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広がる噂と見えない影

第十四章:癒しの噂


 町の長の孫娘を癒したその日から、私の存在は町の人々の間で急速に知られていった。


 翌朝、私が宿泊を許された小さな部屋の窓を開けると、眩しい朝日が部屋いっぱいに差し込んできた。町には、昨日までの静かな緊張感とは異なり、活気に満ちたざわめきが漂っている。


 「あの妖精様が、病気や傷を癒すらしいぞ」


 「本当か? 町の長の孫娘も治したらしいじゃないか」


 「これで安心して暮らせるかもな……」


 外から聞こえてくる町人たちの声に、私は胸が温かくなった。


 ——よかった。私の力が、この人たちの希望になっているんだ。


 小さなベッドで眠っていたモコも、伸びをして目を覚ました。


 「モコ、おはよう。今日は忙しくなりそうだね」


 モコは小さく鳴き、私の手にすり寄った。


 その時、控えめなノックが扉から聞こえた。


 「どうぞ」


 扉を開けると、そこには昨日の青年——最初に癒した負傷者が立っていた。


 「あの……りめる様、おはようございます」


 「おはよう。もう体調は大丈夫?」


 「はい! すっかり元気になりました。本当にありがとうございました」


 青年は照れくさそうに頭をかいた後、慎重に口を開いた。


 「あの、外に……町の人たちが来ていて。りめる様に会いたがっています」


 「えっ?」


 驚いて部屋を出ると、外には大勢の人々が私の部屋の前で待っていた。


 彼らは皆、希望に満ちた瞳で私を見つめている。


 「お願いです! 私の子供の病気を見てください!」


 「私も……怪我がなかなか治らなくて……」


 私は胸を打たれた。彼らは私を頼っているのだ。放ってはおけない。


 「わかりました。順番に見させていただきますね」


 私は優しく微笑み、集まった人々に向けて手を差し伸べた。


 人々の表情が、安堵と喜びに変わった瞬間だった。



第十五章:静かな影


 その日、私は次々と町の人々の傷や病気を癒していった。


 癒しを施すたびに、私の中で魔力が少しずつ高まっているのを感じる。まるで、人々の笑顔や感謝の言葉が力に変わっているかのように。


 午後になり、人々の列がようやく途切れ、私は一息ついた。


 ベンチに座り、ふぅっと大きく息を吐く。


 「ふぅ……少し疲れたかな……」


 腕の中でモコが鳴いた。心配してくれているようだ。


 「大丈夫だよ、モコ。ちょっと休めば元気になるから」


 その時、視線の端に奇妙な違和感を感じた。


 ——あれ……?


 建物の陰に、こちらをじっと見つめている人物の姿が見えた。黒いフードで顔を隠し、じっと静かに私を見ている。


 その人物と目が合った瞬間、背筋にゾクリと寒気が走った。


 「……誰?」


 私が小さく呟くと、その人物はゆっくりと背を向け、路地の奥へと姿を消した。


 嫌な胸騒ぎがする。でも、追いかける勇気はない。


 その時、青年が私の前に立ちふさがるようにして現れた。


 「りめる様、大丈夫ですか?」


 「あ……うん。大丈夫」


 「何かありましたか?」


 青年は不安げな顔で尋ねたが、私は首を横に振った。


 「……なんでもないよ。ちょっと疲れただけ」


 そう答えながらも、私は胸の奥に小さな不安を感じていた。


 癒しの力が人々を救う一方で、その力を快く思わない者もいるのかもしれない——。


 この世界が私に見せるのは、優しい笑顔や感謝だけではないのだ。


 それでも私は、自分の力を信じて進むしかない。


 ——どんな影が待っていようとも、私はきっと乗り越えてみせる。


 胸に小さな覚悟を抱きながら、私は再び立ち上がった。


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