三三三希と逆道心乃実 その3
チャイムが鳴ったの同時に本日日直担当の篠山さんが立ち上がり「起立、礼」と終わりの号令をかけた。
その瞬間、ややフライング気味に食堂組の生徒達は食堂の席を確保しようと急ぎ足で教室を出て行く。
食堂組が大半を占めるこのクラスは、昼休憩になるとあっという間にもぬけの殻となる。
ちらほらと残っている生徒は、お弁当持参組。中にはプロテインをガシャガシャとシェイクする強者もいるが、あれは例外だ。
麗人は今日は登校途中にコンビニに寄って買ったパンとおにぎりを食べる予定だ。
鞄からコンビニの袋を取り出して、それを机の上に置く。中からパンを一つ手に取る。ソーセージの上にたっぷりとマスタードソースがかかったパンだ。
左手でそのパンを持って、右手でスマホを持つ。パンを食べながら、器用に右手でスマホを弄る。
この前、心乃実にオススメされたアーティストの曲がある。それを小音で流して、スマホを耳に当てる。
(この人の声好きだな)
力強さがあって、それでいて透き通るような透明感のある声。遥か遠くの方まで聞こえそうな声量で、そこに乗った喜怒哀楽の感情はとても豊かだ。
このアーティストは、声からして女性だろうとは言われているが、その素性は一切明かされていない。
唯一わかっていることは、アーティスト名が『あ』と、適当に付けられたであろうことだけ。
心乃実いわく、その正体不明さが普通じゃなくて気に入っているらしい。
そろそろサビに入ろうかというところ。咀嚼することを忘れてただひたすら聴き入っていた麗人に、突然「れい」と呼ぶ声がした。
集中していたため、突然名前を呼ばれてビクッと肩を振るわせた麗人は、声のした方に顔を向ける。そこには、心乃実が立っていた。後ろには三希もいて、麗人は首を傾げつつも口を開く。
「どうしたの?」
「これ、食べてもらおうと思って持ってきた」
これ、と言って青色の布に包まれた小さなお弁当箱を麗人の目の前に突き出した心乃実だったが、彼が手に持つパンを見て、そっとお弁当箱を引っ込める。
「もう食べてるな」
「え、そ、そのお弁当って、も、もしかして心乃実の手作り……?」
「そうだ。でも一足遅かったな、仕方ない、これは後で食べるとするか」
「ちょっと待って! 俺、全然お腹空いてるよ! むしろこれだけじゃ足りないって思ってたところだから!」
目の前の大好きな人の手作りお弁当が食べた過ぎて目をバキバキにする麗人。
しかし彼は、ふと冷静になる。
「心乃実はお昼どうするの?」
「俺は購買でパンを買うつもりだ。だから食べてもらおうと思って持ってきたんだ」
「全然食べるよ! というか食べたい!」
「それなら食べてくれ。そうしてくれると俺も助かる」
心乃実からお弁当箱を貰った麗人の手は少し震えていた。
その二人のやり取りを後ろで静かに見ていた三希が聞いていいのかわからないと言った風に恐る恐る訊ねる。
「ふ、二人はどういう関係なの……?」
そんな彼女の問いかけに対して、二人は即答する。
「彼女だよ」
「彼氏だ」
ほぼ同時にそう答えた。
「え!? そうなの!?」
「なぜそんなに驚くんだ?」
心乃実は首を傾げた。
「だ、だって……」
三希の視線が麗人に注がれる。
麗人はその他を寄せ付けない圧倒的なルックスの高さから、入学当初から女子人気が高い。
水面下で、彼に近づこうと画策している女子生徒は数知れず。お互いに抜け駆けは許さないと牽制し合っている状態だ。
三希はその事情を知っているからこそ、まさか同じクラスに彼女となる人がいるとは思っておらず、驚いてしまったのだ。
「だって、二人が話してるところ見たことないし」
「クラスが違うからね」
「でも、クラス違っても、会いに行かないの?」
三希にとってカップルというのは、常に一緒にいるイメージがあった。というか、実際にそういうカップルを何組も見てきたからそういうイメージが定着している。
「用事もないのに行ってどうする?」
心乃実がそう言うと、麗人は「そうだね」と同意する。
「なんか二人とも大人だね」
今まで見てきたカップルとは違う。ちょっとドライな感じはするけど、イチャイチャカップル特有のすぐ別れるだろうなという感じが全くしない。
熟年夫婦のような、揺るがない愛があると三希は感じた。
「それより、パン買いに行くぞ」
「あ、そうだった」
麗人と心乃実が付き合ってるという特大ニュースのせいで、購買に行くことをすっかり忘れていた。
「それ後で回収するから持っててくれ」
それ、と言ってお弁当箱を指差す心乃実。
「じゃ、俺たちはパン買いに行ってくる」
「うん、いってらっしゃい」
心乃実に連れられて教室を出て行く三希。
そんな二人を麗人は優しく微笑みながら眺めていた。
それから、麗人はワクワクした面持ちでお弁当箱の包みを解き、ワクワクといった感じで蓋を開ける。
(おぉ! これが心乃実の手作り弁当!)
だし巻き卵、唐揚げ、アスパラをベーコンに包んで焼いたもの、ポテトサラダ、ご飯には鰹節と刻み海苔が乗っている。
(写真撮っとこ)
麗人はその場でカシャリと写真を撮り、それをすぐさまホーム画面に設定した。
記念すべき初の手作り弁当だ。あまり表には出さないが、内心では踊ってしまいたいくらい興奮している。
「いただきます」
麗人は、心乃実の手作り弁当を一品一品丁寧に、まるで一流料理人のようにじっくりと味わって食べた。
最後の一個となった唐揚げに寂しさを感じつつも、感謝を込めて口の中へ。
「ごちそうさまでした」
(ふぅ……食べ終わってしまった……)
空になったお弁当箱を見て、幸せな時間が終わったことを改めて実感する。
静かに蓋を閉めて、包みを結ぶ。
(美味しかったな……)
机に頬杖を立てて、静かに窓の外を眺めながら、そんなことを思うのだった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
拙い文章ではありますが、少しでも楽しんでいただけていたら幸いです。




