表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/39

町の長と癒しの真価

第十二章:長との対面


 私は男に連れられ、町の中心にある一際大きな建物へと向かった。


 外壁には石材が使われ、威厳ある装飾が施されている。入口の重厚な扉の前には、二人の門番が厳めしい表情で立っていた。


 「町の長に話がある。通してくれ」


 男が言うと、門番たちは無言で頷き、ゆっくりと扉を開いた。 


 中に入ると、そこには広い空間が広がり、奥に高い台座が設けられている。その台座に座っていたのは、白い髭を蓄え、年齢を重ねた重厚な雰囲気の老人だった。 


 老人の目は、私を見据えて静かに光っている。


 「お前が例の者か……」


 町の長の低い声が響いた。その声には、落ち着きと深い洞察が込められているようだった。


 「初めまして。私はりめると言います」


 私は深々と頭を下げた。


 長は静かに私を見つめ、ゆっくりと話し始めた。


 「お前のことは聞いた。傷ついた者たちを癒す、奇妙な力を持つと……。その力、一体どこから来たのだ?」


 静かな問いかけだったが、鋭さが潜んでいた。


 私は深呼吸をし、正直に答えようと決めた。


 「……私は、この世界とは異なる場所から来ました」


 周囲がざわめいた。長の側近らしき者たちが、互いに顔を見合わせている。


 「異なる場所……とは?」


 「異世界、です……」


 私は声を落とした。自分でも信じられないようなことを口にしているのだから、当然の反応だろう。


 長は表情を変えず、ただ私をじっと見つめている。


 「……にわかには信じがたい話だな」


 「はい、私も……そう思います」


 長は椅子から立ち上がり、私の方へ近づいてきた。ゆっくりとした歩みだったが、その眼差しは鋭く私の姿を捉えている。


 「お前の力は、魔法とは違うと聞いたが……?」


 「魔法は得意じゃないんです。ただ、私が心を込めて触れたり、言葉をかけたりすると、癒しの力が生まれるんです」


 長は何かを確かめるように私を見つめ続けた。


 やがて、小さく頷くと、彼は言った。


 「ならば、わしにもその力を見せてもらえるか」



第十三章:癒しの力の真価


 長に連れられ、隣室へ入ると、そこには一人の少女がベッドに横たわっていた。まだ幼く、頬は赤く染まり、浅い呼吸を繰り返している。


 「わしの孫娘だ。数日前から熱が下がらず、薬草も魔法も効かない」


 長は静かに、しかし苦しげに呟いた。


 「お前の癒しの力が本物なら、この子を救ってみせてくれ」


 私は少女のベッドの側に座り、そっと額に手を触れた。


 熱い。まるで火に触れているようだった。


 私は心の中で祈るように呟いた。


 ——どうか、この子を癒してあげて……。


 指先から再び淡い光が漏れ出す。その光は少女の体を包み込むように静かに広がり始めた。


 しかし、少女の熱は簡単には下がらない。私は焦りを感じたが、落ち着いて、さらに想いを込めた。


 「もう大丈夫だよ。すぐに楽になるからね」


 まるで配信で視聴者に語りかけるように、私は少女に優しく囁いた。


 その言葉が届いたのか、少女の表情が少しずつ和らいでいく。


 熱かった額が、徐々に冷たさを取り戻し、少女の呼吸が深く安定したものになっていった。


 「……ん……?」


 少女がゆっくりと瞼を開いた。目はまだぼんやりとしているが、明らかに回復している。


 「おじい……ちゃん?」


 弱々しいながらもはっきりとした声が響き、町の長は思わず少女の元へ駆け寄った。


 「……治った……のか?」


 長は信じられないといった顔で私を振り返った。


 「ありがとう、本当に……」


 その目には、疑念ではなく、深い感謝が込められていた。


 「……いいえ。私にも、できることがあってよかったです」


 私がそう答えると、長は深々と頭を下げた。


 「すまなかった。疑ったわけではないが、この力がどれほどのものか、確かめたかったのだ」


 「当然だと思います。私だって、自分のことがよくわからないですから」


 長は私に微笑んだ。そして、背後に控えていた側近たちに言った。


 「この者を町の一員として迎え入れよう。異世界から来たという話も含めて、彼女の存在と力を尊重しよう」


 周囲から小さな歓声と拍手が響く。


 ようやく、私はこの世界で初めての居場所を手に入れたのだ。


 だが、このときの私はまだ気づいていなかった。


 癒しの力が、この世界に及ぼす影響が、私の想像を遥かに超えていることに——。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ