幼馴染 その7
ホームルームが終わり、教科書やノートを鞄にしまっている麗人のもとに赤髪の男がやって来た。
彼は麗人の机の横に立ち塞がると、少し威圧的に訊ねてくる。
「陽志麗人だな、お前に一つ聞きたいことがある」
麗人は男の顔に全く見覚えがなかった。
それもそのはずで、赤髪の彼は三希の幼馴染の長内隣人。クラスは違うし、見たことも、話したこともない。
「ごめん、前にどっかで会った?」
麗人はそう言いながら、隣人の顔をよく観察する。
(男、だよね……ズボン履いてるし)
彼の中性的な顔立ちから、一瞬女子かと思ったが、ズボンを履いてることから恐らく男だろうと推測する。
「いや、今日が初対面だ。俺は長内隣人」
「あれ、その名前……もしかして三三さんのサイコロを奪った人?」
「やめろその言い方」
「でも事実でしょ?」
「ま、まぁ、そうだけど……」
最初こそ威勢が良かったものの、サイコロを奪ったのは事実なので、そこを突かれると一気に勢いがなくなっていく。
「それで、俺に聞きたいことって?」
「お前、三三と、つ、付き合ってるのか……」
顔を赤くしながら訊ねてくる隣人に、麗人は首を傾げる。
「え、なんて?」
しっかり聞こえてはいたけれど、どうして三希と付き合ってることになってるのかわからず、反射的に聞き返す形となってしまった。
「その、だから……三三と付き合ってるのかって聞いてるんだよ」
「三三さんとは付き合ってないよ。そもそも俺、彼女いるし」
「お前、彼女が居ながら三三とも仲良くしてるのか!」
「友達としてね。そこ誤解しないでね」
(ほほう、さては、三三さんのこと好きだな)
わかりやす過ぎて、今まで三希に好意がバレてないのが奇跡と思えるほどだった。
「そう言うことだから、俺には大切な大切な彼女がいるの。三三さんのことが好きなら、サイコロ探し手伝ったら? このままだと嫌われちゃうよ」
「な!? だ、誰があんな奴好きになるかよ!」
「おお……」
(わかりやすいな)
「俺今からサイコロ探しに行くけど、一緒に来る?」
「そ、それはもう見つけてる……」
隣人はズボンのポケットからサイコロを取り出して、それを麗人に見せた。
「だからか、通りでいくら探しても見つからないわけだよ」
このまま見つからなかったらどうしようかと思っていたので、目の前のサイコロを見て、ホッと一安心だった。
「早く渡して来なよ。三三さんサイコロ無くて困ってるよ」
「そんなことわかってるよ……」
「もしかして渡す勇気ない感じかな?」
「はあ!? こんなもん投げて渡せるし!」
(あれ、脊髄反射で喋ってる?)
渡せるならとっくに渡しているはずなのに、自ら渡す勇気がないと言ってるも同然なのに、この発言である。
「なら渡しなよ、俺も協力するよ」
「そんなの必要ない。自分で渡せるし」
「じゃあ俺は行くよ? 待たせてるだろうし」
そう言って麗人は鞄を持って立ち上がるが、そんな彼の前に立ち塞がったまま動こうとしない隣人。
「そこ立たれてると行けないんだけど」
麗人の身長は180センチほどで、対して隣人は150よりちょっとだけ高いくらい。なので、自ずと麗人が見下ろす形となる。
麗人は他を寄せ付けない圧倒的なイケメン。どこを見ても整った容姿は、それだけで少し威圧感があり、身長差から見下ろされると拍車がかかる。
そのせいで隣人は一歩下がった。
「どうしたの? まだ何かあるの?」
立ち塞がったまま特に何も言おうとしない彼に、どうしたものかと頭を悩ませる。
このまま足止めをくらうわけにはいかない。きっと二人はもう校舎裏に行ってて、サイコロの捜索を始めているだろう。
強行突破するか。と言っても、思いっきりどつくわけではない。ちょっと肩を押して、ごめんね、といった感じで通り抜けようとするだけ。
そんなことを考えていると、隣人が震えながら告げてくる。
「わ、渡せない……」
「渡さない? さっき自分で渡せるって言ってたよね?」
「つ、強がった……」
隣人はサイコロをギュッと握って、麗人から視線を逸らす。
「それなら一緒に行こうよ。今からサイコロ探しに行くから。三三さんもいるよ」
「どうやって渡せばいいかわからない……というか、どんな顔して会えばいい……?」
「少なくともヘラヘラしてなければ大丈夫でしょ」
今から謝ろうとしている人間が、ヘラヘラしながらやって来たら誰でもムカつくものだ。
「あとは、謝って渡すしかないよね」
「それが難しくて困ってるんだ」
「でも、長引けば渡しにくくなるのは事実だよ? 俺としては今日渡した方が良いと思う。俺もいるし、出来る限りフォローはするよ」
麗人としては、告げ口のような形で、彼がサイコロを持っているということを三希には言いたくない。
本人が渡して謝ることが、波風立てずに穏便に済む。
だから、今日渡して、そして謝って仲直りしてもらいたい。
それに、サイコロが既に見つかっているのにも関わらず、それを心乃実と三希の二人には隠して無駄に探すのは気が引けるし、面倒臭い。
「どうする?」
そう催促する麗人は、もし隣人が断るようであれば、無理矢理にでも三希のところへ連行するつもりだ。
例え本人が拒絶したとしても、気絶させてでも連れて行く覚悟だ。
なので、二択あるように見せかけておいて、実は一択しかないのである。
そんなこと知る由もない隣人は、無駄に悩んでいた。
「ほんとに、フォローしてくれるのか?」
「もちろん。今日渡すならね」
「そうか……」
(悩んでるところ申し訳ないけど、もし断ったら連行するからね)
「ちなみに、そのサイコロ、三三さんにとっては命くらい大切なものだからね」
「っ……わ、わかってる」
「なら、早く渡した方が良くない? 長引けば渡しにくくなるよ?」
追い討ちとばかりに、説得を試みる。
それが効いたのか、隣人は何かを決めたように口を開く。
「今日、渡す……」
「よし、決まりだね」
「絶対フォローしろよ」
「するよ、約束したでしょ」
(フォローする時が来るとは思えないけど。三三さん優しいし、サイコロ探してる時に彼のこと根は優しいって言ってた。渡して謝れば許してくれると思うけどな)
なんて思いながら、麗人は隣人を連れて教室を後にするのだった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
拙い文章ではありますが、少しでも楽しんでいただけていたら幸いです。




