広がる癒しと新たな波紋
第九章:癒しの力の影響
私が青年を癒したことで、町の人々の視線は一変した。
それまで疑いの目を向けていた者たちが、驚きと期待の入り混じった表情で私を見つめている。
「……あの傷が、本当に治ったのか?」
「まるで奇跡じゃないか……」
「おい、俺も見てくれ! もう何日も足の傷が治らないんだ!」
一人がそう叫ぶと、診療所の中で横になっていた人々が次々と身を起こした。
「俺も頼む!」
「どうか、この痛みを……!」
次の瞬間、私は人々に取り囲まれていた。
皆、傷つき、痛みに耐えながら、助けを求める目を向けていた。
——癒しを必要としている人が、こんなにもいるんだ……。
私は迷わず、次の負傷者の元へと歩み寄った。
「わかりました。順番に、私ができる限り癒します」
そう言うと、安堵したような表情を浮かべる者もいれば、まだ半信半疑といった顔の者もいた。
けれど、私はただ目の前の人たちに手を伸ばすことしかできない。
ひとり、またひとりと——
私は傷ついた人々に手をかざし、癒しの光を届けていった。
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第十章:疑念と戸惑い
数人の治療を終えた頃、私はふと異変を感じた。
周囲の視線が、どこか奇妙な雰囲気に変わっている。
——なにか、おかしい……?
私は不安になりながら、ふと男——この町の責任者らしい彼を見る。
彼は腕を組んだまま、険しい表情でこちらを見つめていた。
「……お前、本当に何者なんだ?」
私は戸惑った。
「え……?」
「どうして、お前はこんな力を持っている? どこから来た?」
そう問われて、私は言葉を失う。
どこから来たかと聞かれても——私は異世界の妖精で、配信をしていたら突然ここに召喚されて……なんて、簡単に説明できるわけがない。
「私は……」
言葉に詰まる私の肩を、ふわりとモコがちょんちょんと叩いた。まるで「大丈夫だよ」と言うように。
私は深呼吸し、できるだけ冷静に答えた。
「私は……ただ、人を癒したいだけなんです」
それは、偽りのない本音だった。
けれど——
「それだけで納得できるほど、この世界は甘くない」
男の声は鋭かった。
「お前の力は本物だ。しかし、それが“安全”だと誰が保証できる?」
——安全?
「癒しは確かにありがたい。だが、お前の力の源が何なのかわからない以上、警戒せざるを得ない」
私は思わず息を呑んだ。
「そんな……私は、ただ皆さんの力になりたくて……」
「そうかもしれん。しかし、お前が何者なのかもわからず、お前の力がどんな影響をもたらすのかも知らずに、無条件で受け入れることはできない」
彼の言葉は冷たかった。
それは、当然のことかもしれない。
異世界から来た私。普通の人間ではなく、妖精という存在。
戦えないけれど、傷を癒すことができる——そんな未知の存在を、彼らが簡単に信じられるわけがないのだ。
私は唇を噛んだ。
——癒しの力は、この世界では異質なものなのかもしれない。
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第十一章:町の長との対話
「どうすれば、信用してもらえるんですか?」
私は意を決してそう尋ねた。
男はしばらく私を見つめ、やがて深い溜息をついた。
「……まず、町の長に会え。俺だけでは判断できん」
「町の長?」
「この町を治めている者だ。お前の力をどう扱うべきか、最終的に決めるのはあの人だ」
私は頷いた。
「わかりました……お会いします」
——こうして、私はこの町の長と対面することになった。
信頼を得るために。
そして、私の癒しの力が、この世界でどんな意味を持つのかを知るために——。