幼馴染 その8
放課後の校舎裏で、心乃実と三希は生い茂る雑草を掻き分けてサイコロの捜索を始めていた。
「…………」
「…………」
二人は黙々と見つかるはずのないサイコロを探してる。
そこへ、麗人たちが到着する。
雑草を踏む足音に心乃実はすぐ気付き、顔を上げた。
上げた先にいる麗人に、彼女は険しい顔をして言う。
「見つからないな。もしかしたら風で飛ばされてる可能性があるぞ」
「そのことなんだけど……」
そう後ろを振り向くと、そこには誰もいなかった。ここに来る時まで後ろを歩いていたはずの隣人の姿がどこにも見当たらない。
(あれ? さっきまで居たはずなんだけど……もしかして……)
「ちょっと待ってて」
麗人は心乃実にそう言って、すぐそこの角を曲がった。
すると案の定、隣人が息を殺して立っていた。
「何やってるの?」
「やっぱり無理だ……今さらどんな顔して会えばいいのかわからない」
「そこは……頑張れよ」
「お前、俺をフォローするって言ったよな? だったら何とかしてくれよ」
「凄い無茶振りだね。そもそもフォローする前に、君がまず先に三三さんのところに行かないとフォローのしようがないよ」
隣人は直前になって怖気付いていた。その説得に取り掛かるも、難航しそうな予感が漂っていた。
「もしここで逃げたら、三三さんと顔合わせるのもっと気まずくなるよ? 好きなんでしょ、三三さんのこと」
「だ、誰があんな奴、好きになるかよ……」
頬を赤らめてそんなことを言う隣人に、麗人は笑いそうになった。
(ここまで来ると清々しいな。好きですって顔に書いてあるのにさ)
「別に好きじゃないならこのまま疎遠になってもいいんじゃない?」
ちょっと意地悪なことを言うと、隣人は食い気味に否定する。
「そ、それは嫌だ!」
「それなら勇気を出して行くしかないよね」
「うぅ、そうだよな……」
「今行って謝れば全然まだ間に合う」
そう説得をしているところ、なかなか戻って来ない麗人に痺れを切らした心乃実がやって来た。
「お前ら何やってるんだ?」
「あ、心乃実、待っててって言ったのに」
「ちゃんと待ってたぞ? でも全然戻って来ないから何やってんのかと思って様子見に来たんだ。それで、その女は誰だ?」
心乃実は隣人の顔をじっと見つめる。
「彼は女の子じゃないよ。三三さんの幼馴染で、長内隣人、男だよ」
「男なのか……」
心乃実は信じられないと言った顔で隣人の顔をマジマジと見つめる。
「美形というやつか。三希のサイコロを奪って外に投げたくらいだから、もっと悪そうな奴なのかと思ってた」
「わ、わざとじゃないからな! たまたま手が滑って……」
「でも奪ったのは事実なんだろ?」
「まぁ、それは……」
「心乃実、それくらいにしよ。長内は三三さんに謝るためにここに来たんだから。それに、サイコロは彼が既に見つけてる」
「なに!?」
心乃実は目を見開く。
「サイコロはどこだ? 今持ってるのか?」
「あぁ……」
隣人はポケットからサイコロを取り出す。
「だからいくら探しても見つからなかったのか」
「そういうこと」
「なら今すぐ渡しに行け。三希にはそれが必要だ。それがなくてずっと不安がってる」
「わ、わかってるよ」
それでも、なかなか一歩を踏み出そうとしない隣人に、麗人はやれやれといった風に肩をすくめる。
(これじゃ埒が明かないな)
このまま日が暮れるまで粘られそうな雰囲気だ。
(仕方ない、少々荒っぽいやり方だけど……)
麗人は、隣人の肩にそっと手を置く。
「もう呼ぶね」
「え、よ、呼ぶ? どういう──」
「三三さんちょっと来てくれる!」
動揺する隣人を無視して、麗人は叫んだ。
「なにー?」
何も知らない三希から空元気のような声が返ってくる。
「ちょっと来て!」
「お、おまっ、な、何してんだっ」
隣人は胸ぐらを掴み掛かりそうな勢いで迫った。
「こうでもしないと、ここでずっとウジウジしてるでしょ」
「こ、心の準備ってものがあるだろっ」
「もう十分したでしょ」
それに、と言って麗人は目を細くし、ドスの効いた低音で告げる。
「どっちみち今日解決しないと返さないからね」
「うっ……」
隣人は怖くて何も言い返せなかった。そもそも言い返せるような立場にないことは本人が一番わかっていることだ。
「どうしたの?」
するとそこへ、三希がやって来る。
今の今までサイコロを探していた彼女の手は酷く汚れていた。
三希は麗人の横に立つ隣人を見るなり、すぐに顔を逸らした。
「何しに来たの……」
「あ、いや、その……」
目が合った瞬間にパッと顔を逸らされたことにショックを受けている様子の隣人に、すかさずフォローに入る。
「彼が三三さんに言いたいことがあるんだって、だから聞いてあげて」
「陽志くんがそう言うなら……」
三希は少しムッとした表情を浮かべながらも、隣人の方に顔を向ける。
彼女に見つめられ、今度は彼の方が恥ずかしさから目を逸らす。
「…………………」
「…………………」
長い沈黙が続く中、心乃実は麗人の方にそっと近づく。
彼女は麗人に屈むように手で指示をする。指示通り屈むと、心乃実は耳元に顔を近づけて囁く。
「おい、長引きそうだぞ」
「だね……でもこれは彼の口から言わないと」
「あいつ言い出しそうにないぞ」
「これ以上長引くようだったら手段を考えるしかないね」
「ドロップキックするか?」
「危ないから俺がするよ」
「そうか、一度やってみたかったんだがな」
「今度やってみよう。危ないからマット敷いてね」
「でもやる相手がいないぞ?」
「大丈夫、俺がいるから」
「いいのか?」
「もちろん。むしろやって」
「お前、蹴られて悦ぶタイプか?」
「心乃実に蹴られるならね」
「そうか、なら今度、俺のドロップキックをお見舞いしてやろう」
「楽しみにしてる」
二人は顔を見合わせて、ニッコリと笑った。
後ろでヒソヒソといちゃついているとは露知らず、隣人は今もなお視線を逸らして黙ったまま。
なかなか言い出さない隣人に、痺れを切らして三希が口を開く。
「言いたいことって、なに……」
「そ、それは……」
隣人の右手にはサイコロが握ってある。
あとはそれを開いて見せるだけ。そして謝るだけ。
もう逃げ場はない。
逃げようとすれば、後ろのイケメンに捕獲されるのは目に見えている。
彼は意を決するしかなかった。
「こ、これ……」
右手を三希の前に差し出して、ゆっくりと開く。
手のひらに乗ったサイコロを見て、三希は目を見開いた。
「それ私のサイコロ!」
「そ、その、ご、ごめんっ」
隣人はサイコロを押し付けるように三希に渡すと、逃げるように走り去ってしまう。
「あ、ちょっと……」
三希が呼び止めようとした時には既に彼の背中は遥か遠くだった。
「おい、あいつ渡すだけ渡してどっか行ったぞ」
「まぁ、渡せたし、謝れたし、いいんじゃないかな」
麗人は三希の方に顔を向ける。
「三三さん、彼のこと許してあげてくれないかな」
「うん。私も謝らないと……りんくんにバカとか酷いこと言っちゃった」
「そうだね、明日言えば良いよ。たぶん帰ったでしょ」
もし、まだ校内のどこかに隠れているとしても、どこに隠れているのか皆目見当も付かない。
「わかった。明日謝るね」
「もしまた逃げるようなことがあれば言って、とっ捕まえるから」
「捕まえる時は俺も協力するぞ、面白そうだからな」
「ふふ、うん、その時は二人ともよろしくね」
三希が明るく笑うのを見て、二人も自然と笑みを浮かべるのだった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
拙い文章ではありますが、少しでも楽しんでいただけていたら幸いです。




