異世界と小さな出会い
第二章:異世界への第一歩
光に包まれた次の瞬間、私は冷たい地面の上に倒れ込んでいた。
ゆっくりと瞼を開けると、見慣れない風景が広がっている。空は透き通るように青く、白い雲がゆっくりと流れていた。目の前には、果てしなく続く草原。緩やかな風が草を揺らし、波のような音を奏でている。
——ここが、神が言っていた異世界……?
私は慎重に身を起こし、周囲を見渡した。どこまでも続く大地。遠くには、うっすらとした山々の影が見える。空気は澄んでいて、どこか懐かしさすら感じさせるが、胸の奥に広がるのは不安だった。
「どうしよう……」
思わず呟く。配信をしていたはずなのに、私は異世界にいる。それも、戦乱の渦中にあるという世界に——。
戦う力はない。戻る方法もわからない。それでも、神は「癒しの力でこの世界を救え」と言っていた。
「そんなの……本当にできるのかな……?」
風に問いかけても、答えは返ってこない。私は大きく息を吸い、まずは動かなきゃ、と思った。このまま立ち尽くしていても何も変わらない。
「とにかく、人がいるところを探さなきゃ……!」
自分を奮い立たせ、私は歩き出した。
第三章:小さな命との出会い
草原を進んでどれくらい経っただろう。足元の草を踏みしめる感触にも少しずつ慣れてきたが、心の不安は消えない。
——この世界で、本当にやっていけるのかな……?
そんなことを考えながら歩いていたその時、ふと前方で何かが動いた。
草むらの奥、わずかに揺れる影。
「……誰かいる?」
私は恐る恐る近づいた。そして、そこで見た光景に息を呑んだ。
小さな魔物が、罠にかかったまま苦しそうに身をよじらせていたのだ。
その姿は、まるで猫のように小さく、全身を覆うふわふわとした毛並みが柔らかそうだった。だが、頭には小さな角が生えていて、目は怯えたように震えている。
——この子、傷ついてる……!
私は咄嗟に駆け寄った。
「大丈夫……? しっかりして……!」
罠の縄が食い込んでいて、血が滲んでいる。魔物は弱々しく鳴き声を上げ、私を警戒するように身を縮めた。
「怖くないよ、助けてあげるから……」
ゆっくりと、優しく声をかける。
私は配信でも、視聴者が安心できるように優しい声を心がけていた。その声が、少しでもこの子に届けば——。
慎重に罠をほどくと、小さな魔物は身を震わせながらも、抵抗することなくじっとしていた。
「もうちょっとだからね……」
罠から解放されると、魔物は弱々しく私の手の中に収まった。
——でも、傷が深い……。このままだと、この子は……!
私は辺りを見回し、使えそうな草花を探した。エーデルノアでは、私は魔法は苦手だったけれど、植物の知識はあった。薬草を見極め、簡単な応急処置をするくらいならできるはず。
「……あった!」
私は、小さな白い花を咲かせた薬草を見つけた。確か、この葉には傷の治癒を助ける成分が含まれている。
葉を優しく千切り、魔物の傷口に当てる。
「お願い……この子が助かりますように……」
心からそう願いながら、そっと手を添えた。
すると——私の指先から、ほのかな光が生まれた。
「……え?」
光は魔物の傷にゆっくりと吸い込まれていく。そして、傷口から滲んでいた血が、次第に収まっていった。
「これって……」
神が言っていた、「癒しの力」……?
私の言葉や手の温もりに、癒しの魔力が宿る——。
そう理解した時、魔物は小さく体を震わせ、ゆっくりと瞼を開けた。
「よかった……!」
私は胸を撫で下ろし、小さな魔物をそっと抱きしめた。
魔物はしばらく私をじっと見つめると、安心したように、私の腕の中でまるくなった。
まるで、初めから私のことを知っているかのように——。
「……そっか。あなた、もう怖くないんだね」
私は微笑み、小さな命を包み込むようにそっと撫でた。
そう、私は気づいた。
「癒しの力」は、確かにこの世界で必要とされている。
戦う力はないけれど、この小さな魔物のように、癒しを求める存在がいる。
それなら——私は、この力を信じてみよう。
小さな魔物を抱えながら、私は再び歩き出した。
これは、癒しの力で世界を変える物語の、ほんの始まりにすぎない。