深まる亀裂と癒しの決意
第三十章:町を襲う不穏な影
私が町の人々に魔物の事情を伝えて数日が経った。町は静けさを取り戻したように見えたが、人々の心にはまだ複雑な感情が渦巻いているのを感じていた。
ある日の午後、突然町中が騒がしくなった。
「大変だ!町の外れが襲われている!」
町の若者が必死の形相で駆け込んできた。私は胸騒ぎを覚えて外に飛び出すと、遠くで黒い煙が上がっているのが見えた。
町の長が険しい表情で私の横に立った。
「魔物の襲撃か……?」
その言葉に、私は唇を噛んだ。せっかく人々に魔物たちの事情を伝えたばかりなのに、これではまた憎しみが深まってしまう。
「私も行きます!」
私は急いで町の外れへ向かった。到着すると、そこには燃え上がる家々と、逃げ惑う町人たちの姿があった。
その中心で暴れる魔物の姿を見て、私は目を見開いた。
——あれは……森で会った魔物たちとは違う……?
鋭い角と真っ赤な目。まるで何かに操られているかのような異常な様子だった。
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第三十一章:操られた憎しみ
「やめて!」
私は必死で叫んだが、魔物たちはまるで耳に入らないかのように暴れ続けている。
「りめる様、危ない!」
青年が私を引き寄せ、崩れ落ちる建物から庇ってくれた。
「ありがとう……でも、あの魔物たち、何かおかしい……」
「確かに、いつもとは違います。暴れるだけで、何も聞こえてないみたいだ」
青年の言葉に、私は意を決して魔物たちに近づいた。
「お願い、目を覚まして!」
私は手を伸ばし、癒しの力を込めて魔物に触れた。指先から放たれた光が魔物を包み込む。しかし、魔物は激しく抵抗し、私を振り払おうと暴れた。
「くっ……」
それでも諦めずに魔物を抱きしめるように癒し続けると、徐々にその動きが緩やかになり、やがて静かに地面へ崩れ落ちた。
「大丈夫……?」
魔物の目から赤い光が消え、やがて静かな瞳で私を見つめた。
「すまない……俺は一体何を……」
「よかった……正気に戻ったのね」
その姿を見ていた町の人々がざわめき始める。
「魔物が正気に……?」
「りめる様が癒したのか?」
しかし、中には険しい目で魔物を睨みつける者もいた。
「だからと言って、俺たちの町を襲ったことには変わりない!」
怒りに震えるその声に、私は胸が締め付けられた。
——このままでは、また人間と魔物の溝が深まってしまう。
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第三十二章:癒しの意味
夕暮れ時、鎮火した町の一角で私はひとり座り込んでいた。魔物の攻撃によって傷ついた人々の手当てを終え、心身ともに疲れていた。
町の青年が心配そうに私のそばに寄ってきた。
「りめる様……大丈夫ですか?」
「うん、ありがとう。でも……やっぱり私だけの力じゃ、この争いは止められないのかな……」
青年はしばらく黙った後、静かに語りかけた。
「確かにすぐには難しいかもしれません。でも俺たちは、りめる様のおかげで気づいたんです。憎しみを抱えたままじゃ、何も解決しないって」
彼の言葉に私は顔を上げた。
「あなたたちがそう思ってくれるなら、まだ諦めちゃダメだよね」
彼は微笑んで頷いた。
「そうですよ。町のみんなも、少しずつ気づき始めています。りめる様の癒しの力は、傷だけじゃなくて心も癒してるんだって」
その言葉を聞いて、私の胸に温かなものが広がった。
癒しの力は、傷ついた体だけでなく、憎しみや悲しみに傷ついた心にも届く。そう信じて、私はもう一度立ち上がろうと思った。
その時、青年がふと表情を曇らせた。
「でも、今回の襲撃……明らかにおかしかったですよね。あの魔物たちはまるで何かに操られているようで……」
私も頷いた。
「うん、きっと何かが裏にいると思う……」
私はこの事件の背後に隠された謎を感じていた。
——私が本当に癒すべきものは、もっと深い闇の中にあるのかもしれない。
その闇を払うために、私はもう一度、前に進もうと心に誓った。