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秘密の日常

秘密の日常

大きな胸を押し当てるように左腕にしがみつく。甘ったる声に、媚びた目線で何やら話し続けていた。そんな僅かな仕草に激しい嫌悪感を覚え腕を振り払う、

 「やーん。つれないなぁ」

 しかしそれでもなお俺の腕に絡みつく。そして耳に触る甲高い声は俺の返事を待つことなく発せられ続けていた。

 女というのはどうしてこうも胸を触らせれば落とせると思ってるのだろうか。所詮胸なんぞ脂肪でしかないうえに、人間なんてバラせば皆同じなのに。

 むせかえるような香水の臭い。気を抜けばその場でへたりこんでしまうほど気分が悪くなる。

 「でねー。ほんとに大変だったのぉ」

 「……へぇ」

 「レッサーギコとかフサとかが私の方ばっかりに来てぇ。アフォしぃに嫉妬もされちゃうし」

 「へぇ。良かったな」

 「良くないよぉ」

 こんなにも適当に返事をしているのにこいつは何も思わないのだろうか。ここまでくると一種の才能のようにも思える。

 このバカ女をどうしようかと悩んでいると、友人のナタが虐殺をしていた。大学で同じ講義を受けている数少ない友人だ。真っ白い毛並みは返り血に染まり赤黒く変色している。

 「ナタ」

 「ん?あぁ、ラディ! どうしたモナ? 」

 先程までの虐殺者の顔は無くなり、無邪気な笑顔に変わる。彼らの種族特有の敵意のない笑顔。優しさに溢れた雰囲気。俺もつい騙されそうになる。

 「こいつあげるから二人で遊んでこい」

 左腕にくっついている女をナタに投げるようにして渡す。女は小さな悲鳴をあげてナタの腕の中に収まる。

 「結構可愛い子なのにもったいないモナよ」

 「俺興味無いから。じゃ」

 そう言うと俺はすぐに踵を返し、来た道と同じ道を歩き始めた。

 「んもぉ、つれないんだからぁ」

 「じゃあナタと遊ぶモナ?」

 「仕方ないなぁ」

 後ろの方から間延びした二人の会話が耳に届く。どうしてこうも女と言うのはうるさいのだろうか。うるさくしなければならない理由でもあるのだろうか。少なくとも俺の前だけでは少し黙って欲しい。

 別段話すのが嫌いな訳でもない。友人であるナタもいろいろ話す方だ。しかし自分を可愛いと信じて疑わない女が、自身の魅力を伝えるために話し続けるのは耐えられない。つまり女が好きではないということか。だからといって同性愛者でもないが。

 路地裏に入り箱入りに会いに行こうかと思った矢先、路上に設置してあるゴミ箱と植木の間にガタガタと震える青いしっぽが見えた。手入れもされておらず薄汚れたそれは見るからに不快なものだった。

 隠れきれていないしっぽの先でヒソヒソと小さな話し声が聞こえる。足音を立てぬようにゆっくりと近づき、バレぬようにゴミ箱の反対側にしゃがんだ。

 「皆大丈夫デチ。もう少し人が居なくなったら帰るデチ」

 「はにゃ……。こわいよぅ」

 「チビしぃたん大丈夫デチ」

 チビフサがチビしぃの事を気遣うように頭を撫でた。

 数的にはチビギコ二匹。チビしぃ一匹。チビフサ一匹。といったところか。もしかしたら奥にまだ潜んでるのかもしれないが、今回はこいつらだけでいいだろう。

 俺は立ち上がり、隠れたつもりの四匹の目の前に立つ。それにはさすがに気付いたのか、皆して一斉に悲鳴をあげて逃げはじめる。

 「まぁまぁ。落ち着いてくれよ」

 「……?ぎゃ、虐殺厨じゃないの?」

 チビしぃが足を止めてこちらを振り向く。ピンクの毛並みは薄汚れており、とてもじゃないけど素手で触る気にはなれない。

 それに伴い先程の三匹も足を止め、上目遣いでこちらを見つめる。

 「酷いなぁ。種族だけで判断されるなんて」

 「ご、ごめんなさいデチ」

 「虐殺厨じゃないのならナッコして!ナッコ!」

 両手を懸命に伸ばし抱っこをせがむ。しかしまぁ先程も思ったが、糞尿塗れにゴミまみれの体で抱っこなんて到底無理だ。正直近くにいるだけで臭いがキツイ。……箱入りはいい匂いしてたんだけどな。やっぱり良しぃだから、それなりに優遇されてるのかもしれない。

 「ほら今日は君たちにおやつを持ってきたんだ」

 「えっ、えっ!ほんとデチか?」

 ポケットから小さなチョコを二つ投げ渡す。話してる限り比較的全良だろうから平和に解決するもんだと思い込んでいた。

 ところがある意味予想通りという結果になった。四匹で取り合いを初め、挙句の果てにはチビギコが一匹死ぬ始末。こればっかりは俺も思わず笑ってしまった。

 「はにゃ……。二人ばっかりズルい!しぃも食べたいよぉ!」

 「うまいデチ!!こんな美味しいの初めてデチ!」

 「こんな美味しいもの食べれないチビしぃたん哀れデチね」

 先程まで皆互いを気遣う素振りを見せていたが、たかがチョコ如きでここまでとは。まぁ野良のこいつらはチョコなんて甘美な物味わうこともないから、仕方の無いことなのかもしれない。しかしまぁなんと哀れな。

 「ずるいずるい!しぃ食べてない!」

 チビギコ達に飛びつくが力の差は歴然。あっという間に投げ飛ばされる。

 「もっと無いんデチか?」

 真っ黒なくりくりとした瞳は警戒心のかけらもなく、間の抜けた表情でねだる。それに伴い他の二匹もぎゃあぎゃあと騒ぎ始める。

 俺はチビフサの暑苦しい茶色い毛を掴み、思いっきり引き抜く。ブチブチと心地よい音と共に叫び声が木霊した。

 「ひぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁあ!フサタンの!フサタンのお毛毛がぁ!」

 毟られて丸裸になった皮膚を抑えながらその場でのたうち回る。

 「ほらそろそろ暑くなる時期だから、な?これは優しさなんだよ」

 「な、何言ってるデチか!」

 「夏毛に早く生え変わるようにーって心を込めて抜いてやってんだ、感謝しろよ」

 「あぎゃぁぁぁあ!!」

 俺は矢継ぎ早に毛を抜いていく。軽快なリズムと聴き応えのある叫び声。

 二匹は腰を抜かしているのか、はたまた自分に危害が加わないと思っているのか立ち尽くしている。

 身体をガタガタと震わせているチビしぃを足で踏み潰し、まばらにはげたチビフサを地面に叩きつける。

 チビギコは案の定友達を置いて逃げ始めていた。おぼつかない足をなんとか急いで回転させている。一センチ程の小さな小石を拾い、チビギコに向かって投げる。

 「はぎゃっ!」

 後頭部に綺麗に命中する。当たった箇所から血が弾け、力なくその場に倒れ込む。久しぶりに投石してみたがなんとかなるもんだな。と場違いなことを考えながら、顔から地面に落ちたチビフサの耳を持ち、体を宙に浮かす。

 「いだい……痛いデチ……」

 両目からはボロボロと涙が流れ始める。死への恐怖に怯えてるのだろうか。

 ポケットから折りたたみ式のサバイバルナイフを取り出し、チビフサの耳を体から切り離す。その衝撃で再び地面に叩きつけられた。

 「ぴぎゃっっあぁあ!」

 うつ伏せの状態になったチビフサを空いている方の足で背中を踏み潰す。そして両足を胴体から切り離した。

 「あーーーー!!!!」

 これでもかと言わんばかりに叫ぶ。痛みとそれに伴う喪失感に耐えられないのだろう。気でも違ったのかと思うような叫びをずっと続けている。

 ふと足元のチビしぃを見つめた。俺と目が会った瞬間、ツンとしたアンモニア臭の漂う尿を漏らし始める。運良くチビしぃの背中を踏み潰していたため、こちらが汚れる事は一切無かった。

 「おいおい、足が濡れたらどう処理してくれんだよ」

 「は、はにゃ……ごめ、ごめんなさい……たすけ、助けて……」

 「どーしようかなぁ」

 下半身がびしょ濡れになったチビしぃを拾い上げ、顔の目の前に持っていく。もう一度地面に叩きつける。

 「ぎゃっ」

 足で頭を踏みつけ、地面に顔を擦り付ける。何度も砂利に引きずり続けると地面がどんどん赤色に染まっていった。

 「はぎゃぁっ!た、たぶけ、たふけ……!ぎぃぃっ!」

 足を離すとチビしぃの顔はすり下ろされており、悲惨な表情わ浮かべている。口の中の砂を吐き出そうとしながら痛みに悶えていた。

 「可哀想になぁ。痛いな。でもおろし金ですられるよりは痛くないよなぁ」

 チビしぃに声をかけるが反応が全くない。自身の痛みだけで手一杯のようだ。

 一メートルほど先にいるチビギコを見つめる。そいつはピクリとも動かないまま地面に伏していた。

 「死んじゃったのか?」

 俺の声に反応することは無かった。しかし近寄ると小刻みに震えている。どうやら生きているようだ。それは良かった。

 「そうか、死んじまったか。あーぁつまらないなぁ」

 その言葉にチビギコは安心したのか、ふぅとため息をついた。本当に騙す気があるのだろうか、こいつは。

 うつ伏せのままのチビギコの目の前にしゃがみこむ。瞼は小さくピクピクと動いている。こちらの様子を確認したいのだろう。

 「まぁ死んでそのままにすると金かかるしゴミはゴミ箱に、だな」

 「いっ、ぎゃぁぁぁああ!!」

 チビギコの真っ黒な左目に指を突っ込む。物をとる方法なんぞ幼少期から覚えているが、そんな真面目に解体してちゃあつまらない。俺は楽しいことの方がいいんだ。人生に飽き飽きしてるんだよ。

 「あれ?おかしいなぁ。死んでるはずなのに声が聞こえる。不思議な事もあるもんだ」

 「いぎゃあぁ!ふっぐ!ふぅ!ゔあぁぁぁ!」

 必死に両手で俺の左手を外そうとする。しかしまぁ力の差は歴然。当然のごとく、か弱すぎる力ではビクリとも動かない。正直子犬がじゃれている程度の力だ。

 「いぃぅぎゃぁぁ!!」

 「おっ、取れた」

 言葉にならない悲鳴をあげる。それと同時にチビギコの左目が取れた。神経がだらしなく空いた左目の穴から垂れていた。

 「ほぉら、チビたんの大事なお目目ですよ」

 「ヂビ!チビダン、のっ!」

 必死に手を伸ばし目を取り返そうとする。なんだか弱いものいじめをしている気になる。

 憐れに思い口の中に目玉を入れてあげる。吐き出さぬように口を手で塞いであげると、よっぽど嬉しかったのだろう。生き物が発する言葉でない声で喚いてくれた。

 「ーーーーっ!!!ーー!」

 何を言っているのかさっぱり分からない。分かるつもりもない。けどそれがまた俺の嗜虐欲を満たしていく。

 「これ食べたら楽にしてあげるよ」

 「っ……!」

 悩んだあげく、大人しく口を動かし始める。クチャクチャと汚い音をたてながらゆっくり咀嚼していく。クチャラーが撲滅しないのは些か納得がいかない。そんな事を考えていながら口を抑えていた。

 「っうぷっぅ!」

 咄嗟にチビギコから離れる。と同時に口から大量の吐瀉物が吐き出された。大して物を食べていないのか胃液が多い。しかしまぁ人が言ったこと守れないなんてなぁ。

 「ぅゲホッ!ゴボッ!」

 「お疲れ」

 悪臭に鼻をつまみたくなるのを抑えて労いの言葉をかける。チビギコは少しだけ安堵したような表情で、汚い顔を向ける。

 「ごれで、ヂビっ、タン……ゲホッ……楽に……なるんデチか?」

 「 あぁ、もちろんだ」

 「よかっ……」

 悲鳴をあげるまもなくチビギコの首と体は離れた。どうしてこうもこいつらは脆いんだろうか。人間などはこんなナイフ如きで簡単に飛ばないだろうに。

 大量の血飛沫が顔にかかってしまった。咄嗟に目をつぶっといて正解だったな。

 後ろを振り向き二匹を見つめる。斑に毛が抜け、足がないチビフサは這いつくばりながら逃げ出そうとしていた。

 一方のチビしぃは動かずにガタガタ震えている。

 ナイフを持って近づくとチビフサは両目から涙をボロボロ零し震え始める。

 「ご、ごめんなさい、デチ!チビしぃタン虐めていいから!ふ、フサタンは逃がして欲しいデチ!フサタンは、悪いことしてな……あぎゃぁぁぁぁぁあっぁあっ!」

 ナイフを使いチビフサの皮膚を削いでいく。子供の時友達とどれだけ綺麗に削げるか勝負した事もあったなぁ。

 ゆっくり丁寧に削いで度にチビフサから断末魔が飛び散る。ある程度削ぎ終えた所で呼吸を整える。如何せん力がいる作業なもので多少の疲れが押し寄せる。

 「いやぁ、ごめんごめん。薬塗ってあげるね」

 「はぎゃ……」

 ポケットにあった練りがらしを筋肉もろ出しになった背中に塗りたくる。外気に触れるだけでも相当痛いのにからしなんて塗られちゃあどれだけ痛いのだろうか。

 「びぎゃぁぁぁぁぁあぁあ!!ゲボっゲホッ!いだっ!いだいぃぃぃぃぃいいいっ!」

 叫びすぎた時に自分の舌でも噛んだのか血を吐き出す。俺はそれを横目で見ながらポケットを探る。

 正直今日は虐殺をする予定が全く無かったため、持ち合わせがない。もうこれ以上の道具はない。

 「しょうがねぇなぁ」

 「ぐぎゃっ!!」

 背中にナイフを突き立てると涙と鼻水、涎、血で塗れた汚い顔がさらに歪む。そのままナイフを下に向けて引き下ろす。切れ目に手を突っ込み左右に開く。ミチミチと音をたてながらチビフサは真っ二つになった。絶命と同時に失禁と脱糞をする。

 「うわっ!」

 予想外の事に咄嗟に避ける。失禁するやつもいるが、こんなに早く出るやつも居るんだなぁ。

 さて残るはチビしぃだけか。

 「はにゃっ!」

 体を大きく震わせる。それを見つめながらチビフサからナイフを外した。箱入りと同じ種族だからつい手加減していたが、そもそもこいつらは箱入りとは百八十度も違うのだ。

 「や……た、たすけ……」

 俺はチビしぃの首にナイフを突き刺す。引き抜くと血が大量に吹き出した。上手いこと大静脈を切れたようだ。

 全てが終わるとやけに静かになってしまった。地面には惨殺死体だけが転がっている。公演に常時設備されている大きなビニール袋を手に取り、死体をかき集める。

 それにしても被虐者達(こいつら)はどうしてこうも脆いのだろうか。どうして被虐者達(こいつら)は殺しても法律違反にならないのだろうか。

 なんでもいいか。俺は今凄く満たされているから。

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