異世界の町へ
第四章:新たな目的地
小さな魔物を腕に抱きながら、私は草原を歩いていた。
柔らかな風が頬を撫で、青空がどこまでも広がっている。けれど、私はまだこの世界のことを何も知らない。ただ、さっき出会ったこの小さな魔物——ふわふわの毛並みを持ち、頭に小さな角を生やした子が、すり寄るように私に懐いていることだけはわかる。
「ふふ、あなた、もうすっかり安心してるね」
腕の中の小さな魔物は、私の声に反応するように小さく鳴いた。
「あなたの名前、何かつけてあげたほうがいいのかな?」
この世界にはまだわからないことが多すぎる。でも、せめてこの子には名前をつけてあげたい。
「うーん……モコモコしてるし……モコ?」
そう言うと、小さな魔物——モコは嬉しそうに私の指をちょんちょんと舐めた。
「モコ、かぁ……気に入ってくれたのかな?」
私は少し安心して、抱きかかえる手に力を込めた。
それでも、このまま草原を歩き続けるわけにはいかない。この世界のことを知るには、人がいる場所を探さなきゃ。
「どこかに町があるといいんだけど……」
見渡す限り、草原と遠くの山々しかない。私の癒しの力は、傷を癒すことはできても、お腹を満たすことはできない。
「とにかく、人のいる場所を探そう!」
私はモコを抱えたまま、草原を進み続けた。
第五章:町への道
歩き始めて、どれくらい経っただろう。
日差しは高く昇り、暑さがじわりと体にまとわりつく。疲れも溜まってきたけれど、モコは元気そうに私の腕の中でまどろんでいる。
「いいなぁ、モコは歩かなくていいから楽そう……」
そんなことをぼやきながら、私は歩き続けた。
しばらく進むと、遠くに薄く煙のようなものが上がっているのが見えた。
「……あれって、もしかして……?」
私は足を速めた。もしあれが町なら、人がいるかもしれない。
胸が高鳴る。やっと、この世界で誰かと話せるかもしれない。
だが、町が近づくにつれて、私は違和感を覚えた。
——なんだか、思っていたより静かすぎる。
町の入口には、大きな木の門があった。石壁に囲まれ、いかにも人々が住んでいそうな雰囲気だけれど、門番の姿は見えない。
「……誰もいないの?」
恐る恐る門の前に立ち、周囲を見渡す。
中へ入るべきかどうか迷っていると——
「おい、そこのお前!」
突然、背後から鋭い声が響いた。
びくっとして振り向くと、そこには一人の男が立っていた。
鋭い目つきに、無造作に伸びた髪。腰には剣を帯び、鎧は着ていないものの、鍛えられた体つきが見て取れる。
「お前、どこから来た?」
男は私を警戒するように睨みながら言った。
「えっと……私は……」
言葉に詰まる。どう説明すればいいのかわからない。
「怪しいな……この辺りをうろつく魔物の仲間か?」
男は剣の柄に手をかけた。
「ち、違います! 私はただ、人がいる場所を探していて……!」
慌てて否定する。
だが、男の視線は厳しいままだった。
「それなら、なぜ魔物を抱えている?」
「えっ……?」
モコを見下ろすと、彼は小さく「にゃーん」と鳴いた。
「あ……この子は違うんです! 私が助けてあげて……」
「言い訳は聞かん。とにかく、中に来い」
男は短く言うと、私に背を向け、町の中へ歩き出した。
——えっ、えっ、どうしよう!?
言い返す暇もなく、私は男に連れて行かれることになってしまった。