疑念の目と最初の試練
第六章:疑われる存在
私は、無言のまま町へと案内された。
木造の門をくぐると、中には石畳の道が広がり、その両側には建物が立ち並んでいた。だが、活気は感じられない。市場らしき場所も閑散としていて、人々はみな戸を閉め、道を歩く者はほとんどいなかった。
不安が胸をよぎる。
異世界の町なら、もう少し賑やかだったりするのでは……?
そんな疑問を抱いていると、男が立ち止まり、私を振り返った。
「ここで待て」
そう言うと、男は目の前の大きな建物へと入っていった。
私はモコを抱えたまま、ただその場に立ち尽くすしかなかった。
門番もいない静かな町。警戒される私。
この世界のことを、私はまだ何も知らない。
「ねえ、モコ……この町、なんだか変だよね」
モコは私の腕の中で小さく鳴いた。
やがて、建物の扉が開き、男が再び姿を現した。
「中に入れ」
私は不安を抱えたまま、男に続いて建物の中へと足を踏み入れた。
第七章:異世界の現実
建物の中は薄暗く、長い木の机と椅子が並んでいた。まるで、役所のような雰囲気だ。
男は私に席を勧めることもなく、ただ向かいの椅子に座ると、腕を組んで私をじっと見つめた。
「さて……お前、一体何者だ?」
鋭い目が、まるで試すように私を見つめる。
「私は……りめるです。ただ、人がいるところを探していて……」
「名前を聞いているんじゃない」
男はため息をつき、テーブルを指で軽く叩いた。
「この町に迷い込む者は多いが、お前のような格好の者は初めてだ。おまけに、魔物を連れている」
「モコは敵じゃありません! ただの小さな子で……」
「魔物に『ただの』はない」
男は低い声で言い放つ。
「魔物は人間の敵だ。どれだけ小さくても、何かの手段で人を襲うかもしれん」
「そんな……」
私はモコをぎゅっと抱きしめた。
確かに、この世界では魔物と人間が争っていると神は言っていた。でも、この子は違う。助けたばかりで、まだ弱々しい。そんな子が人を襲うなんて考えられない。
「それに、お前の服装……それは何だ?」
「え?」
「この世界のどの国にも属さない衣……まるで、異界の者のようだな」
鋭い視線が、私のピンク色のドレスと透明な羽をじっくりと見つめる。
私は言葉に詰まった。
どう説明すればいいのか。異世界から来たなんて、信じてもらえるはずがない。
「……お前、どこから来た?」
男の問いに、私は一瞬躊躇った。しかし、下手な嘘をつくよりも、正直に話すしかない。
「……私は、気がついたら草原にいました」
「草原?」
「はい。それで、人がいる場所を探して歩いていたんです」
男はしばらく考えるように目を細めた。
「……お前が嘘をついているようには見えないな」
ほっとしたのも束の間、男は私の目をじっと見つめながら、静かに言った。
「だが、信用できるわけでもない」
やっぱり、簡単には受け入れてもらえない。
「お前が危険な者でないと証明できるなら、町に留まることを許す」
「証明……?」
「そうだ。お前の言う『癒しの力』とやら……それが本当に役に立つものなら、この町の人間を救ってみせろ」
男の声には、試すような響きがあった。
「この町は、最近魔物の襲撃を受け、負傷者が増えている。中には、治療を受けられずに苦しんでいる者もいる」
——傷ついた人たちがいる?
「もし、お前が本当に癒しの力を持っているなら、それを証明してみろ」
男は私にそう言い放った。
——これが、私の最初の試練。
私は息をのんだ。
「……わかりました」
そう答えた瞬間、町の静寂の中に、新たな運命が動き始めたのを感じた。