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第5話 よーし、次の私、いってきまーす!…って、軽いなオイ!

「…この茶番、本当に俺が得する話なのか…?」


俺の問いかけに、未来の俺であるはずの神(仮)は、ケラケラと楽しそうな気配を返してきた。


その反応だけで、答えの半分くらいは分かったような気がする。


こいつ(未来の俺)は、この状況を心底楽しんでいるのだ。


「そりゃもう、得しかないっしょ!だって、最終的には全知全能のスーパーゴッドだよ?無敵だよ無敵!人生のあらゆる苦労も、悲しみも、恥ずかしい失敗も、みーんな君を構成する貴重な経験値ってわけ。無駄なことなんて一つもないのよ。お得すぎるパッケージツアーだと思わない?」


神(仮)は、通販番組のセールストークみたいに、まくし立てる。


その言葉には、相変わらずの軽薄さと、しかし否定しきれない妙な説得力が同居していた。


そうか…そういうことなのか。


良いことも悪いことも、全てが経験。


全てが自分。


そして、その果てに待っているのが、目の前のこのふざけた…いや、どこまでもポジティブで、全てを達観したような存在なのだとしたら。


それはそれで、悪くないのかもしれない。


いや、もう、何でもありな気がしてきた。


ここまで来たら、この壮大な宇宙のノリに身を任せるしかない。


「…わかったよ。もういい。降参だ」


俺は、なんだか肩の力が抜けていくのを感じながら言った。


「好きにしろ。どうせ俺なんだろ、全部」


諦めとも、悟りともつかない、奇妙な感覚だった。


目の前の未来の俺がこんな調子なのだから、俺が今さらジタバタしたところで、大した意味はないのかもしれない。


「おっ、やっと物分かりが良くなったじゃーん!さすが俺!」


神(仮)は、満足そうに頷く…ような気配を見せた。


「じゃあ、早速だけど、次のステージに進みますか!準備はいいかい、過去の俺くんよ?」


「準備って言われてもな…」


俺はため息をついた…つもりになった。


「で、次は何すればいいんだ?なんか特別な儀式とか、呪文を唱えるとか、そういうお約束的なのはあんの?」


「んー、特にないかな!そういうの、手続きが面倒だし、俺も昔やったけど結構時間かかったからさ、簡略化しといた。俺、優しいから」


神(仮)は、得意げに胸を張る…ような気配を漂わせる。


すると、俺の目の前の何もない空間に、突如として、キラキラと光り輝くアーチのようなものが現れた。


それはまるで、遊園地のアトラクションの入り口みたいにポップで、どこかチープで、そしてやけに楽しげな雰囲気を醸し出している。


アーチの上には、点滅するネオンサインで『次の人生はこちら!』と書かれているように見えた。


幻覚かもしれないが。


「準備できたら、そこのゲートみたいなのに飛び込めばOK!簡単でしょ?あ、ちなみに次の人生、ちょっとだけレアな設定にしといたから、お楽しみにね!初回限定SSRキャラ、みたいな?」


神(仮)は、またしても余計なことを言い放つ。


「おい!勝手なことするな!レアな設定ってなんだよ!?なんか嫌な予感しかしないんだけど!」


俺は思わず叫んだが、神(仮)は


「まあまあ、サプライズも人生のスパイスって言うじゃん?」


と、どこ吹く風だ。


もう、こいつ(未来の俺)に何を言っても無駄だということが、骨身に染みて分かってきた。


俺は、目の前のキラキラした、いかにも胡散臭いゲートを見つめた。


次の人生。


また新しい俺が、新しい経験をする。


それは喜びかもしれないし、悲しみかもしれない。


成功かもしれないし、大失敗かもしれない。


でも、それも全部、俺自身なのだ。


そして、いつか、今の俺が想像もつかないような長い長い時間を経て、俺は目の前のこのふざけた神(仮)になる。


「…まあいいか」


俺は、なぜか少しだけ笑いがこみ上げてくるのを感じながら言った。


「どうせ俺の人生だ。とことん付き合ってやるよ。じゃあ、行ってくる。またな、未来の俺!」


「おう!楽しんでこいよー、過去の俺!なんかあったら、心の中で叫べばワンチャン聞こえるかもね!知らんけど!」


神(仮)は、最後までお気楽な調子で手を振る…ような気配を見せた。


その言葉には、やっぱりほんの少しだけ、温かい何かが混じっているような気がした。


俺は、深呼吸を一つ…するつもりで、キラキラと輝くゲートに向かって一歩踏み出した。


そして、そのまま、勢いよく飛び込んだ。


瞬間、強烈な光に包まれる。


意識が急速に遠のいていく。


様々な記憶や感情が、走馬灯のように、しかしどこか他人事のように頭の中を駆け巡り、そして静かに消えていく。


次に目覚めた時、俺は赤ん坊になっているのかもしれないし、全く別の何かになっているのかもしれない。


でも、まあ、いっか。


どうせ、また会えるんだろ、未来の俺。


その時、ふと、最後に心の中でツッコミが浮かんだ。


(…って、ゲートもネオンも、俺の想像力の産物かよ!最後まで軽いなオイ!)




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