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類は友を呼ぶ  作者: 手下
23/23

普通なデート その3

 ラーメン屋でお腹を満たした後、二人は水族館へとやって来ていた。


「デートと言えば、水族館も外せないよね」

「そうなのか?」

「そうだよ、周りカップル多いでしょ?」


 言われて心乃実は周囲を見回す。

 手を繋いで歩く男女がそこらじゅうにいる。家族連れもいるが、カップルの方が圧倒的に多い。


 そんな中で高身長イケメンの麗人と上下黒のジャージ姿の心乃実はよく目立っていた。良くも悪くも。

 

「確かに多いな」

「でしょ? それはね、水族館っていうのは、単に見てて楽しいだけじゃなくて、会話に困らないってところがある」

「会話?」

「そう、特に初デートなんか緊張するから、どうしても気まずい間ができてしまう。その間を埋めてくれるのが、この水槽の中を自由に泳ぐ魚たちなんだ」


 麗人は続ける。


「気まずくなったら、とりあえず魚たちを鑑賞する。そうすることで、気まずい間が、魚を鑑賞している時間に差し代わる。それに、もうすぐ着くけど、イルカショーがあったり、ペンギンに触れ合えるコーナーがあったり、楽しいアトラクションが多いから、初デートで緊張してても十分に楽しめる」

「なら、れいは緊張してるのか? デートするの今回が初だろ?」

「まぁ、多少はね」


 緊張もあるが、それ以上に、心乃実とこうして一緒に歩いているのが楽しかった。


「心乃実は緊張してる?」

「俺はしてないな。不思議とな、れいと居ると落ち着くんだ。お前が落ち着いてるからか?」

「よく落ち着いてるね、とは言われるけどね」


 内心では焦っていても、それを表立って出すことはない。焦らないのではなく、静かに焦るタイプなのである。


 そうこうしているうちに、二人はイルカショーが開催される会場へと到着した。


 真ん中に円形の巨大な水槽があり、それを囲うようにベンチが設けられている。

 前列に座る人たちは、イルカが起こす水飛沫に濡れる可能性があるので、スタッフから透明のレインコートを渡されている。


 間近でど迫力のイルカショーが見られるので、前列の席は既に埋まっていた。

 なので二人は、やや後方の方に座った。


 少し遠いが、ここからでも十分に見える。

 むしろ、全体を見渡せるので、前列のような迫力はないが楽しめるだろう。


 程なくして、イルカショーが始まった。


 ⭐︎


「イルカ可愛かったな!」

「可愛いでしょ! イルカのあの無邪気さが好きなんだよね」


 イルカショーが終わり、二人はやや興奮気味に会場を出て、次にクラゲが飼育されているエリアへと向かっていた。


 クラゲエリアは、心を落ち着かせる優しい青い光が薄く照らしているだけで全体はとても薄暗い。

 その薄暗さが、水槽内をフワフワと優雅に舞うクラゲの神秘さをより魅力的なものにしていた。

 

 イルカショーを経てやや興奮気味な二人の気持ちを落ち着かせるには丁度良い暗さと静かさだ。


 水槽の中には形も色も大きさも違うクラゲたちがフワフワと泳いでいる。

 そのゆったりとした姿に、思わず時間を忘れてしまう。


「れい、あれ凄いぞ、めっちゃ大きいクラゲだ」


 他の水槽とは別で一際大きさ水槽の中に、人間を食べていそうなほどの大きさのクラゲが浮いていた。


「でか……ここに世界最大級のクラゲって書いてあるよ。へー、こんなクラゲがいるんだ、知らなかった」

「こんなのが泳いでると思ったら海って怖いな」


 二人は、ほへぇ、と言った感じで、水槽の中でオブジェクトのように浮いた世界最大級のクラゲを眺めた。


「れい、こっちはめっちゃ小さいクラゲがいるぞ」


 覗き込むように水槽の中の無数の小さなクラゲたちを眺める心乃実。

 半透明なそれらは、稚魚のように小さく、上下左右の区別なく自由にフワフワと浮かんでいる。


「ほんとだ、小さいね。さっき世界最大級の見た後だから、物凄く小さく見えない?」

「確かにな。あの大きいのより、こっち小さい方が可愛いな」


 心乃実は目を細めてニッコリと笑う。

 優しい青い光に照らされたその笑みは、このまま少し顔を近づけばキスできるほど近くて……麗人は思わず顔を近づけそうになった。


(あ、危なかった……キスしそうだった……)


 キスは別に悪いことではない。むしろ、恋人同士のスキンシップとしては当たり前のものだ。


「か、可愛い……」

「れいもそう思うか、やっぱりあの巨大なのより、こっちの方が可愛いよな」


 溢れ出た気持ちは、残念なことに彼女にはクラゲのことだと思われてしまったみたいだ。


 水族館の最後には、グッズコーナーがある。

 そこでは、ここの人気者とも言えるイルカやペンギンなどのぬいぐるみや、ボールペン、ブロマイドなど、様々なグッズが売られている。


「このぬいぐるみ可愛いな」


 心乃実は自身の上半身ほどあるイルカのぬいぐるみを手に取った。


「しかも触り心地最高だぞ」


 触ってみろ、と心乃実はイルカのぬいぐるみを麗人に近づけた。

 麗人は頭を軽く撫でた。


「お、確かに触り心地いいね」

「だろ! よしこれ買うか」

「それならプレゼントさせて、記念にさ」

「プレゼントか、なら、俺もれいに何かプレゼントしたいな、何が良い?」

「そうだなぁ……」


 デートの記念としてお揃いの物は欲しい。

 けれど、何もプレゼントは物じゃなくてもいいんじゃないか、と言う悪魔の囁きが彼を惑わす。


 ──キスがしたい。


 まだ一度も交わしたことがない彼女との接吻。

 麗人だって年頃の男の子だ。そういう行為に興味がないわけではない。


 彼女の唇がどんな感触なのか、触れ合った時、どんな反応をするのか。感じたい、知りたい。その気持ちで揺れていた。


 でも、ここでいきなりキスがしたいなんて言ったら引かれる可能性もあった。

 

 悩んだ末、麗人は、


「俺もそのぬいぐるみにする」


 お揃いの物を買う。これが彼が出した結論だった。


(まだ焦らなくていい……うん……)


 そう言い訳をするが、事実、日和っただけである。


「それプレゼントする意味あるか?」

「あるある。同じ物でも心乃実から貰った方が何十倍も嬉しいじゃん」


 自分で買うよりも、心乃実からプレゼントされたという思い出がぬいぐるみに刻まれる。

 それが例え同じ物でも、その思い出が宿ることで特別な物になるのだ。


「そうか、れいが嬉しいならそうするか」


 納得してくれたみたいで、心乃実はイルカのぬいぐるみを持ってレジに並んだ。


 それから二人は、お互いにイルカのぬいぐるみをプレゼントし合った。


「嬉しそうだな」

「だって心乃実からのプレゼントだよ? 嬉しいに決まってるよ」


 宝物が一つ増えた。


「ありがとう心乃実」

「それは俺もだぞ、ありがとな、れい!」


 歯を見せて無邪気に笑う彼女の腕には、先ほど麗人がプレゼントしたイルカのぬいぐるみが抱きしめられている。


「帰ろっか」

「そうだな」


 まだまだ一緒に居たかったが、もう17時になる。

 楽しい時間はあっという間だ。


「心乃実」

「ん? なんだ?」


 グッズコーナーを出て、水族館の出入り口に続く薄暗い廊下を歩きながら、麗人は彼女の名を呼んだ。


「手、繋ぎたいな」


 その声は少し震えていた。

 それは緊張からくるもので、彼としては思い切った発言だった。


 嫌だとか言われたらどうしよう、なんてことを考えていると、心乃実から手を繋いできた。


「っ!」


 驚いて彼女を見ると、少しはにかんでいた。


「実はな、俺も繋ぎたかったんだ」


 恥ずかしそうに笑う彼女に、麗人は心打たれた。

 なんて可愛いのだろうと。

 このまま抱きしめたくなってしまうほどに、彼女のことが好きで好きで堪らなくなった。


 それでも、流石に人目の付く前で抱きしめることはしない。

 もし誰も居なかったら、何の躊躇いもなく抱きしめていたことだろう。


 麗人は心乃実の小さくて細い手をぎゅっと握り返した。

 

(ずっとこうしていたいな……)


 嬉しかったのは、手を握りたいと思っていたのが自分だけじゃなかったこと。

 それがわかっただけでも、大きな進展だった。


「今日はありがとな。普通のデートってやつがよくわかったよ」


 二人は今、心乃実の家の前に来ていた。

 今朝集合した映画館で解散するつもりだったのだが、一秒でも長く手を繋いでいたかった麗人からの提案で彼女を家まで送ることとなった。


「普通っていうのも案外悪くないな。れいと一緒だったからかもな」

「嬉しいこと言ってくれるね。俺も心乃実と一緒だったからホラー映画観ることができたし、一人だったら途中退席してたよ」

「夜寝れそうか?」

「たぶん……部屋の電気消さなかったら寝れるかも」

「それなら俺が一緒に寝てやろうか?」

「それはそれで寝れないよ」


(心乃実が隣で寝てるとかドキドキするでしょ)


「そうか、れいは一人で寝る派なんだな」


(なんでそうなるの! もしかして、隣で寝てるところを想像してドキドキしてるのって俺だけか……)


 心乃実の反応を見るに、想像すらしていなさそうだった。


「一人で寝る派じゃないからね。心乃実が隣に寝てるとドキドキして眠れないって意味だから」

「そういうことか。俺と寝るのはドキドキするのか?」

「逆にしないの?」

「したことないから想像できん。今度やってみるか」

「え!?」

「何をそんなに驚いてるんだ? やってみないとわからないだろ?」

「それはそうだけど……」


(それってつまり、泊まりってことだよね?)


 色々と想像してしまう。

 心乃実の風呂上がり、パジャマ姿、寝顔など……ドキドキが止まらない。


(でも、泊まりってなると、俺の親は大丈夫だけど、心乃実のご両親が許してくれるかどうか……その前に挨拶しに行った方がいいよな? 向こうからしたら何処の誰かもわからないわけだから)


 ご両親への挨拶を想像して、違う意味でドキドキしていた。


「とりあえずまずは挨拶からか……」

「何を一人で言ってるんだ? さっきからぼーっとしてるぞ」

「あ、ごめんごめん、ちょっと考え事してて」

「考え事?」

「その、いつかは心乃実のご両親に挨拶しとかないとでしょ、それをね、ちょっと考えてて」

「今家にいるぞ、呼んでこようか?」


 麗人は親を呼びに行こうとする心乃実の腕をガシッと掴み静止させる。


「一旦落ち着こうか」

「俺は落ち着いてるぞ、というか力強いな」

「あ、ごめん……俺が落ち着いてなかったよ」


 そっと、腕から手を離す。


「今日は急すぎるし、何も持って来てないから、挨拶は日を改めてさせて」


(心の準備もしないといけないし)


「そうか、それなら帰るか」

「うん」

「じゃあな、また学校で」

「またね」


 お互いに手を振り合う。

 心乃実が玄関の鍵を開けて家に入っていくまで手を振り続けた。


 家のドアが閉まったことで、楽しい一日が終わってしまった。

 楽しかった分、こうして終わる時は寂しくなる。


(またデートしたいな)


 そんなことを思いながら、麗人は心乃実の家に背を向けて帰路についた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

拙い文章ではありますが、少しでも楽しんでいただけていたら幸いです。

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