表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/39

深まる亀裂と癒しの決意

第三十章:町を襲う不穏な影


私が町の人々に魔物の事情を伝えて数日が経った。町は静けさを取り戻したように見えたが、人々の心にはまだ複雑な感情が渦巻いているのを感じていた。


ある日の午後、突然町中が騒がしくなった。


「大変だ!町の外れが襲われている!」


町の若者が必死の形相で駆け込んできた。私は胸騒ぎを覚えて外に飛び出すと、遠くで黒い煙が上がっているのが見えた。


町の長が険しい表情で私の横に立った。


「魔物の襲撃か……?」


その言葉に、私は唇を噛んだ。せっかく人々に魔物たちの事情を伝えたばかりなのに、これではまた憎しみが深まってしまう。


「私も行きます!」


私は急いで町の外れへ向かった。到着すると、そこには燃え上がる家々と、逃げ惑う町人たちの姿があった。


その中心で暴れる魔物の姿を見て、私は目を見開いた。


——あれは……森で会った魔物たちとは違う……?


鋭い角と真っ赤な目。まるで何かに操られているかのような異常な様子だった。



第三十一章:操られた憎しみ


「やめて!」


私は必死で叫んだが、魔物たちはまるで耳に入らないかのように暴れ続けている。


「りめる様、危ない!」


青年が私を引き寄せ、崩れ落ちる建物から庇ってくれた。


「ありがとう……でも、あの魔物たち、何かおかしい……」


「確かに、いつもとは違います。暴れるだけで、何も聞こえてないみたいだ」


青年の言葉に、私は意を決して魔物たちに近づいた。


「お願い、目を覚まして!」


私は手を伸ばし、癒しの力を込めて魔物に触れた。指先から放たれた光が魔物を包み込む。しかし、魔物は激しく抵抗し、私を振り払おうと暴れた。


「くっ……」


それでも諦めずに魔物を抱きしめるように癒し続けると、徐々にその動きが緩やかになり、やがて静かに地面へ崩れ落ちた。


「大丈夫……?」


魔物の目から赤い光が消え、やがて静かな瞳で私を見つめた。


「すまない……俺は一体何を……」


「よかった……正気に戻ったのね」


その姿を見ていた町の人々がざわめき始める。


「魔物が正気に……?」


「りめる様が癒したのか?」


しかし、中には険しい目で魔物を睨みつける者もいた。


「だからと言って、俺たちの町を襲ったことには変わりない!」


怒りに震えるその声に、私は胸が締め付けられた。


——このままでは、また人間と魔物の溝が深まってしまう。



第三十二章:癒しの意味


夕暮れ時、鎮火した町の一角で私はひとり座り込んでいた。魔物の攻撃によって傷ついた人々の手当てを終え、心身ともに疲れていた。


町の青年が心配そうに私のそばに寄ってきた。


「りめる様……大丈夫ですか?」


「うん、ありがとう。でも……やっぱり私だけの力じゃ、この争いは止められないのかな……」


青年はしばらく黙った後、静かに語りかけた。


「確かにすぐには難しいかもしれません。でも俺たちは、りめる様のおかげで気づいたんです。憎しみを抱えたままじゃ、何も解決しないって」


彼の言葉に私は顔を上げた。


「あなたたちがそう思ってくれるなら、まだ諦めちゃダメだよね」


彼は微笑んで頷いた。


「そうですよ。町のみんなも、少しずつ気づき始めています。りめる様の癒しの力は、傷だけじゃなくて心も癒してるんだって」


その言葉を聞いて、私の胸に温かなものが広がった。


癒しの力は、傷ついた体だけでなく、憎しみや悲しみに傷ついた心にも届く。そう信じて、私はもう一度立ち上がろうと思った。


その時、青年がふと表情を曇らせた。


「でも、今回の襲撃……明らかにおかしかったですよね。あの魔物たちはまるで何かに操られているようで……」


私も頷いた。


「うん、きっと何かが裏にいると思う……」


私はこの事件の背後に隠された謎を感じていた。


——私が本当に癒すべきものは、もっと深い闇の中にあるのかもしれない。


その闇を払うために、私はもう一度、前に進もうと心に誓った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ