幼馴染 その5
昼休憩が終わる五分前になると、それを知らせる予鈴が鳴った。
「……ないね」
麗人はその場で立ち上がり、右腕で額の汗を拭った。
「また探しに来よう」
「うん……」
顔を落として落ち込む三希に、麗人と心乃実はなんて声を掛けていいのかわからず、お互いに顔を見合わせた。
「予鈴鳴ったし、そろそろ戻る……?」
「うん……ごめんね、私のせいでお昼食べれなかった」
「俺は少食だからな、食べなくても全然平気だ」
「俺は心乃実みたいに少食じゃないけど、たまに昼食べない時とかあるし、気にしないで」
どんよりとした空気に包まれる。
「と、とりあえず教室戻ろう。また休憩時間に探そう」
「うん……」
そうやって三人が校舎裏の草むらを去った後、陰でその様子を見ていた一人の男子生徒がやって来た。
彼は、三希の幼馴染──長内隣人だ。
わざとではないにしても、手を滑らせてサイコロを窓の外に落としてしまったことは事実。
やり過ぎてしまったことは本人はとても反省している。だからこうして探しに来たわけである。
ただ、先に麗人と心乃実が来ていたので、彼らが去るまで陰で身を潜めていた。
(あいつ……イケメンで有名な陽志麗人……三三とはどういう関係なんだ……まさか付き合ってるのか、いやでも、あいつの隣に女がいたし……)
そんなことを考えながら、隣人はサイコロを探す。
授業開始のチャイムが鳴ってしまったが、それでも彼は探す手を止めなかった。
というのも、彼は三希のことが昔から好きだった。
ついついちょっかいをかけてしまうのは、好きだからで、照れ隠しのようなもの。
……なのだが、今回はやり過ぎてしまった。
誤って手を滑らせてサイコロを窓の外に落としてしまった時、三希は目に涙を浮かべて、隣人を鋭く睨んだ。
あの時、すぐに謝るべきだったのに、隣人はそれが出来なかった。
だからサイコロを見つけて、それを渡す時に謝ろうとしているのだ。
幸い、まだサイコロは見つかってない。
ここら辺に落ちたのは確かなので、絶対にあるはずだ。
気付かないうちに踏んでいたり、蹴っていたりしないように注意しながら捜索を進める。
黙々と探し続けること数十分。
視界の端に何か白い物を見つける。
そこの雑草を掻き分けると、ポツンと寂しそうにサイコロがあった。
「あった!」
もう見つからないんじゃないかと思っていたところだったので、思わず歓喜の声が漏れた。
これで、仲直りできる。
「あ、いた」
突然、背後から女性の声がした。
喜びに耽っていた隣人は一瞬ビクッと反応した。
振り向くとそこには、担任の女教師──播磨先生が眉間に皺を寄せて立っていた。
きちっとしたスーツを身に纏っていて、艶やかな黒髪は後ろで一つに結われている。
元陸上選手だったこともあり、すらりとした体型で、きっちりしたスーツがそれをより際立たせている。
先生は手に持っている紙をくるくると丸めながら隣人のもとに歩み寄る。
メガホンみたいに丸められた紙で先生は徐に隣人の頭を叩いた。
「いた……」
「橋本先生からお前が授業に出てないって聞いて、ずっと探し回ってたんだぞ」
播磨先生は隣人の手を見て目を細める。
橋本先生からの要請を受けて、ちょうど手の空いていた播磨先生に白羽の矢が立ったのだ。
「どこで何してるのかと思ったら、ほんとに何してた? 手、泥だらけじゃん」
「ちょっと探し物をしてただけで」
「探し物? それ見つかった?」
「はい、見つかりました」
「そっか、なら手洗って教室戻るぞ」
隣人は素行は真面目で、成績もそれなりに良い。そのため、播磨先生だけでなく、他の先生からの評価も高い。
そんな彼が授業に出ずしていたこととなると、よっぽどな事情があったのだろうと播磨先生は思った。
だから、あまり問い詰めることはしなかった。
探し物と言っていた。それが見つかったのならそれでいい。
それから隣人は中庭の花壇の近くの水道で手を洗い、播磨先生と共に教室に戻った。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
拙い文章ではありますが、少しでも楽しんでいただけていたら幸いです。




