第4話 この茶番、誰得なの?え、私(神)得…ってコト!?
「…だとしたら、俺がしたことは、良いことも悪いことも、全部いつかどこかで、何らかの形で俺自身に返ってくるってことなのか…?」
俺の問いかけに、神(仮)は「ご名答!」とでも言いたげな、やけに明るい気配を返してきた。
その軽薄な反応とは裏腹に、俺の頭の中はとんでもない事実に直面して沸騰しそうだった。
全ての人間が俺自身で、俺の行いは全て俺自身に影響する。
壮大な自作自演。
なんてこった。
「でもさぁ」
俺は混乱する頭で、必死に次の疑問を絞り出した。
「こんな面倒なこと、一体何のためにやってるんだ?誰かの壮大な暇つぶしか?それとも、何か壮大なドッキリカメラとか、そういう類のものなのか?」
この宇宙全体が、俺一人をからかうためだけに用意された舞台だとしたら、あまりにも悪趣味すぎる。
「いーい質問だねぇ!やっぱ君、センスあるわー」神(仮)は、まるでクイズ番組の司会者みたいに、芝居がかった口調で言った。「暇つぶしとかドッキリとか、そういうちっちゃい話じゃないんだな、これが。ぶっちゃけちゃうとさ…」
神(仮)は、またしても勿体ぶったように一拍置いた。
そのぼんやりとした気配が、いたずらっぽく揺らめいている。
「君が、ちゃーんと『成熟』して、最終的には…ジャジャーン!今の私みたいになるためなんだよね。壮大な育成ゲーム、みたいな?君っていう主人公を、立派な神様に育て上げるための、超長期プロジェクト!」
「……はぁっ!?」
今、こいつは何と言った?俺が、目の前のこのふざけた神(仮)みたいになるため?育成ゲーム?
「あなたが…未来の私…だって言うのか!?じゃあ、あなたも昔はこんな風に…何も知らないただの人間として、何度も人生を繰り返してきたってことか!?」
俺の問いに、神(仮)は「ピンポーン!」とでも鳴らしそうな勢いで答えた。
「そゆこと!いやー、俺もねぇ、昔は色々やらかしましたよ、ホント。今の君みたいにさ、『はぁ!?』とか『マジかよ!』とか、しょっちゅう叫んでたし。だから君の気持ち、よーくわかるって!先輩としてアドバイスするなら、まあ、あんまり深く考えすぎないことだね。どうせ全部経験するんだからさ!」
その瞬間、神(仮)のぼんやりとしていた輪郭が、ほんの一瞬だけ、俺自身の姿とカチッと重なったような気がした。
それは本当に一瞬の幻覚で、すぐにいつもの掴みどころのない気配に戻ったが、俺はその奇妙な感覚に背筋がゾクッとするのを感じた。
目の前の、このふざけた、軽薄で、おちゃらけた神(仮)が、未来の俺。
俺も、いつかこんな風になるのか?
こんな…こんな得体の知れない、でもどこか憎めない存在に?
「じゃあ…この、人生っていう名の無限ループみたいなものは、俺があなたみたいになるまで、ずっと続くってことなのか?」
俺の声は、自分でも驚くほどにかすれていた。
壮大すぎて、もはや現実感がまるでない。
「ま、だいたいそんな感じ!ゴールは遠いけど、やりがいはあるっしょ?だって、最終的には全知全能の神様だよ?すごくない?なんでもやりたい放題!宇宙だって創れちゃうかもよ?ま、そこまで行くと色々面倒な手続きとかもあるんだけどさー」
神(仮)は、まるで新しいゲームの魅力を語るかのように、目を輝かせている…ような気配を漂わせている。
驚きと、混乱と、そしてほんの少しの…奇妙な納得感。
もし神(仮)が本当に未来の俺なら、このふざけた態度も、どこか腑に落ちるような気がした。長い長い時間をかけて、あらゆる経験を積んだ果てにたどり着く境地が、これほどの軽薄さ(あるいは超越した明るさ)だとしたら、それはそれで一つの真理なのかもしれない。
「…あなたも、俺だった時、こんな説明を誰かから受けたのか?」
俺は尋ねた。
「んー、どうだったっけなぁ?もう昔のことすぎて忘れちゃった!てへっ」
神(仮)は、あっけらかんと言い放つ。
「ま、でも大丈夫だって!君ならきっとうまくやれるよ。だって、俺がそうだったんだからさ!これ以上の保証はないっしょ?」
その言葉には、いつもの軽薄さの中に、ほんの少しだけ、本当にほんの少しだけだが、温かい何かが混じっているような気がした。
未来の自分からの、歪んだエール、とでも言うべきか。
「…この茶番、本当に俺が得する話なのか…?」
俺は、もはや抵抗する気力も失せ、ただ目の前の(見えない)未来の自分に問いかけることしかできなかった。
この壮大すぎる育成ゲームの結末は、果たして俺にとってハッピーエンドなのだろうか。