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水害の夜

作者: 口羽龍

 健斗けんとはとある片田舎の工場で働いている。毎日夜遅くまで仕事をしていて、いつも帰りが遅い。大変だけど、それが自分の選んだ道だと思って、頑張っている。まだまだ慣れない事ばかりだけど、徐々に仕事に慣れてきて、上司から信頼を得てきた。


 23時になり、健斗は帰り道を歩いていた。すでに街の明かりが少なくなり、とても静かだ。だが、また明日になれば騒がしい朝がやって来る。今はひと時の休息のような時間だ。健斗は疲れた顔で歩いている。今日は木曜日だ。明日を頑張れば週末だ。休みまであと少しだ。頑張ろう。


「今日も疲れたな」


 今日はいつも以上に帰りが遅かった。いつもは22時までだが、今日は仕事が多くて、なかなか帰れなかった。23時になって、やっと帰る事ができた。だがそれは、仕事が終わったからではない。終電に間に合わないからだ。


「終電で帰るの、初めてだな」


 健斗は終電に乗るのは初めてだ。終電はどんな感じなんだろう。全くわからないな。動画配信サイトでも見た事がない。あるらしいが、興味はない。


 健斗は最寄りの駅にやって来た。駅の先には峠越えの区間があり、暗くて見えないが、山がそびえている。駅はとても静かだ。何人かの乗客がホームで終電を待っている。彼らはとても疲れている。みんな、夜遅くまで残業だったようだ。


「静かだな・・・」


 程なくして、2両編成の電車がホームにやって来た。これが自宅の最寄り駅まで行ける終電だ。健斗は急いでホームに立ち、電車が停まるのを待った。


 電車はホームに停まり、ドアが開いた。それとともに、健斗は中に入った。中はセミクロスシートで、車内はまばらだ。疲れていた健斗は、いつもは座らないクロスシートに座った。今日は夜遅くまで頑張った。だから今日はゆったりとクロスシートで帰ろう。


 すぐにドアが閉まり、電車が走り出した。電車はすぐに、上り坂にさしかかる。峠越えの始まりだ。自宅の最寄り駅はその先にある。電車の心地よい揺れとジョイント音を聞いているうちに、健斗は眠くなってきた。今日はいつもより遅くまで仕事をやっていたから、疲れているんだろう。自宅の最寄り駅まで寝よう。


 健斗は騒々しい車内の雰囲気で目を覚ました。何が起こったんだろう。健斗は戸惑っている。健斗が車窓を見ると、大雨が降っている。おかしいな。今日は雨が降らないと言っていたのに。ゲリラ豪雨だろうか?


「あれっ!?」


 健斗はじっと外を見ている。こんなに大量の雨が降るとは。電車が停まりそうで不安だ。この区間は大雨で運転が見合わせになる事が多い。集中豪雨が起こった時には、職場に行けない、または自宅に帰れないことがよくあったな。


「どうしてこんな大雨なんだろう」


 突然、電車が停まった。運転見合わせだろうか? 健斗は不安になった。本当に家に帰れるんだろうか? 全くわからないな。車内は騒然となっている。駅員は慌てている。


「そんな・・・、停まった・・・」


 健斗は停まっている電車の中から、車窓を見ていた。いつになったらまた動き出すんだろう。このままでは家に帰れないよ。どうしよう。明日も仕事なのに。このまま一夜を過ごすなんて、疲れるよ。


 突然、崖の上の方から大きな音が聞こえてきた。何だろう。健斗は崖側の車窓を見た。だが、崖からは何も見えない。と、健斗は何かおかしい事に気が付いた。知らない乗客だ。乗った駅ではここに乗客がいなかった。いつの間にここに入ったんだろう。車窓の場所から見て、途中駅はないのに。


 突然、また大きな音が聞こえた。今度は何だろう。健斗は上を見た。すると、巨大は土石流が迫ってくる。


「えっ!?」


 それを見て、健斗は驚き、戸惑った。まさかこんな事が起こるとは。


「うわぁぁぁぁぁ!」

「お客さん、終点ですよ」


 突然、誰かにゆすられて、健斗は目を覚ました。健斗が目を開けると、そこは車内だ。話からするに、自分は終点まで来てしまったようだ。自宅には帰れそうにない。どうしよう。ここで一夜を過ごすしかないんだろうか?


「あれっ!?」


 と、健斗は水害の事を思い出した。あれはいったい、何だったんだろうか?


「どうしたんですか?」

「水害に遭う夢を見たんですが」


 それを聞いて、車掌は反応した。水害の事で、何かを知っているんだろうか?


「水害? まさか・・・」

「水害と聞いて何か?」


 水害で何か思い当たる事があるんだろうか? まさか、終電の秘密だろうか?


「実はね、この終電、過去に水害に遭ったんですよ」


 車掌の話によると、この終電は数十年前、水害に遭ったそうだ。その時は大変で、土石流で電車が谷底に転落したようだ。車内にいた運転士、車掌、乗客は全員死亡したそうだ。


「そ、そうなんですか?」


 車掌は思った。おそらく、その夢を見てしまったんじゃないかと。それを聞いて、健斗は震えあがった。もうこんな夢、見たくないな。


「その夢を見たんじゃないかなって」

「そうかもしれないな・・・」


 健斗は立ち上がり、歩こうとした。だが、健斗は足に違和感を覚えた。健斗は足を見た。健斗の足には、泥が付いている。まさか、土石流の泥だろうか?

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