町の長と癒しの真価
第十二章:長との対面
私は男に連れられ、町の中心にある一際大きな建物へと向かった。
外壁には石材が使われ、威厳ある装飾が施されている。入口の重厚な扉の前には、二人の門番が厳めしい表情で立っていた。
「町の長に話がある。通してくれ」
男が言うと、門番たちは無言で頷き、ゆっくりと扉を開いた。
中に入ると、そこには広い空間が広がり、奥に高い台座が設けられている。その台座に座っていたのは、白い髭を蓄え、年齢を重ねた重厚な雰囲気の老人だった。
老人の目は、私を見据えて静かに光っている。
「お前が例の者か……」
町の長の低い声が響いた。その声には、落ち着きと深い洞察が込められているようだった。
「初めまして。私はりめると言います」
私は深々と頭を下げた。
長は静かに私を見つめ、ゆっくりと話し始めた。
「お前のことは聞いた。傷ついた者たちを癒す、奇妙な力を持つと……。その力、一体どこから来たのだ?」
静かな問いかけだったが、鋭さが潜んでいた。
私は深呼吸をし、正直に答えようと決めた。
「……私は、この世界とは異なる場所から来ました」
周囲がざわめいた。長の側近らしき者たちが、互いに顔を見合わせている。
「異なる場所……とは?」
「異世界、です……」
私は声を落とした。自分でも信じられないようなことを口にしているのだから、当然の反応だろう。
長は表情を変えず、ただ私をじっと見つめている。
「……にわかには信じがたい話だな」
「はい、私も……そう思います」
長は椅子から立ち上がり、私の方へ近づいてきた。ゆっくりとした歩みだったが、その眼差しは鋭く私の姿を捉えている。
「お前の力は、魔法とは違うと聞いたが……?」
「魔法は得意じゃないんです。ただ、私が心を込めて触れたり、言葉をかけたりすると、癒しの力が生まれるんです」
長は何かを確かめるように私を見つめ続けた。
やがて、小さく頷くと、彼は言った。
「ならば、わしにもその力を見せてもらえるか」
⸻
第十三章:癒しの力の真価
長に連れられ、隣室へ入ると、そこには一人の少女がベッドに横たわっていた。まだ幼く、頬は赤く染まり、浅い呼吸を繰り返している。
「わしの孫娘だ。数日前から熱が下がらず、薬草も魔法も効かない」
長は静かに、しかし苦しげに呟いた。
「お前の癒しの力が本物なら、この子を救ってみせてくれ」
私は少女のベッドの側に座り、そっと額に手を触れた。
熱い。まるで火に触れているようだった。
私は心の中で祈るように呟いた。
——どうか、この子を癒してあげて……。
指先から再び淡い光が漏れ出す。その光は少女の体を包み込むように静かに広がり始めた。
しかし、少女の熱は簡単には下がらない。私は焦りを感じたが、落ち着いて、さらに想いを込めた。
「もう大丈夫だよ。すぐに楽になるからね」
まるで配信で視聴者に語りかけるように、私は少女に優しく囁いた。
その言葉が届いたのか、少女の表情が少しずつ和らいでいく。
熱かった額が、徐々に冷たさを取り戻し、少女の呼吸が深く安定したものになっていった。
「……ん……?」
少女がゆっくりと瞼を開いた。目はまだぼんやりとしているが、明らかに回復している。
「おじい……ちゃん?」
弱々しいながらもはっきりとした声が響き、町の長は思わず少女の元へ駆け寄った。
「……治った……のか?」
長は信じられないといった顔で私を振り返った。
「ありがとう、本当に……」
その目には、疑念ではなく、深い感謝が込められていた。
「……いいえ。私にも、できることがあってよかったです」
私がそう答えると、長は深々と頭を下げた。
「すまなかった。疑ったわけではないが、この力がどれほどのものか、確かめたかったのだ」
「当然だと思います。私だって、自分のことがよくわからないですから」
長は私に微笑んだ。そして、背後に控えていた側近たちに言った。
「この者を町の一員として迎え入れよう。異世界から来たという話も含めて、彼女の存在と力を尊重しよう」
周囲から小さな歓声と拍手が響く。
ようやく、私はこの世界で初めての居場所を手に入れたのだ。
だが、このときの私はまだ気づいていなかった。
癒しの力が、この世界に及ぼす影響が、私の想像を遥かに超えていることに——。