普通なデート その2
「楽しみだな」
「楽しみだね……」
ニコニコな心乃実とは対照的に、麗人の顔は少し強張っていた。
それは緊張と不安からくるもので、あと数分程度で始まる映画に対してのものだ。
二人は真ん中の列の席に座っている。
目の前の巨大なスクリーンには、映画の予告やスポンサーのCMが流れている。
「ホラー苦手なんだろ? 今さらだけど大丈夫か?」
強張った顔の麗人を見て、心乃実は心配そうに訊ねた。
「もしかしたら叫ぶかも。これけっこうびっくり系らしいからさ、うわっ! とか急にやられる系苦手なんだよね」
二人が今から観るのはホラー映画だ。
デートの定番と言えば映画を観ること。
そこで心乃実に観たい映画があるか聞いてみたところ、今から観るホラー映画の名前が上がった。
彼女は大のホラー好き。
もし麗人に誘われていなければ、一人で観に行くつもりだった。
対して麗人はホラーが大の苦手。
今まで避けて来たジャンルだったが、心乃実と一緒なら挑戦してみても良いと思った。
「叫びそうになったら俺の手を握ればいい」
そう言って心乃実は不意に麗人の手をぎゅっと握った。
「っ!」
指と指を交差したその握り方は、俗に言う、恋人繋ぎだ。
これには麗人の心臓はバクバクと高鳴った。
握るとよく伝わってくる。
彼女の指の細さ、滑らかな肌、ほんのりと温かい体温。
(確かに、これは怖くないかもしれない)
「どうだ?」
「凄く良いね。ずっとこうしてていい?」
「いいぞ! 好きなだけ握ってていいからな」
「ありがとう」
(映画が終わっても握り続けていよう)
好きなだけ握っていいと言われたので、好きなだけ握る事にした。
やがて、巨大なスクリーンに流れていたCMや映画の予告から鑑賞マナーの告知映像へと切り替わった。
『無断撮影、アップロードは違法です』
その後、その映像が終わると、シアタールームの照明がスッと消えて、一気に薄暗くなる。
(いよいよか……)
自然と握る手が強くなる。
そして、映画が始まった。
⭐︎
「大丈夫か?」
「大丈夫、大丈夫……」
目の前の巨大なスクリーンにはエンディングロールが流れている。
1時間30分ほどあった映画がようやく終わった。
エンディングが流れ始めてから、席を立つお客の姿がちらほらと見受けられる。
「脅かし要素多すぎて、わかっててもびっくりするね」
おまけに映画館特有のど迫力のサウンドも相まって、怖さが倍増だった。
「心乃実は大丈夫だった?」
「あれくらいは平気だな。そもそも脅かしにはめっぽう強いからな俺は」
「凄いね。俺なんか全部の脅かし要素にびっくりしたよ」
ホラー系は苦手でも、好きな人の前では毅然に立ち振る舞いたかった。
お客さんの中には何人か叫んでいる人はいたが、麗人は驚きすぎて声すら出なかった。ただひたすらビクッと静かに驚いていた。
お陰で内容は一切入って来なかった。覚えていることは全て突然脅かしてくるシーンのみ。
かっこ悪いとこ見せちゃったなぁ、と麗人はボソリと呟いた。
やがてエンディングロールは終わり、暗かったシアタールームに明かりが灯った。
「そろそろお昼だね。お腹の具合はどう?」
「意外と減ってるな。そっちはどうなんだ?」
「俺も減ってる。びっくりし過ぎてカロリー消費したのかもね」
朝食にまぁまぁボリューミーなハラミサンドを食べた二人だが、お腹の具合は良い感じに空いていた。
「それじゃあラーメン食べに行こうか」
「だな!」
お腹の空き具合では、当初予定していたラーメン屋に行けないと思っていた。でも今は、ホラー映画のお陰が、それとも二人の代謝が良いのかは不明だが、ラーメン一杯は余裕で入るだろう。
二人は次に目的のラーメン屋に向かった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
拙い文章ではありますが、少しでも楽しんでいただけていたら幸いです。




