幼馴染 その1
お昼休憩、麗人は心乃実から呼び出された。
中庭で待つ、と、まるで果し状のようなメッセージが突然送られて来たのだ。
麗人は手にコンビニで買ったパンが入ったビニール袋を持って中庭へと向かった。
中庭に着くと、ベンチには心乃実と隣には三希が座っていた。
心乃実は麗人を見つけるなり、大きく手を振った。
「れい、こっちだ!」
大きく手を振る彼女を見て、可愛いなぁ、と思いながら小走りで二人のもとに向かう。
「お待たせ。三三さんも一緒だったんだね」
「お邪魔してるよ」
「お邪魔だなんてそんな、むしろ大歓迎さ」
(いつも一人でお昼食べてたから、心乃実にこうしてお昼を一緒に過ごせる友達が出来てホッとしてる)
でも、心乃実と二人きりだとばかり思っていたので、そこはちょっぴりだけ残念でもあった。
麗人は心乃実の隣に腰掛け、彼女の太腿の上のお弁当箱に視線を落とす。
「お弁当、美味しそうだね」
涎が垂れそうになったが我慢した。
「手作り?」
「なんだ? 食べたいのか?」
「食べたい」
食べてもいいの? とワンクッション置いて、それから何度かやり取りを重ねたうち、交渉に入る予定だったが、ついつい願望が溢れ出てしまい、その行程を吹っ飛ばしてしまった。
「それなら食べさせてやろうか?」
「食べさせて」
いいの? とこれまたワンクッション置くつもりが、願望が自我を持ち始め、我先にと口から出て行く。
「素直だな、まぁ……ほら」
心乃実はだし巻き卵を箸で摘むと、それを麗人の口元に運ぶ。
それに合わせて麗人は大きく口を開けて、運ばれてくるだし巻き卵を一口で食べる。
「どうだ?」
「めちゃくちゃ美味い!」
心乃実に食べさせてもらうというシチュエーションが最高のスパイスとなり、口の中に広がるだし巻き卵の美味しさをより一層高めた。
「美味いか! なら、このハンバーグもやろう!」
美味しいと喜んでもらえて、気分を良くした心乃実は次に一口サイズに分けられたハンバーグを箸で掴むと、麗人の口元に運ぶ。
麗人は頬を赤らめながらも、ハンバーグをパクッと食べる。
「うん! 美味しい!」
「そうかそうか! 面と向かって言われると嬉しいものだな!」
歯を剥き出しに屈託なく笑う心乃実。そんな彼女を眺めながら、ハンバーグをモグモグ。
(可愛いすぎかよ! 普段のちょっと冷たい感じの表情も好きだけど、こうやってたまに見せる笑顔の破壊力ときたら……もう永遠見てられる、というか、ずっと見ていたい)
心の中の感情をあまり表には出さない。出してしまうと暴走してしまいそうだから。
代わりに、イケメンスマイルを心乃実に向ける。
そんな二人に対して、いつの間にか蚊帳の外になっていた三希がよそよそしく入ってくる。
「あのー、私もいるからね?」
「ははは、ごめんごめん」
一度はやってみたい憧れのシチュエーションだったため、三希の存在を忘れて楽しんでしまっていた。
「イチャイチャするのは別にいいけど、私もいること忘れないでね」
「これはイチャイチャなのか?」
「え、イチャイチャの自覚なかったの?」
三希は驚きの表情を心乃実に向けた。
「俺はただ食べさせてただけだからな。昔、風邪ひいた時にお母さんが食べさせてくれたぞ?」
「それはママでしょ、二人は付き合ってるから意味が変わってくるんだよ」
「意味?」
首を傾げる心乃実に、二人のやり取りを眺めていた麗人は苦笑いを浮かべた。
(イチャイチャしてたつもりだったんだけど、やっぱり心乃実だなぁ。何となくそんな気はしてたけど)
「心乃実ちゃん、あのね、彼氏にあーんして食べさせるのって、カップルがよくやるイチャイチャなシチュエーションなんだよ」
「よくやる……それは普通ってことか?」
「普通なのかどうかはわからないけど、定番なシチュエーションだね」
「ふむ……」
心乃実は何かを考えるように顎に手を当てた。
(普通ってところに引っかかったんだろうな。さて、彼女は今何を考えているのかな)
すると、何か思いついたのか心乃実は徐にソーセージを口に咥えると、そのまま麗人に顔を向けた。
「も、もしかして、く、口移し……?」
麗人がそう訊ねると、ソーセージを咥えて上手く喋れない心乃実はコクッと頷いた。
(マジか……他の生徒もいるのに、こんなところでそんな激しめのことをしろと……それにソーセージ……やばい色々と想像してしまう……)
気持ち的にはもちろんやりたい。まだ麗人は心乃実と一度も唇を交わしたことがない。
口移しは必然的に唇が触れ合う行為。するならば、誰もいないところで、じっくりゆっくりとしたい。
だから、麗人は手でソーセージを掴んだ。
(ごめんよ! 流石にここじゃできないんだ! わかってくれ!)
麗人は心乃実の口からソーセージを抜き取ると、それを自身の口の中へ放り込んだ。
チラッと彼女の様子を伺うと、なぜか目を輝かせていた。
「なるほどな! 口移しはありきたりだと。だから手で取ったのか、お前天才か?」
「え、ああ、そうだね。口移しは、よ、よくやるよね、ね、三三さん!」
「ええ! 私に振るの!? でも、口移しってあんまりやらないような……」
「いやいや何言ってんのさ! 口移しなんてよくするよ! アニメとかでもよくやってるじゃん!」
「でもアニメだよね?」
「アニメも現実も一緒だ! 君は何を言ってるんだ!」
「目が怖い目が怖い……」
何としてでも口移しは普通だということにしたかった。そうでないと、心乃実は納得してくれない。だから麗人は目をバキバキに見開いて、三希に圧をかけていた。
「そ、そうだね、口移しはよくするかな……」
「だよねー」
「ん? 結局どっちなんだ?」
首を傾げる心乃実に、麗人は満面の笑みで言う。
「口移しはよくやる行為だよ!」
「そうか、なら私は危うく普通な行為をしてしまうところだったのか。れい、ありがとな!」
「どういたしまして」
ジェントルマンのようにお辞儀する麗人。
彼のその振る舞いを見て、三希は苦笑いを浮かべていた。
そんな三人を遠くの方で覗く者がいた。
「なるほど……」
彼女は手の平サイズの小さなノートに、何やら書き始めた。
書き終えると、購買で買ったあんぱんに齧り付く。
モグモグと咀嚼しながら、密かに観察を続けるのだった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
拙い文章でわかりにくいところあると思います。それでも少しでも楽しんでいただけていたら幸いです。




