類は友を呼ぶ  作者: 手下
7/23

サイコロ持ち歩く系女子

 麗人は、昼休憩になると購買へと向かった。


 食堂もあるが、あそこは常に人が多く、席もほとんど埋まっていて、空いている席を探すのに苦労する。 最初こそ食堂を利用していたが、それが次第に面倒になっていき、今では購買か登校中に近くのコンビニに寄って弁当を買うかのどちらかになった。


 今日は、本当ならコンビニに寄って弁当かパンを買うつもりだったのだが、寝坊してしまったので立ち寄る暇がなかった。


 ちなみにギリギリ間に合った。

 昔から足が速く、中学の時に陸上部の顧問から熱烈に勧誘されていたほどで、その末脚がここにきて役に立った形だ。


 麗人は購買に向かう途中で、必ず三組の教室を通りすがらチラッと覗いている。


 彼の目的は、三組にいる心乃実の様子を伺うことだ。

 二人は別々のクラス。麗人は一組、心乃実が三組だ。


(……また一人か……)


 心乃実の席は、真ん中の列の、後ろから二番目。

 そこで彼女はいつも一人で手作りと思しきお弁当を黙々と食べている。


 麗人には一つだけ気になっていることがあった。

 それは、心乃実に友達がいないんじゃないかということ。


 心乃実が自分以外の人と話しているところを今のところ見たことがなかった。

 たまたま、と言われればそれまでなのだが、気になっている。

 

 お昼を誘いたいが、もし友達がいたら邪魔してしまうことになるし、一人の方が気楽で良いということもありえる。

 そう色々と考えてしまって、なかなか一歩を踏み出せないでいた。

 何かきっかけがあればなぁ、と日々願うばかりである。


 そんなこんなで購買へとやって来た麗人は、食堂ほどではないが、ちょっとした列に並ぶ。


 列に並んで自分の番がまだかまだかと待っていると、後ろからカランコロンと何かが転がる音が聞こえてくる。

 それも一回だけでなく、二回、三回と。


 カランコロン、カランコロン、カランコロン。


 すぐ後ろで聞こえるその音に、麗人に気になった。一体何の音なんだろうかと。彼は振り向いてみることにした。


 振り向くと、そこには、サイドテールの女子生徒が立っていた。彼女の右手には小さなお椀があり、中にはサイコロが一つ見える。


(な、何をやってるんだ……サイコロ……?)


 サイコロとお椀を見て、麗人はすぐに音の正体がわかった。

 サイコロをお椀の中に向けて振った時に転がる音が、先ほど聞こえていた音の正体だと。


 しかし、なぜそんなことをしていたのか、というところまでは辿り着けなかった。


「あの、私に何か用ですか?」

「あ、いや、何でも……」


 サイコロとお椀を持つ光景があまりにも予想に反していたので、ついジッと見てしまっていた。


 彼女は自分がどうして見られているのかわかってない様子。むしろ、圧倒的なイケメン顔の麗人に見つめられ、ドキドキしていた。


「あの、一つ訊いてもいいかな?」

「な、何でしょうか……?」


 緊張した面持ちの彼女に、思い切って訊ねてみる。


「それ、さっき何回か振ってたよね? どうして? 別に言いたくなかったら全然答えなくていいんだけど」

「これですか?」

「そう、そのサイコロ」


 サイコロとお椀から一瞬、チンチロという博戯(はくぎ)を連想したが、サイコロがあと二つ足りない。

 チンチロは三つのサイコロを同時に振って、出た目で役が決まる。


  一つのサイコロを三回振ってやれば出来なくはない。もし彼女が購買の列に並びながら、一つのサイコロを振ってチンチロをやっていたのだとしたら、彼女は生粋のギャンブラーだ。


 彼女は両耳に数字の『3』の形をしたピアスを付けて、中指にはこれまた数字の『3』の形をした指輪をしている。サイドテールに結んだヘアゴムにも数字の『3』の形をした銀製の装飾が付けられている。


 数字が好きなのか、3が好きなだけなのか、それはわからないが、彼女は3に拘っているように見える。


 そんな彼女は、お椀の中のサイコロを摘んで、まるで宝石でも見るかのような眼差しで三の目の部分を見つめながら答える。


「このサイコロに導いてもらっていたんです。私、一人だと何も決められないから、代わりにサイコロを振って決めてもらうんです」

「えっと、占い的な感じ?」

「そうです。サイコロを三回振って、出た目を足して、その合計が奇数か偶数かで判断してどっちの道に行けばいいのか判断しているんです」


 説明しよう。


 例えば、メロンパンとあんぱんのどちらかを食べるか迷っていたとする。

 それぞれ、奇数はメロンパン、偶数はあんぱんと振り分ける(ここは彼女の感覚になる)。

 そしてサイコロを三回振る。

 もし、一、五、二、だった場合、その数字を足すと九となる。

 九は奇数なので、メロンパンを食べることに決まる、というわけだ。


「なるほど……でも、それって選択肢が二つの時だけに限定されるよね?」

「鋭いですね。そうなんです。奇数と偶数で判断しているので、奇数の場合と偶数の場合の二つしか選択肢がないんです。もし三つや四つあった時は、サイコロの一から六にそれぞれ振り分けて普通に振ります」

「そこは奇数偶数じゃなくなるんだね……」


(てっきり奇数とか偶数が好きなのかと……特に拘ってる感じがしないから、ただサイコロに自分なりのルールを当てはめて決めてるってことかな)


「話は変わりますけど、一組の陽志くんで合ってますよね?」

「え、そうだけど、どうして名前を? どこかで会ったっけ?」

「いえ、会ったことはないです。ただ、入学式の時から物凄いイケメンがいると話題になっていたので」

「そ、そうなんだ」


 イケメンと言われると嬉しい反面、反応に困る。

 こういう時、否定したら嫌味になりかねないし、肯定したらナルシストっとぽくて嫌だし、正しい反応の仕方がイマイチわからない。

 なので、否定も肯定もしない苦笑いでよく乗り切っている。


「えっと、君は?」

「あ、そうですね、名乗ってませんでした。私、一年三組の三三(さざみ)三希(みつき)って言います」

「俺は陽志麗人」

「陽志くんって呼んでもいいですか?」

「いいよ」

「それなら、私のことは呼びやすいように呼んでください」

「じゃあ、三三さんって呼ぶよ。というか、何で敬語? 同級生なんだし、タメでいいよ」

「初対面の人とは敬語で話すのが常識だってお母さんとお父さんが言ってましたから。でも、陽志くんがタメで良いって言うなら……こほん……タメでいくね」


(凄く礼儀正しい子だな)


 初対面からタメ口だった麗人は、自分が恥ずかしくなった。


「陽志くん、順番来てるよ」


 三希にそう言われて前を向くと、購買のおばちゃんと目が合った。

 おばちゃんは麗人と目が合うとニッコリと笑みを浮かべる。


 後ろにはまだ数人並んでいるので、あまり時間はかけたくない。とりあえず真っ先に目についたハムカツサンドを手に取る。


 その瞬間、後ろから悲鳴が上がる。


「きゃあ!」

「なになにどうした!?」

「そ、それ、私の、私のやつ……」


 三希が震えながら指したのは、麗人が手に持つハムカツサンド。


「それ、それを食べなければ私は……想像を絶するほどの不幸に見舞われてしまうぅ……」

「そ、想像を絶するほどの不幸……?」

「そう……さっきサイコロを振って奇数が出たの、そして奇数が出たら食べるって決めてたのがそのハムカツサンド……もし食べれなかったら、サイコロの運命に抗ってしまうことになる。なんて罰当たりなことを……うぅ、私は、どうすれば……」


(さ、サイコロの運命重くない? それに、想像を絶するほどの不幸ってなに?)


「えっと、適当に手に取っただけだから、良かったら」


 麗人は、その場で頭を抱えて項垂れる三希にハムカツサンドを差し出す。 


「い、いいの?」

「さっきも言ったけど、適当に手に取っただけだから」

「ほんとに? 食べたかったら食べてもいいんだよ?」

「これがめっちゃ食べたいってわけじゃないから。そもそもコンビニで弁当買うつもりだったし。遅刻しそうでそんな暇なかったんだけどね。だから遠慮しなくていいよ」

「そ、そう……?」

「うん。俺はカレーパンにするよ」

「それなら、奢らせて!」


 財布を取り出して奢る気満々の三希に、麗人は首を横に振る。


「奢る必要はないよ。ただハムカツサンド渡してるだけだし」

「でも……」


 言いながら彼女は折り畳み式の財布をパカっと開けて、小銭入れのチャックを広げる。


(奢らなくていいって言ってるのになんでこの子はお金を取り出そうとしてるの?)


「いやほんとに大丈夫だからさ」

「大丈夫なので!」

「いやなにが? って払おうとしてるし」


 麗人の脇をスススッと抜けて、おばちゃんにお金を渡そうとしている。

 麗人は彼女の腕を掴み、ギリギリのところで支払いを阻止する。


「すみません、これで」


 すかさず電子決済アプリを開き、専用の読み取り機にバーコードを読み取らせる。

 ピコン! とあっという間にに決済完了の音がスマホから鳴った。

 

「な!?」

「これが電子決済のスピードなのだよ」


 麗人はドヤ顔を披露する。

 三希はそれを見て、むぅ、と悔しそうな顔をする。


「それじゃあ、また会ったら」


 キャッシュレス派の圧倒的なスピード決済を見せつけた麗人は、その場から颯爽と立ち去るのだった。

 後を追いかけられそうな雰囲気だったので、足早に逃走である。


 ──その後。


 教室に戻って来た麗人は、自席に着き、カレーパンを一口齧る。


「からっ」


 口の中に広がる辛味。中のカレーは明らかに辛口だった。

 前に食べたハバネロ激辛パフェほどではないが、辛いことに変わりはない。

 一口齧っただけで、額にほんのりと汗が滲む。


(これ思った以上に辛いな。心乃実が好きそうな辛さかも。きっと気に入るぞ)


 嬉しそうにカレーパンを頬張る心乃実を想像して少しにやけながら、辛口のカレーパンを食べていると、教室のドアを開けて一人の女子生徒が入って来た。


 彼女は迷うことなく麗人の席に行くと、机の上にサッとお金を置く。


「受け取って」

「これは?」

「カレーパンのお金だよ」


 受け取れと言わんばかりの圧をかけられる。


「いやいや、受け取れないよ」


 そのお金を受け取るということは、奢られた、ということ。


「何度も言うけど、ハムカツサンドは別に食べたくて手に取ったわけじゃなくて、目の前にあったから何となく手に取っただけだからね」

「わかってるよ。でも、譲ってくれたことに変わりないでしょ。その善意を貰ったままだと落ち着かないの」

「気にしなくていいのに」


(さて、どうしたものか……)


 机の上のお金を見つめる。


(ほんとにただ目の前にあったのを取ったら、たまたまハムカツサンドだったんだけど)


 特別食べたかったわけではない。ほんとに何でも良かった。


「このカレーパン美味しくて、こっちにして正解だったと思ってる。だからハムカツサンドの件は気にしなくていいよ」

「それはダメだよ」

「なんでよ……」

「受け取ってくれないなら、このお金はここに置いとくね!」

「置いとくって……」

「これが現金派の強みなんだから!」

「それは強みなのか……って行っちゃってるし」


 三希は有無を言わさず、そそくさと教室を出て行った。


「強引だなぁ」


 机の上に置かれたお金を見て、麗人は小さなため息を吐くのだった。

かなり長くなってしまいましたが、ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

拙い文章で読みにくい箇所があると思いますが、少しでも楽しんでいただけていたら幸いです。

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