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癒しの芽、揺らぐ心

第六十二章:静かなる変化


魔物が少年を助けた出来事は、村に静かな波紋を広げていた。


「魔物が……助けてくれたって、本当なの?」


「……あぁ、俺も見た。あれは攻撃じゃなかった。むしろ、迷いがあるように見えた」


誰もが確信を持って口にすることはできなかったが、完全に否定することもできない——そんな微妙な空気が村を包んでいた。


私は癒し処で、今日も人々の話を聞いていた。

中には、少しずつ「昔はこうだったんだ」と、魔物たちと触れ合った記憶を語る者も出てきた。


「昔、まだ小さかった頃、森で角のない魔物と追いかけっこをしたことがあるのよ。今思えば……あの子、私に会いに来てたのかもしれないわね」


「友達だった、ってことかもね」


「……あの時、もっとちゃんと向き合えてたら……」


語られる後悔の言葉に、私は何度もうなずいた。


過去は変えられないけど、気づき直すことはできる。

そしてそれが、未来の選択を変えていく。



第六十三章:差し伸べられた手


その日の午後、魔物の一団が村の広場近くに現れた。


堂々と姿を現すのは初めてだったが、人々は予想よりも落ち着いていた。


先日、少年を助けた魔物もいた。


ゆっくりと彼らは進み、村人たちとの距離を少しずつ縮めていった。


すると、静かに手を伸ばす人が現れた。


それは、あの旅の女性・サラだった。


彼女は恐る恐る、魔物の一頭の頬に触れた。


「……冷たくない。ちゃんと、あったかい」


魔物は驚いたように目を瞬かせたが、そっと頭を下げた。


——その瞬間、空気が変わった。


「……触れても、大丈夫なんだ」


「怖いと思ってたけど……なんだか、優しそうだ」


ざわざわとささやきが広がり、やがて村の子どもたちが駆け寄ってきた。


「お兄ちゃん、あの魔物、さわっていい?」


私は笑って頷いた。


「もちろん。やさしくね」


子どもたちが手を伸ばし、魔物たちがそっと鼻先を近づける。その光景は、まさに奇跡のようだった。


だが——


そのとき、突然、鋭い声が響いた。


「それ以上、近づくな!!」


広場の外れから現れたのは、老人・ユランだった。


彼の手には、震えるほどの怒りを宿した杖が握られていた。



第六十四章:癒しを拒む心


ユランは魔物たちの前に立ちはだかり、震える声で叫んだ。


「貴様らが、私の家族を奪った!その手で、娘を焼き、孫を泣かせて死なせたんだ!」


人々が凍りつく。


魔物たちの中には、顔を伏せる者もいた。

そして、一頭の年老いた魔物が、ユランの前に出た。


「……私が、その時、先頭にいた」


その言葉に、空気が張りつめた。


「止められなかった。止める力もなかった。ただ……それだけを、言いに来た」


ユランは目を見開いたまま、その場に立ち尽くす。


「……なんだ、それは。謝るつもりか?それで済むと思っているのか!?」


魔物は静かに首を振った。


「すまないでは済まない。だが、私は、あの日から毎日……あなたの家族のことを想ってきた」


その言葉が、ユランの心に何かを落とした。


彼の杖が少しだけ下がる。


「それでも……癒されるはずがない……!」


私はそっと彼に歩み寄り、静かに言った。


「癒しは、“許すこと”じゃありません。あなたの心が、今のあなたを苦しめているのなら……その痛みを、私たちと一緒に抱えて生きていくことができるかもしれません」


ユランは何も言わなかった。ただ、その場に膝をつき、手で顔を覆った。


村人たちは、誰も言葉をかけず、ただ静かにその姿を見守っていた。



第六十五章:新しい朝に


翌朝、ユランは癒し処の扉を開けた。


「……この歳になって、泣き崩れたのは初めてだったよ」


私は微笑んで、椅子をすすめた。


彼はそこに座り、ぽつりと呟いた。


「ありがとうな、りめる。お前の言葉で……少しだけ、救われた気がする」


私はその言葉を、胸の奥でしっかりと受け止めた。


癒しは、痛みを消す力じゃない。

でも、痛みと一緒に生きる勇気をくれる。


その日の空は、とても澄んでいた。


魔物たちと人間が並んで働く畑。

子どもたちが一緒に遊ぶ姿。

誰もが、ほんの少しだけ、前に進んでいた。


エリオが隣で囁いた。


「りめる、君の光が、確かに届いてるよ」


私は微笑みながら答えた。


「ううん……みんなの光が、重なっただけだよ」


風が優しく吹いた。


私たちはまた一歩、新しい未来へと近づいていた。


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