運命の配信と異世界召喚
柔らかな光が、私の部屋を淡く照らしていた。画面の向こうでは、無数のコメントが流れ、視聴者たちの温かな言葉が私の胸を満たしていく。
「みんな〜、こんにちは!りめるだよ!」
私は画面越しに優しく微笑み、声を響かせる。いつも通りの配信。視聴者の疲れを癒し、心を和らげるための時間。
隣には、今日のコラボ相手であるミレアがいた。彼女の長い銀髪が揺れ、金色の瞳が楽しげに輝いている。ミレアは、私とは違い、魔法を自在に操る妖精だ。その華麗な魔法の演出は、いつも視聴者を魅了し、驚きと感嘆の声を引き出していた。
この日も、彼女は新たな魔法の演出を試みようとしていた。だが、どこかいつもより焦っているように見えた。
「これじゃ、視聴者の心はつかめない…。もっと、もっと出力を高めなきゃ…!」
小さな呟きが、彼女の焦燥を物語る。ミレアは、より壮大な魔法を披露しようと、魔力を限界まで高めていった。周囲の空気がピリピリとした緊張感を帯び、光の粒が舞い上がる。
その瞬間——私の脳内に、低く、確かな声が響いた。
「みつけた……」
言葉の意味を理解する前に、足元に違和感を覚えた。
床に複雑な紋様が浮かび上がり、淡い光を放ちながらゆっくりと回転し始めていた。
「これって、ミレアの新演出?」
私は、驚きと期待を込めてミレアに視線を向ける。しかし、彼女の表情は、先ほどまでの楽しげなものとはまるで違っていた。
「違う……! 早く逃げなさい!」
焦燥と警告が入り混じった声。その一言が、状況の異常さを決定的なものにする。
逃げようとした瞬間、足元から突き上げるような光が全身を包み込んだ。視界が歪み、耳鳴りが響き、感覚が混乱していく。
——次に目を開けたとき、私は異空間にいた。
第一章:神との対話
そこは、天と地の区別すら曖昧な、どこまでも広がる神秘的な空間だった。
足元には何もないはずなのに、しっかりと立つことができる。周囲には、宙に浮かぶ石や光の帯が漂い、ぼんやりとした輝きが幻想的な雰囲気を醸し出していた。冷たくも温かくもない、静寂に包まれた空間。
——ここは、どこ……?
動揺する私の前に、突如として姿を現した存在があった。
それは、純白の衣をまとい、光と闇が交錯する中から浮かび上がる、威厳に満ちた存在——神だった。
「あなたは、選ばれし者だ」
低く、しかし確かな声が空間に響く。その言葉に、私は思わず息を呑んだ。
「え……? 私が……?」
頭が追いつかない。なぜ、私が? そもそも、これはどういうことなのか?
「な、何が起こっているの……? どうして私がこんなところに?」
神は静かに私を見つめ、ゆっくりと語り始めた。
「この世界は、かつては穏やかであった。しかし、今は争いと憎悪に満ち、魔物と人間が互いに殺し合う絶望の世界へと変わってしまった」
神の声には、深い悲しみが滲んでいた。
「私は、この終わりなき争いに終止符を打つ存在を求めていた。お前の持つ癒しの力こそ、この世界に必要なものだ」
「でも……私は戦う力なんて持っていません」
そうだ。私は、ミレアのように強大な魔法を操ることはできない。ただ、配信で優しい言葉をかけることしかできないのに……。
「お前の力は、戦いとは異なる。お前の言葉、笑顔、そして癒しの心。それが、この世界を救う唯一の希望となる」
神の言葉は、穏やかでありながらも強い確信に満ちていた。しかし——
「そんなの……できるわけないよ……」
私は小さく呟いた。戦いの中に飛び込んで、どうやって癒しをもたらせばいいの? それに、本当に私がそんな役目を果たせるの?
「怖いか?」
「……はい」
正直に答えた。怖くて仕方がなかった。
神はしばらく沈黙した後、ゆっくりと頷いた。
「お前が持つその恐れは、決して無意味ではない。だが、恐れとともに進む者こそが、本当の意味で世界を変えることができるのだ」
私は神の言葉を噛みしめた。そして、心の奥底に眠っていた覚悟が、少しずつ目を覚ますのを感じた。
「……わかりました。私にできることがあるのなら、やってみます」
震える声ながらも、私はそう答えた。
神は満足そうに微笑み、そしてゆっくりと手を掲げた。
「では、行くがよい。お前の癒しが、この世界に新たな光をもたらすことを願っている」
次の瞬間、私は再び眩い光に包まれた。
——そして、運命の舞台へと降り立つ。