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第2話 人生ガチャ、もう一回!え、全部自分なの?マジで?

俺は、目のにいるはずのふざけた神(仮)の言葉に従い、しぶしぶと「心の椅子」とやらに腰を下ろした…つもりになった。


もちろん、実際に尻に伝わる感触など何もない。


ただ、この奇妙な空間で、ほんの少しだけ落ち着きを取り戻そうと努力した結果だ。


「よしよし、素直でよろしい!」神(仮)は、満足げな声を出した。


「じゃあ、早速だけど、君とこの世界の、とーっても面白い秘密について語っちゃうよ!心の準備はいいかな?まあ、できなくても語るけどね!」


その声は、どこまでも軽い。


これから語られる内容の重大さなど微塵も感じさせない、いつもの調子だ。


俺はため息をつきたい気分だったが、もちろん息を吐き出す肺もない。


「でね、まず基本情報から。人生ってのはさ、まあ、何回もやり直せるわけよ。よく言うじゃん?『人生やり直したいわー』って。あれ、実はできるんだよねぇ。RPGの強くてニューゲームみたいな?あ、でも記憶はリセットされちゃうけどね、基本。じゃないとネタバレでつまんないっしょ?毎回フレッシュな気持ちで、色んなイベントを楽しまないと!」


何回も、やり直せる?


記憶はリセット?


まるで、使い古されたゲームのシステム説明を聞いているかのようだ。


しかし、その「ゲーム」の舞台が「人生」であり、プレイヤーが「俺自身」であるという事実に、頭がクラクラする。


「な、何回もって…どういうことだ?俺は、俺として生きて、そして死んだ。それでおしまいじゃないのか?」


俺はかろうじて言葉を絞り出した。


「うーん、それがねぇ、ちょっと違うんだな。おしまい、じゃなくて、一周クリア、みたいな感じ?で、また次の周回が始まるわけ。人生ガチャ、もう一回!みたいな。結構ハマるよ、これ。スルメゲーってやつ?」


神(仮)は、本当に楽しそうだ。


そのぼんやりとした気配が、ウキウキと揺れているようにすら見える。


俺は、そのふざけた説明に、怒りを通り越して一種の虚脱感すら覚え始めていた。


「じゃあ…他の人はどうなるんだ?俺の家族とか、友人とか…彼らも、そんな風に何回も人生を繰り返してるっていうのか?」


もし神(仮)の言うことが本当なら、俺が知っている全ての人々も、この壮大な「人生ゲーム」の参加者ということになる。


その質問を待っていたとでも言うように、神(仮)の声のトーンが、ほんの少しだけ勿体ぶったものに変わった。


「他の人ねぇ…うーん、そこがこの宇宙の、いや、君っていう存在の、とびっきり面白い核心部分なんだけどさぁ…」


ゴクリ、と喉が鳴る…ような気がした。


このふざけた神(仮)が、初めて何か重要なことを言おうとしている。


その予感が、この何もない空間に奇妙な緊張感をもたらした。


「実はね…」


神(仮)は、一瞬だけ言葉を区切った。


まるで、観客の注目を最大限に引きつけてから、とっておきのサプライズを発表する手品師のように。


「その『他の人』ってやつ、みーんな、ぜーんぶ、まるっと……君なんだよね!びっくり?」


その言葉が響いた瞬間、俺の意識の中で何かが弾けた。


目の前の何もないはずの空間に、無数の顔、顔、顔がフラッシュバックする。


笑う顔、泣く顔、怒る顔、無表情な顔。男、女、老人、子供。日本人、外国人。そして、その全ての顔が、奇妙なことに、どこか俺自身に似ているような…いや、俺自身なのだと、魂が叫んでいるような感覚。


万華鏡を覗き込んでいるかのような、サイケデリックで、めまぐるしい光景。


「な…」


声が出ない。


「な、なんだって…?」


「だからー、この世の全ての人間は、過去も未来も現在も、ぜーんぶ君!君の別バージョン、みたいな?君っていう一つの魂が、いろんな時代で、いろんな人間として、いろんな人生を経験してるってわけ。すごくない?壮大な一人芝居!主演も助演も監督も脚本もぜーんぶ君!」


神(仮)は、まるで世紀の大発見でも告げるかのように、誇らしげに(そして相変わらず軽薄に)言った。


そのぼんやりとした気配が、得意げにふんぞり返っているようにさえ見える。


「ぜん…ぶ、俺…?」


頭が真っ白になる。理解が追いつかない。


俺が生きてきた中で出会った全ての人々が、俺自身?


愛した人も、憎んだ人も?


道ですれ違った名も知らぬ通行人も?


歴史上の偉人も、凶悪な犯罪者も?


それが、全部、俺…?


「ま、マジかよ…?え、え、どういうことだよそれ!?」


俺は、完全にキャパシティオーバーだった。


このふざけた神(仮)の言葉が、あまりにも突拍子もなさすぎて、もはや何に驚けばいいのかすら分からない。


ただ、その言葉が冗談ではないということだけは、なぜか、魂の深いところで理解してしまっているような、そんな悪寒にも似た感覚があった。



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