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類は友を呼ぶ  作者: 手下
10/23

三三三希と逆道心乃実 その1

 授業が始まってまだ十分しか経っていない。


 教壇にはサム先生という金縁のサングラスを掛けた、色黒のマッチョが立っている。

 サム先生は英語の教師で、その厳つい見た目で英 英語を喋るので、影ではマフィアなんで呼ばれているが、喋ってみると意外と優しい。


「ここ、thatが省略されてるからな。仮主語itから始まってることにまず気づくこと」


 そんな授業中、後方の席に座る三三(さざみ)三希(みつき)は、もぞもぞしていた。


(と、トイレ行きたい……でも、先生怖いし……)


 授業はまだ十分しか経っていない。

 あと四十分も我慢しなければならない。


(うぅ……)


 先生の見た目がマフィアみたいで怖くて、手を挙げる勇気が出ない。

 実は意外と優しいことは、彼女はまだ知らない。だから、教壇に立つ金縁のサングラスをかけたマッチョの英語教師は、彼女の目からはマフィアにしか見えなかった。


(そ、そうだ。サイコロを振って決めよう。奇数だったら手を挙げてトイレに行く、偶数だったら我慢する)


 筆箱からサイコロを取り出して、それをノートの上に転がす。

 机の上だとサイコロの転がる音が響いて先生に気づかれる可能性があった。


 転がったサイコロは……。


 一回目は三の目。

 二回目は五の目。

 三回目は四の目。


 合計すると……。


(嘘でしょ……十二……偶数……)


 偶数ということは、我慢することに決定したということ。


 今から約四十分間、この溢れ出そうな尿意を我慢できるだろうか。否、それは本人が一番わかっていること。


(む、無理だよぉ〜……)


 考えないようにしても、尿意の感覚が引き戻してくる。

 漏れたらどうしよう。

 皆んなから笑われるだけじゃなく、気持ち悪がられて、高校三年間ずっとお漏らししたこと言われ続ける。そんな悪夢みたいな高校生活を送ることになってしまう。


(こうなったら……)


 三希はもう一度サイコロを手に取る。


(今度こそっ)


 そしてサイコロを振る。


 一回目、六の目。

 二回目、一の目。

 三回目、一の目。


(なんでまた偶数なの……いや、三度目の正直っ)


 三希はまたサイコロを振った。

 動揺のあまり、いつもより強く振ってしまい、サイコロはノートを転がり、コロコロとそのまま机からお落ちてしまう。


「あ……」


 床を転がるサイコロは、後ろの席に座る女子生徒によって拾われる。


「なんだこれ? サイコロ?」


 サイコロを見て首を傾げるのは、逆道心乃実だった。


「あ、それ、わ、私のです」

「あぁ、そうか……お前、顔色悪いぞ、大丈夫か?」


 尿意を我慢しているせいで、表情が険しくなっている。


「だ、大丈夫です……ちょっとトイレに行きたいだけですから」

「行かないのか?」


 そう言って心乃実はサイコロを三希に渡す。


「偶数ですから、まだ行けないんです」

「ん? 偶数……?」

「拾ってくれてありがとうございます」


 ちょっとしたアクシデントはあったものの、三希は気を取り直して三度目の正直とサイコロを振る。


 しかし、無情にも結果は偶数だった。


(運命は……最初から決まっていたんだ……)


 手を挙げる勇気が欲しかった。

 奇数が出たら、手を挙げないといけなくなるから、それが勇気になると思ってサイコロを振ったのだが、自分で自分の首を絞めることになるとは思っていなかった。


(私は今日ここで漏らすんだ……そして皆んなから笑われて、三年間ずっとお漏らししたことをバカにされ続けられるんだ……)


 もう諦めの境地だった。


 漏らす、漏らす、漏らす。


 その言葉が三希の思考を支配する。


(もうお終いだ……)


 そう完全に諦めた時、後ろの席の心乃実が手を挙げた。


「逆道、どうした?」


 心乃実は立ち上がると、流暢な英語を披露する。


「I believe the person in front of me might be in some kind of… urgent situation. (前の席の人がちょっと…急を要する状況かもしれません)」


 それを聞いて、先生はハッとし、心乃実の前の席──三希に視線を向ける。


「I see. Go ahead. (なるほど。行ってください)」


 全てを察した先生は流暢にそう返答した。

 

 他の生徒は二人のネイティブレベルの英会話についていけず、何を言っているのか全然わかっていない。


 それは三希も同じで、彼女に至っては、特に今は頭の中が尿意のことでいっぱいなので、思考能力は著しく低下している。


 そんな三希の手を取るのが心乃実だった。

 彼女は今し方、普通日本語で言えばいいところをわざわざネイティブな英語でやり取りをするという普通ではないことをして、かなり興奮状態であった。


「行くぞ!」


 そのせいかいつもより声色が高くなる。


「え、え?」


 困惑する三希を、心乃実は手を引っ張って無理やり教室の外に連れ出す。


 教室内が少しざわついたが、先生が何事もなかったかのように授業を始めたので、すぐに静かになった。


⭐︎


 三希は、訳もわからず心乃実に手を引っ張られ、廊下を歩く。


「あ、あの、あの!」


 三希がそう声を上げると、心乃実は立ち止まった。


「どうした?」

「ど、どうしたって……こ、これはどういう状況なんですか……?」

「ん? トイレに行きたいんじゃないのか?」

「え……」

「なかなかトイレに行かないし、小刻みに震えてるし、漏れそう漏れそうってぶつぶつ言ってたぞ」

「わ、私、無意識にそんなことを……」


 尿意のことで頭がいっぱいで、無意識に呟いていたらしい。

 その事実を知って三希は恥ずかしさから顔を赤くする。


「それよりトイレは大丈夫なのか?」

「っ!!」


 恥ずかしくなっている場合ではなかった。何のために連れ出してくれたのか。


「い、行ってきますっ」


 三希は走りたい気持ちを抑えつつ、早歩きでトイレに向かった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

拙い文章ではありますが、少しでも楽しんでいただけていたら幸いです。

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